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鑑定士と、オレが普通じゃない話
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あの事件から三日後。
「行くぞ」
突然飼い主がオレを抱き上げた。
(どこ行くの?デート?)
「にゃ?」
飼い主の知り合いの男が尋ねてきてから三日。
飼い主は明らかに様子がおかしい。
帰宅時間が早い。
電話に出ない。
銃の手入れをしながら、ずっとオレを視界に入れてる。
(重い。)
嫌じゃないけど、重い。猫に向ける感情ではない気がする。
今日は珍しく外套を着ている。
つまり外出。
(やった。)
拾われた日以来、まともに外に出てないから街は久しぶりだ。わくわく。
黒ずくめの男が黒猫を抱いて歩く姿は、どう見ても怪しい。
誰も近寄らない。
飼い主、怖いからね。
「にゃー」
(どこ行くのー?)
「もう着く」
……飼い主、それ答えになってないよ。相変わらず分かりにくい。
辿り着いたのは、路地裏の古い建物。
看板もない。
ドアを開けると、薬草と紙の匂い。
「珍しい客だな」
奥から声がした。
現れたのは、白髪混じりの男。
細い目、ボサボサの髪。かすかに残る煙草の匂い。
(……胡散臭い!)
「ゼノが動物を抱いてくるとは」
飼い主の腕が、わずかに強まる。
「鑑定しろ」
単刀直入。
男はオレをじっと見る。
「ほう」
近づいてくる。
(……煙草臭い。)
「噛むなよ?」
「にゃ」
(場合による。)
男の指先が額に触れた瞬間。
ぞわ、と身体の奥が震えた。
青い光が、ふわりと浮かぶ。
飼い主の気配が一段階冷える。
「……これは」
男の目が、真面目になる。
「魔力持ちだな」
「やはりか」
飼い主は驚かない。
知ってた顔だ。
「量が異常だ。制御はできていないが、意思疎通も可能だろう?」
男がオレを見る。
「言葉、分かってるな?」
オレは目を逸らした。
「に、にゃ~」
(バレてる。)
男は笑う。
「隠すの下手だな」
飼い主の指が、オレの背を撫でる。
「害はあるか」
「今のところはない。だが――」
男は言葉を区切る。
「これは“聖獣”の類いかもしれん」
空気が凍る。
飼い主も予想外の言葉だったようで、言葉につまっている。
(せいじゅう?)
「古い文献にある。高密度魔力を持ち、人の言葉を理解し、特定の個体に執着する存在」
執着。
飼い主の目が細くなる。
「特定の個体?」
「契約に近い。選ばれた側は守護される」
守護。
オレが?飼い主を??護られるのが似合わないこの男を???
(飼い主守ってたの?オレ?)
なんかちょっとかっこいい。
男は続ける。
「力が成長すれば、人型を取る可能性もある」
飼い主の指が止まる。
「……人型?」
「本人の意志によるがな」
……えっ、オレ人になれるの。まあでも戻りたいかって言われたら微妙。猫だったらお世話してもらえるし、可愛がってもらえる。働かなくてもいいし……
オレは何となく、飼い主を見上げた。
黒い瞳が、真っ直ぐこちらを見る。
「……人になるのか」
その声は低い。
怒りでも拒絶でもない。
ただ、何かを測っている。
男は肩をすくめた。
「どうする? 手放すか?」
その瞬間、空気が凍った。
飼い主の視線が、ゆっくり男に向く。
「誰が」
地を這うような低い声が響く。
「そんな話をした」
男が苦笑する。
「相変わらずだな」
飼い主はオレを抱き直す。
それはもう逃げられないようにしっかりと。いや逃げんて。
「こいつは俺の猫だ」
「何であろうと関係ない」
心臓がどく、と鳴る。実はちょっと不安だったオレ。素直にうれしい。
「なら、気をつけろ。聖獣なら狙われるぞ」
「言われるまでもない」
帰り道、飼い主はずっと無言だった。
「にゃ?」
(飼い主?)
「……お前を、閉じ込めはしない」
意外だった。飼い主のことだからオレを外に出さないとか言い出すのかと。
まあ今までも出てなかったから大して変わらないんだけど。
「だが」
黒い瞳が細まる。オレはこの目が好きだ。狙いを定めた黒豹みたいでかっこいい。尚狙われてるのはオレになるけど。
「出ていいのは俺といる時だけだ」
もちろん。飼い主がいないところで勝手に出ないよ。外こわいし。
「にゃ」
分かったよの意味を込めて一鳴き。飼い主はふっと息を吐いた。オレに話が通じてると分かったからか、返事をしたことに「いい子だ」と頭を撫でられた。
オレはもっと撫でて、と手に頭を擦り付けた。
その日から、たまに外に連れていってくれるようになった。オレは飼い主の腕の中だったり、頭の上だったり、肩に乗ってみたり。頭の上は大変興奮した。
気分はお馬さんの上に乗ってる気分だ。高い、すごい。
中でもお気に入りは夜の屋根の上だ。
静かな港。
人気のない丘。
飼い主は無言でオレを抱いて景色を見る。穏やかな時間。
(ロマンチックデートじゃん。)
聖獣らしい。
人になるかもしれないらしい。
でも今はまだ、ただの猫。無口でかっこよくて、ちょっと危険な飼い主の、かわいい猫ちゃん。
オレは飼い主の腕の中で丸くなる。
「にゃ」
(もし何かあっても、オレが守るよ。飼い主。)
飼い主は小さく呟いた。
「……守るのは俺だ」
あれ、なんでオレの言ったこと分かったんだろう。飼い主、心を読む能力でも身につけたんだろうか。
まあ、もし世界が敵でも。
飼い主と一緒なら、オレは幸せな猫ちゃんなのだ。
「行くぞ」
突然飼い主がオレを抱き上げた。
(どこ行くの?デート?)
