飼い主が殺し屋だったオレ(猫)の話

†冥羽†

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飼い主は心配症のようです

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殺し屋と暮らすようになって、二週間が経った。

オレは今日も今日とて猫生を満喫している。
ごはんよし。
日向ぼっこよし。
飼い主の膝よし。

完璧である。

(この生活、勝ち組では?)

 
問題が起きたのは、ほんの出来心だった。

 

昼下がり。

相変わらず昼は家で過ごしている。確か今日は夜から仕事のはずだ。
 
窓際の椅子に座って、本を読んでいる。相変わらず全身黒い。家の中でも黒い。

オレは退屈していた。
だって暇なんだもん。

ふと、視界の端に開いている窓が見えた。

(……外、行けるのでは?)

いや、ダメだよ?外は危険。
分かってる。
分かってるけど。

猫の本能がささやく。

行け、と。


気づいたら身体が動いていた。

ひょい。
と、窓枠に飛び乗る。

ふんふんと鼻が動く。久々の外の匂い。日本とは違う街並み。忘れてたけどここ異世界っぽかった。

うにゃうにゃ。尻尾がゆらゆら動く。二週間前死にそうになってたことなんて忘れたかのように、オレはワクワクしていた。

「クロ」

低い声に、ぴたりと動きが止まる。
振り返ると、飼い主が本を閉じていた。

黒い瞳が、まっすぐこちらを見る。

「……そこから落ちたら死ぬ」

(いや一階だし。)

でも言い返せない。
首を傾げてにゃ、と誤魔化してみる。

その一瞬だった。
外から聞こえた、ガタンという音。

オレはびっくりして、足を滑らせた。

「にゃにゃにゃ――ッ!?」

落ちる――!!
 
その瞬間。
黒い影が動いた。

目にも止まらぬ速さで、オレを抱き抱えて着地。
しなやかなその動きはまるで、黒い豹。
 
飼い主は無言で腕の中のオレを確認する。
足、尻尾、頭、順番に触る。

「……怪我は」

(ない。)

オレはぺろ、と飼い主の顎を舐めた。
 
数秒の沈黙。
次の瞬間――ぎゅ、と。

強く、抱きしめられた。

「……外に出るな」

声が低い。
いつもより、少しだけ荒い。

「……俺の見えない場所に行くな」

(あれ?)

飼い主の心臓の音が、早い。

「……攫われたらどうする」

(猫を?)

そんなに危ない世界なのだろうか。好奇心に負けて飛び出さなくて良かった。さっきまでの能天気な自分が怖い。

まどそのまま窓を閉め、鍵をかける。
カチリ、と重い音。

「……何処にも行かせない」

ぽつりと落ちた言葉。

(うん?)

「誰にも触らせない」

(いや、撫でられるのは歓迎だが?)

でも、冗談じゃないのは分かる。
飼い主の目は、本気だった。

その夜。
飼い主は仕事に行かなかった。
電話が鳴っていても出ず、ずっとオレを膝に乗せている。
 
「……クロ」

指が、ゆっくり背を撫でる。

「お前は、俺のだ」

昼よりも静かな声。

「俺だけの黒猫」

(重いな?)

でも嫌じゃない。むしろ――

(あったかい。)

「……失くしたくない」

猫じゃないと聞こえないくらいの声。
オレは顔を上げて、鼻先に自分の鼻をちょん、と当てた。

「にゃ」

(ここにいるよ。)

目が少しだけ揺れる。
次の瞬間ぐい、と。
腹に顔を埋められた。

「……暖かい」

(猫吸い二回目。)

この人はきっと、失うのが怖いのだ。
オレを抱く手だけは、少し震えていた。
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