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#272 おじいちゃんのペットドローン
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「ペットがドローンなんて、冗談じゃない!」
そう言って祖父がドローンに箒を振り回したのは、つい三か月前のことだ。
世間では、ドローンがペットとして急激に流行りだしていた。
猫型や犬型のロボットとは違い、ドローンはあくまでもドローンの形をしている。ロボットをかわいいと思う人でないと、この良さはわからないだろう。
ロボットなのに人懐っこくて、飼い主の後を空中でふわふわついて来る姿は、犬型や猫型のロボットに引けを取らない。
しかし祖父は昭和生まれの頑固者で、新しいものが大嫌いだった。
「こんなあからさまな機械をかわいがるなんて理解できない」
だが、父が仕事でどうしても家を空けることになり、祖父と僕だけで一週間を過ごすことになった。
僕はこの機会を逃さず、新型の小型ドローン『フワル』を連れて帰った。
フワルは静かに空中で浮きながら、くるくると回って祖父の周りを飛んだ。祖父は嫌そうに顔をしかめていた。
ある朝、祖父がうっかり眼鏡を見失った。僕も手伝って探したが、なかなか見つからない。
すると、フワルが突然高く浮き上がり、棚の上にある眼鏡を見つけてきたのだ。
「ふん、さすがは『機械』だな」
祖父は皮肉な口調でそう言うと、眼鏡を受け取った。しかしその日から祖父とフワルの距離は縮まり始めた。
それ以来、祖父が何か探し物をするたびに、フワルは率先して見つけ出した。まるでフワルが祖父に気に入られようとしているようだった。
それを受けて祖父は仕方なさそうな顔をしつつ、少しずつフワルを頼るようになっていく。
一週間後、僕が家を離れる時には、祖父はすっかりフワルを自分の側に置いていた。
それから数か月後、久しぶりに実家を訪れた僕は、庭先で祖父とフワルが追いかけっこをしている光景を見て驚いた。
「おじいちゃん、ドローン嫌いだったんじゃなかった?」
僕が尋ねると、祖父は照れながら答えた。
「うむ。フワルだけは特別だ」
その日の午後、祖父と散歩に出かけた時のことだ。突然、祖父が体調を崩して道端に座り込んだ。
「き、救急車を呼ばなきゃ!」
慌てて僕がスマホを取り出そうとした時、フワルが素早く祖父の周囲を飛び回り、赤いランプを点滅させた。
するとどこからともなく数台の救急ドローンが飛来し、祖父の健康状態を即座にモニターし始めたのだ。
病院に運ばれて診察を受けると、幸いにも祖父は軽い貧血だということが判明した。
医師は言った。
「早期に救急ドローンが来てくれて本当に良かったですね」
その言葉に祖父はフワルを見て微笑んだ。
「お前、本当に賢い奴だな」
祖父はそれからますますフワルを可愛がった。
一緒にテレビを見たり、庭を散歩したり、フワルが部屋を飛び回る姿に祖父は心から笑った。
しかし、祖父にとってフワルとの別れが訪れた。
ある日、フワルが異常を起こして突然動かなくなったのだ。
修理に出したものの、内部のチップが破損しており、元通りに動かすことは難しいと診断された。
祖父はがっくり肩を落としてしまった。
「これだから機械は……」
祖父の落胆ぶりはひどく、僕は新しいドローンを買うことを提案したが、祖父は首を振った。
しかしある夜、奇跡的にフワルが自動再起動した。不完全でぎこちない動きだったが、ふらふらと祖父の周りを飛び回り、懸命に赤いランプを点滅させていた。
その姿に祖父は涙を浮かべた。
「もう無理するな。十分だよ。ありがとう」
フワルは静かに祖父の肩に着地し、そのままゆっくりと明かりが消えた。
祖父はフワルを大切に箱に収め、家の棚に安置した。