「にゃ?」
飼い主の知り合いの男が尋ねてきてから三日。
飼い主は明らかに様子がおかしい。
帰宅時間が早い。
電話に出ない。
銃の手入れをしながら、ずっとオレを視界に入れてる。
(重い。)
嫌じゃないけど、重い。猫に向ける感情ではない気がする。
今日は珍しく外套を着ている。
つまり外出。
(やった。)
拾われた日以来、まともに外に出てないから街は久しぶりだ。わくわく。
黒ずくめの男が黒猫を抱いて歩く姿は、どう見ても怪しい。
誰も近寄らない。
飼い主、怖いからね。
「にゃー」
(どこ行くのー?)
「もう着く」
……飼い主、それ答えになってないよ。相変わらず分かりにくい。
辿り着いたのは、路地裏の古い建物。
看板もない。
ドアを開けると、薬草と紙の匂い。
「珍しい客だな」
奥から声がした。
現れたのは、白髪混じりの男。
細い目、ボサボサの髪。かすかに残る煙草の匂い。
(……胡散臭い!)
「ゼノが動物を抱いてくるとは」
飼い主の腕が、わずかに強まる。
「鑑定しろ」
単刀直入。
男はオレをじっと見る。
「ほう」
近づいてくる。
(……煙草臭い。)
「噛むなよ?」
「にゃ」
(場合による。)
男の指先が額に触れた瞬間。
ぞわ、と身体の奥が震えた。
青い光が、ふわりと浮かぶ。
飼い主の気配が一段階冷える。
「……これは」
男の目が、真面目になる。
「魔力持ちだな」
「やはりか」
飼い主は驚かない。
知ってた顔だ。
「量が異常だ。制御はできていないが、意思疎通も可能だろう?」
男がオレを見る。
「言葉、分かってるな?」
オレは目を逸らした。
「に、にゃ~」
(バレてる。)
男は笑う。
「隠すの下手だな」
飼い主の指が、オレの背を撫でる。
「害はあるか」
「今のところはない。だが――」
男は言葉を区切る。
「これは“聖獣”の類いかもしれん」
空気が凍る。
飼い主も予想外の言葉だったようで、言葉につまっている。
(せいじゅう?)
「古い文献にある。高密度魔力を持ち、人の言葉を理解し、特定の個体に執着する存在」
執着。
飼い主の目が細くなる。
「特定の個体?」
「契約に近い。選ばれた側は守護される」
守護。
オレが?飼い主を??護られるのが似合わないこの男を???
(飼い主守ってたの?オレ?)
なんかちょっとかっこいい。
男は続ける。
「力が成長すれば、人型を取る可能性もある」
飼い主の指が止まる。
「……人型?」
「本人の意志によるがな」
……えっ、オレ人になれるの。まあでも戻りたいかって言われたら微妙。猫だったらお世話してもらえるし、可愛がってもらえる。働かなくてもいいし……
オレは何となく、飼い主を見上げた。
黒い瞳が、真っ直ぐこちらを見る。
「……人になるのか」
その声は低い。
怒りでも拒絶でもない。
ただ、何かを測っている。
男は肩をすくめた。
「どうする? 手放すか?」
その瞬間、空気が凍った。
飼い主の視線が、ゆっくり男に向く。
「誰が」
地を這うような低い声が響く。
「そんな話をした」
男が苦笑する。
「相変わらずだな」
飼い主はオレを抱き直す。
それはもう逃げられないようにしっかりと。いや逃げんて。
「こいつは俺の猫だ」
「何であろうと関係ない」
心臓がどく、と鳴る。実はちょっと不安だったオレ。素直にうれしい。
「なら、気をつけろ。聖獣なら狙われるぞ」
「言われるまでもない」
帰り道、飼い主はずっと無言だった。
「にゃ?」
(飼い主?)
「……お前を、閉じ込めはしない」
意外だった。飼い主のことだからオレを外に出さないとか言い出すのかと。
まあ今までも出てなかったから大して変わらないんだけど。
「だが」
黒い瞳が細まる。オレはこの目が好きだ。狙いを定めた黒豹みたいでかっこいい。尚狙われてるのはオレになるけど。
「出ていいのは俺といる時だけだ」
もちろん。飼い主がいないところで勝手に出ないよ。外こわいし。
「にゃ」
分かったよの意味を込めて一鳴き。飼い主はふっと息を吐いた。オレに話が通じてると分かったからか、返事をしたことに「いい子だ」と頭を撫でられた。
オレはもっと撫でて、と手に頭を擦り付けた。
その日から、たまに外に連れていってくれるようになった。オレは飼い主の腕の中だったり、頭の上だったり、肩に乗ってみたり。頭の上は大変興奮した。
気分はお馬さんの上に乗ってる気分だ。高い、すごい。
中でもお気に入りは夜の屋根の上だ。
静かな港。
人気のない丘。
飼い主は無言でオレを抱いて景色を見る。穏やかな時間。
(ロマンチックデートじゃん。)
聖獣らしい。
人になるかもしれないらしい。
でも今はまだ、ただの猫。無口でかっこよくて、ちょっと危険な飼い主の、かわいい猫ちゃん。
オレは飼い主の腕の中で丸くなる。
「にゃ」
(もし何かあっても、オレが守るよ。飼い主。)
飼い主は小さく呟いた。
「……守るのは俺だ」
あれ、なんでオレの言ったこと分かったんだろう。飼い主、心を読む能力でも身につけたんだろうか。
まあ、もし世界が敵でも。
飼い主と一緒なら、オレは幸せな猫ちゃんなのだ。
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