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3章 王宮魔法使い
21ー3.襲撃と真実
しおりを挟む坂を駆け上り、俺が館に着いた時、館は燃えて———いるわけでもなく、死体が量産されて——いる訳でもなかった。
即ち館は変わらない姿をしていた。
俺はホッとして肩をなでおろすと息を整えながら館の中へと向かう。
あの変人集団野郎らは苦し紛れの嘘を言ったらしい。良かった。
・・・ん?、いや待てよ。館は無事でも攫われたエミリアは?
俺はもしかしてとんでもないミスをしたのでは無いんだろうか。
目の前で変なモノを見せられて頭が回っていなかった。
全て奴らの術中にハマっていたということか...!?
「う.....おぃ....レイか....」
そんな時、気にも留めていなかった草陰から声が聞こえた。聞き覚えのある声。
草をかき分けると見覚えのある騎士がいた。
胸には矢が刺さり、鎧は壊れかけ。出血も酷い。
到底治せるとは思えず医者でも匙を投げるだろう。そんな騎士が目の前に横たわっていた。
「ど、どうしたんですか!?」
「と、盗賊が.....盗賊が襲ってきたんだ....ゲホッ..」
「なっ!」
そんなこと言われてもとても襲撃を受けたようには見えない。血の跡や匂い、ましてや敵の姿すら一つも無い。
いや———エメリアを攫ったような盗賊がわざわざ煙を上げて大胆に襲撃なんてするか?
いやしない。
周囲の騎士、館内の騎士、そして———とじわじわ攻めたに違いない。
まるでアサ○リのように。
「ぉ、俺に構わず行けっ....」
「......っ!」
俺は踵を返すと館へ走った。
大きなドアを開け、綺麗な赤いカーペットの上をズンズン走っていく。
中は綺麗だった。しかしそれが何だというのか。返り血も残さない達人集団かもしれないのだ。
途中の部屋に潜まれていて油断した途端ガブリ、では笑い話にもならない。
しかし俺は何人か部屋に潜んでいるかと思っていたが、実際には誰もいなかった。
どういうことだろうか。交戦した跡もなければ死体もない。
流石にこれはおかしい。
そんな思いを抱きながら、ついに大広間へと繋がる扉に辿り着いた。
今まで盗賊は姿すら見ていない。
まるで本当に襲撃されているのか、というぐらいに思えるが、思えばこの館の今の静けさは異様だ。普段はもっと騒がしい。というかうるさい。
何かしらの異常があることは間違いない。
「・・ふぅーー」
俺は扉に手をかけ、息を吐いた。
仮にも盗賊。怖いものは怖い。いくら俺が強くなっていようとだ。あの戦争から2年が経って俺が成長したとはいえ、怖いものは怖いのだ。
だが、そうも言ってられない。
「・・・よしっ!」
俺は決心してドアを開けた———
「「「「「おめでとう!!」」」」」
「ーーーーーーーえ?」
何が?
ドアを潜り抜けた先に待ち構えていた景色は余りに予想に反した拍子抜けするものだった。
攫われたはずなのに、満面の笑みをするエミリア。
ニコニコと笑みを浮かべる領主。
さらには気難しい顔をしながらも何か嬉しそうなガドもいた。
そのみんなが俺を見て拍手しているのだ。
「え?」
何これ。
俺は確か盗賊退治してたはずだよな.....?
それがどうしたらこんなホームパーティになるんだ?
夢?実は死んでいて死後の夢なのか?
「何ぽかんとしてるんですか!今日はレイが主役ですよ」
後ろに回ったエミリアに背中を押され、大広間のど真ん中に連れて行かれる。
まさか盗賊団の幻覚?