それ以来、祖父はまた笑顔を取り戻した。そして誰かに尋ねられると、穏やかに答えるようになった。
「ペットがドローン? まぁ、悪くないもんだよ」
そう言って祖父がドローンに箒を振り回したのは、つい三か月前のことだ。
世間では、ドローンがペットとして急激に流行りだしていた。
猫型や犬型のロボットとは違い、ドローンはあくまでもドローンの形をしている。ロボットをかわいいと思う人でないと、この良さはわからないだろう。
ロボットなのに人懐っこくて、飼い主の後を空中でふわふわついて来る姿は、犬型や猫型のロボットに引けを取らない。
しかし祖父は昭和生まれの頑固者で、新しいものが大嫌いだった。
「こんなあからさまな機械をかわいがるなんて理解できない」
だが、父が仕事でどうしても家を空けることになり、祖父と僕だけで一週間を過ごすことになった。
僕はこの機会を逃さず、新型の小型ドローン『フワル』を連れて帰った。
フワルは静かに空中で浮きながら、くるくると回って祖父の周りを飛んだ。祖父は嫌そうに顔をしかめていた。
ある朝、祖父がうっかり眼鏡を見失った。僕も手伝って探したが、なかなか見つからない。
すると、フワルが突然高く浮き上がり、棚の上にある眼鏡を見つけてきたのだ。
「ふん、さすがは『機械』だな」
祖父は皮肉な口調でそう言うと、眼鏡を受け取った。しかしその日から祖父とフワルの距離は縮まり始めた。
それ以来、祖父が何か探し物をするたびに、フワルは率先して見つけ出した。まるでフワルが祖父に気に入られようとしているようだった。
それを受けて祖父は仕方なさそうな顔をしつつ、少しずつフワルを頼るようになっていく。
一週間後、僕が家を離れる時には、祖父はすっかりフワルを自分の側に置いていた。
それから数か月後、久しぶりに実家を訪れた僕は、庭先で祖父とフワルが追いかけっこをしている光景を見て驚いた。
「おじいちゃん、ドローン嫌いだったんじゃなかった?」
僕が尋ねると、祖父は照れながら答えた。
「うむ。フワルだけは特別だ」
その日の午後、祖父と散歩に出かけた時のことだ。突然、祖父が体調を崩して道端に座り込んだ。
「き、救急車を呼ばなきゃ!」
慌てて僕がスマホを取り出そうとした時、フワルが素早く祖父の周囲を飛び回り、赤いランプを点滅させた。
するとどこからともなく数台の救急ドローンが飛来し、祖父の健康状態を即座にモニターし始めたのだ。
病院に運ばれて診察を受けると、幸いにも祖父は軽い貧血だということが判明した。
医師は言った。
「早期に救急ドローンが来てくれて本当に良かったですね」
その言葉に祖父はフワルを見て微笑んだ。
「お前、本当に賢い奴だな」
祖父はそれからますますフワルを可愛がった。
一緒にテレビを見たり、庭を散歩したり、フワルが部屋を飛び回る姿に祖父は心から笑った。
しかし、祖父にとってフワルとの別れが訪れた。
ある日、フワルが異常を起こして突然動かなくなったのだ。
修理に出したものの、内部のチップが破損しており、元通りに動かすことは難しいと診断された。
祖父はがっくり肩を落としてしまった。
「これだから機械は……」
祖父の落胆ぶりはひどく、僕は新しいドローンを買うことを提案したが、祖父は首を振った。
しかしある夜、奇跡的にフワルが自動再起動した。不完全でぎこちない動きだったが、ふらふらと祖父の周りを飛び回り、懸命に赤いランプを点滅させていた。
その姿に祖父は涙を浮かべた。
「もう無理するな。十分だよ。ありがとう」
フワルは静かに祖父の肩に着地し、そのままゆっくりと明かりが消えた。
祖父はフワルを大切に箱に収め、家の棚に安置した。
それ以来、祖父はまた笑顔を取り戻した。そして誰かに尋ねられると、穏やかに答えるようになった。
「ペットがドローン? まぁ、悪くないもんだよ」
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