飼い主が殺し屋だったオレ(猫)の話

†冥羽†

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オレってば魔法が使えたりする?

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ある日の夜。

飼い主は仕事に行っているはずなのに。
玄関の方からガチャリと音が鳴った。
鍵は閉まっている、なのに扉が開く音がした。

(あれ?飼い主早くない?)

呑気にリビングまで出迎えに行って、ピタリと動きを止める。
リビングに立っていたのは、知らない男。

黒いスーツ。
長身。
軽く笑ってるのに、目は笑ってない。

「へえ……本当に飼ってるんだ」

視線が、オレに向く。

 (あ、これ絶対ヤバい人。)

男はオレの方にズカズカと歩いてくる。
一方のオレは逃げ腰。そういえば、飼い主以外の人間を初めて見たかも。

「ゼノが猫ねえ……似合わなすぎだろ」

ゼノ。
多分、飼い主の名前。ゼノって言うのか。

男はしゃがみ込んだ。
オレと同じ目線。

「黒猫か。趣味まで地味だな」

むかっときた。こんなにかわいい猫ちゃんを見て地味だって?

「お前を壊したら、ゼノはどんな顔をするんだろうな?」

そう言って手を伸ばしてきた。

飼い主をいじめるやつ。そう認識した。フシャーッとあまり使ったことのない牙を見せながら威嚇。
その瞬間。身体からなにかが溢れ出る感覚がしてぶわわっと毛が逆立った。青い閃光が走り、男に直撃。

「イッテェ――ッ!?」

(え?)

なんだ今の。オレがやった?もしかして魔法的な??

(オレthueeeeって出来ちゃうのでは??あ、猫だから猫thueeeeになるのか?)

なんて、男のことも忘れて魔法に思いを馳せていたその時。
ぞわ、と背筋が凍るほどの殺気を感じた。

(あ、この殺気は)

飼い主の気配。だが今日はいつもの数倍殺気が強い。
怒っている。

「触ったら殺す。触らなくても見たから殺す」

低い声が、背後から落ちた。
空気が変わる。
 
玄関に立つ黒い影。
コートも脱がず、ただ立っているだけなのに圧がすごい。

男は振り向いて、にやりと笑った。

「久しぶりだな、ゼノ」

飼い主は無言。
黒い瞳が、まっすぐ男を射抜く。

「警戒すんなよ。ただ見に来ただけだ」
「何処で知った」
「俺以外知らねえよ。お前、このところ店に顔出してないだろ。俺はピーンときたわけよ。家に早く帰る理由ができたってな」

男はオレを見た。

(なるほど。オレを飼う前はその店によく行っていたわけだ)

なんの店かは知らないけど、それで怪しまれたと。

「今すぐ帰れ」
 
飼い主が銃を構えた。まってまって、早まらないで。
男は肩をすくめる。

「本当にただの興味本位で見にきただけだ。お前が何に執着してるのか、見てみたくてな」
「……」
「なあ、その猫。本当にただの猫か?」

空気がぴん、と張り詰める。

「さっき、魔法で攻撃されたんだが」

視線が、オレに向く。

「お前の猫、普通じゃないぞ」

体の奥が、じわ、と熱を持つ。
まずい。
また、あの感覚だ。

ぐら、と視界が揺れる。

(落ち着けオレ。落ち着け。)

でも、男の殺気がほんの少し強まった瞬間――

ぱちん。
青い光が弾けた。

空気が震え、テーブルの上のナイフがカタカタと揺れた。
男の目が見開かれる。

「……やっぱりな」

次の瞬間。飼い主が動いた。
気づいたときには、男の首に腕が回っていた。

ドン、と壁に叩きつける。
速すぎて見えなかった。

「興味本位で来たと言ったな」

低い声。

「なら、代償も興味本位で払うか?」

男の喉が鳴る。

「……相変わらず短気だな」

飼い主の指が、わずかに締まる。

「俺の家に無断で入り、俺のものに触れようとした」

“俺のもの”。
心臓がどき、と跳ねた。

「生きて帰れると思うな」

本気だ。
男は初めて焦った顔をした。

「待て、手を出すつもりはない。本当にただ見に来ただけだ」
「関係ない」

冷たい。
あの夜、血を流して帰ってきた時の顔だ。

(飼い主、やりすぎる。)

オレはふらつく体で、ソファから飛び降りた。

「にゃっ!」

飼い主の足元に駆け寄る。
青い光が、まだ身体の周りに揺れている。

飼い主の視線が、一瞬だけこちらに向いた。

その隙。
男は飼い主の腕をすり抜け、距離を取る。

「……はーこわ。今のお前、本気じゃん」

息を整えながら、苦笑する。

「安心しろ。猫のことは口外しない。俺も命は惜しい」
「……二度と来るな」

男は手を上げ、玄関へ向かう。

「分かった分かった。“家族”は大事にしろよ、ゼノ」

パタリとドアが閉まり、静寂が訪れた。

次の瞬間。
ぐらり、と視界が揺れた。

(あ、やば。)

身体が熱い。
青い光が、さっきより強くなる。
ふつふつと身体の内側から湧き上がる熱を抑えきれない。

飼い主が、すぐにオレを抱き上げた。
 
「……クロ」

声が、低い。
でもさっきとは違う。
これは、心配している声だ。

「今のは、お前か」

(多分。)

喉がうまく鳴らない。
体の奥から何かが溢れてくる。

飼い主の手が、オレの背を撫でる。

「大丈夫だ。俺がいる」

その言葉に、少しだけ熱が引いた。
青い光がゆっくり消えていく。

ゼノはオレを胸に強く抱き寄せた。

「……普通じゃなくていい」

ぽつりと落ちる声。

「化け物でも、何でもいい」

黒い瞳が、真っ直ぐオレを射抜く。

「お前は俺の猫だ」

どくん、と心臓が鳴る。

「誰にも渡さない」

その腕は、強くて。
そして、少し震えていて。

(飼い主、重いなあ。)

でも。嫌じゃない。
オレは飼い主の胸に額を押しつける。

「にゃ」

(オレは飼い主の猫だよ。)

ゼノの指が、わずかに食い込む。

「……ああ」

低く、確信めいた声。
オレの声は聞こえてないはずなのに、まるで通じたようでうれしかった。

その夜。
ゼノはまた、一歩も家から出なかった。

電話が鳴っても、無視。

オレを膝に乗せたまま、静かに座っていた。

窓の外は暗い。
でも部屋の中は、あたたかい。

どうやらオレは、普通の猫じゃないらしい。

でもまあ。

(飼い主がいいなら、いっか。)

世界で一番危険な男は、今日もオレを抱いている。
そしてきっと。

オレのためなら、世界ごと敵に回す。

そんな顔をしていた。
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