いや、この匂いは本物だ。エミリアから香るふんわりとした優しい匂い。間違いない。
ちなみに俺も変態ではない。
「・・・一体どういうことですか?」
「ふっふー!今日はレイがここへきて2年目の日なんですよ!サプライズしようとみんなで準備してたのです!」
「と、盗賊は.....?」
「あれはマリアさんとリーナさん、それにガーベルさんに協力してもらいました。この準備のために遠ざける必要がありましたからね」
「じゃ、じゃあエミリア様が攫われたってのは....」
「嘘です」
ぺかーとニッコリしたエミリアの笑顔が光る。
「な、なんじゃそりゃ....」
嬉しいよりも困惑が先に来た。
俺がどれだけ心配して走り回ったと思ってんだ!
もう足ガクガクだよっ!
そんな頭を抱える俺を心配そうにエミリアが覗き込む。
「そ、そんな嫌でしたか?ごめんなさい走り回しちゃって。違うものにすればよかったですね」
目に見えて落ち込むエミリア。
なんだこの罪悪感は。
「いやそんな事無いです!嬉しいですよ!?ただびっくりしちゃっただけで!ほら、ハッピーハッピー!」
「そう?それなら良かった」
フフフと笑みを浮かべるエミリア。それを見ただけで今日の疲れは取れましたとも。
実際、今日はエミリアのために走り回っていた訳で、結果何にも無かったから良いじゃないか。
ん?まあいいんだ小さい事は気にしなくて。
「そんな訳で、私達からレイヘ、プレゼントを用意しているの」
エミリアのその言葉にモーゼの海割りのように人ごみから現れてきた領主が前に出る。
領主よ。わかっているな?
プレゼントは僕の娘だよっ!バーンッ!なんて展開を私は望んでいるぞ?
「プレゼントはこれさっ!」
と、領主が木の棒を渡してきた。
ふざけてんの?
と言いたくなるがコレは杖だ。それも恐らく良いやつ。
娘さんじゃなかったのは残念だが、嬉しいプレゼントだった。
「原材料はトレイバルの原木でね。ネルンの魔香水を練り込み地竜の角で加工してある。国一番の杖職人に作らせた特注品さ。
これは君の相棒にピッタリだと思うが......どうだろうか?」
「お、おお...」
俺はしっかりと杖を受け取ると、改めて慎重に触ってみた。
すると、俺に反応するかのように杖の魔力が同調し、思わず身震いをする。手のフィット感も中々。
魔香水だとか竜の角だとかはよくわからないが、何となくわかる。
これはものすごい杖かもしれない。
「......ありがとうございます!最高です」
「そう言ってもらえると助かるよ。そして、プレゼントはこれだけじゃない!」
いつの間にか太鼓を前にかけていた執事たちがドゥルドゥル太鼓を鳴らす。
そしてジャーン、とシンバルがなった。
「それは僕の娘のエミリアさっ!」
「「えっ」」
同時に目と目が合い、エミリアがぽかりと目を見開く。
場には妙な雰囲気が流れた。
「・・・なーんてね!冗談だよ冗談!・・・って何その反応」
「・・・いえ、流石に死んでほしいと思っただけです」
「そうですね。それには私も賛同します」
「こわいっ!」
ペロリと舌を出す領主の後ろにガドが「ゴゴゴゴ」と効果音がつきそうなぐらい厳つい顔をして立っているのは黙っておこう。
「うわぁ!ガドいたのか、って怖いよ」
「俺の息子を誑かさないで下さい....」
「冗談に決まってるじゃ.....痛い!痛いよそれ!」
今日の主役である俺を放っておき、領主とガドの周りにガヤガヤ人だかりが出来る。
そんな騒がしさを見ながらエミリアは呟いた。
「今日はありがとうございます」
「それは僕のセリフじゃないですか?」
「いいんです。レイが楽しそうにしているだけで私も楽しいんです」
「そうですか....」
再び沈黙が流れる。
ただ、不思議と苦痛では無かった。
「僕こそ今日はありがとうございました」
「ふふ大成功でしたね」
「今度はエミリア様の誕生日にやりましょう」
「・・・その時はプレゼント、期待していますね」
エミリアはパチリとウインクし、少し顔を赤くするとその場を去っていった。
癒しオーラ100%だ.....。
今日が今までで一番いい日かもしれない。
その後、酔っ払った領主に絡まれたのが無ければの話だがな。
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