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7話暗殺チート集団*ライトナイン*

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 謎の男。 俺が見た瞬間に感じた印象だ。 謎のオーラを放ちつつ、俺たちのようなプレイヤーキラーの不気味なモノは一切感じ取れない。 ひときわ眩い輝きを放つ男だ。

 ワックスか何かで固められた髪は今時の若者のような雰囲気を出しており、長時間眺めていると目が痛くなるような爽やかな青年だ。

 「みんな近くに集まってくれないか?」
 
 椅子にかけた男は全員に集合をかける。 キリがいち早く一言返事するとかけていき、それに連れられるかのよう全員がその男の元へ行く。 不思議だ、たった一言で全員が何も言わずに行動する。 その間に無駄な動作は含まれていない、あのパーマ男でさえ背筋が伸びておりどこか怖がっているかのように見える。

 「んじゃまぁ俺らも集合するか」
 「あぁ」

 シュウジの後を追い俺も男の目の前に歩み寄る。 場所的には俺を真ん中にする感じに全員が横にずらりと並ぶ形になった。 

 「キリありがとう」
 「はいっ! もっと任務言ってくださいっ」

 キリがぱぁっと顔を明るくして応える。 男は優しく笑ってから向き直る。 その視線の先にいるのは俺だ、そして目は一気に鋭くなった。

 「アユキだな」
 「あ、えっとそうです」

 どうしてだろうか同じ年ぐらいなはずなのに自然と敬語で返してしまった。 それだけこの男の瞳に圧倒された。 
 すると、男は立ち上がり俺の前まで寄ってくる。 その足音でさえ俺の心は鼓動を早くする。

 「ようこそ裏攻略ギルドへ。 又の名は暗殺チート集団『ライトナイン』へ。 俺はこのギルドのリーダー、ユウトだ」

 差し伸べられた手に俺は軽く握る。 ユウトは爽やかな笑みを浮かべた。

 「アユ。 お前はまだ決断してないな。 一応キリに連れられてきただけといった所か?」
 「え?」

 俺のことをいきなりあだ名で呼ばれたことに驚いたのも一つだが、それ以上に俺の考えていたことをまるで読み取ったかのように聞かれたことに驚いた。 実際、俺はギルドに入りたくない。 暗殺者だらけだからとかじゃなくきっと攻略ギルドから声をかけられても断るだろう。

 ソロに強い思いれもないし、メリットもない。 どちらかと言うとデメリットばかりだ、でも俺はソロであり続けたいと思った。 でもこの雰囲気の中、入りざるえない空気で断れる勇気もなく。 ならいっそうもう入ってしまおうかと考えていた所だ。

 ユウトの発言にパーマ男が驚いたように口を挟む。

 「アユキくぅんマジでいってのぉ?」
 
 その一言に場の全員が俺に視線を送る、裏切り、心配、見損ない。 いろんな感情が混じっていそうなそんな視線。 さっきも思ったが、どうして俺がここまで期待された、スーパースターのような扱いを受けているのか。

 するとユウトは手を叩きと乾いた音で一度場を落ち着かせる。

 「別に悪いとかそいう意味じゃない。 ただ、君の目はどこか逃げたがっているからな」
 「そうですね。 いや、俺はソロでやって行くと決意してるので」

 言ってしまった。 もう後戻りは出来ない発言を全員の前でした。 

 「そうか……。 俺も無理に入れようとかはしない。 なんならアユの意見を尊重してやる」

 意外な言葉が返ってきた。 それは何も誘っていた方が言う言葉ではない。 なんなら他のみんなも何かしらの反応をしているからだ。 でもリオンだけは表情を一切変えず、ただただユウトだけを見ている。

 「なら俺はギルドに……」
 「でもな、これは命令だ」
 「へ…………」
 「俺の命令に背くことは許さない。 アユがソロにかける大きな思いがあるにしよ、俺にもこのギルドを作るにあたって抱いた決意と目標がある。 それにはアユの力は必要不可欠だ。 だからこれは命令だ。 アユお前はこのギルドに入れ」

 ユウトの雰囲気が変わる、そしてこの男がどうしてこれだけの組織をまとめているのかが分かった。
 それはユウトにしかない気。 正義感でも信頼感でもない。 この男に長けた力は支配だ。 誰にも逆らわせない、反論の余地すら与えない。 悪魔ではない神だ。 全てをひれ伏せる神。 元に俺は口ごもってしまい言葉が出てこない。

 「返事は聞かないさ。 アユはもうこのギルドにいる。 いや今は居るだけでいい」

 ユウトはそう言い残すと椅子にかけ。 両腕で頬杖をついた。

 「アユキ君の件が終わったのなら、このギルドの目的を言ってもらってもあいかしら?」

 しばし流れた沈黙を破ったのは冷たい声音だ。 リオンは不機嫌そうな表情で呟いた。

 「何も言わずに集めて申し訳ない。 今からこのギルドについて話す。 みんなはリラックスしながら聞いてくれ」
 
 全員が無言で態勢を緩める。 ユウトは場を落ち着かせ切り出した。

 「まず、みんなに問いたい。 これはゲームだと思うか?」

 全員がそれぞれ目を見合わせ首を傾げる。 するとミヤビが重い口を開くかのように張りのない声で言う。

 「もちろん……。 アタシは忘れない。 アナザーワールド・オンラインがゲームであることを……」
 「そうか。 他のみんなも同じようなことを考えているだろう。 
 じゃあ次だ。 みんなはこのゲームを終わらしたいか?」

 その一言に俺の脳は一瞬で答えを出し、それを身体に伝える。

 「クリアしたい」

 俺の消えそうな声は思いのほか部屋に響き渡る。

 「俺もだ。 こんなところにずっと入れるかよ」

 俺の意見に賛同するかのようにシュウジが反応する。
 ユウトは軽く頷くと何かを決意したかのような表情を浮かべた。

 「俺の目には狂いは無かった。 やっぱりみんなの力が必要だ。 俺はこのゲームをクリアするためにギルドを作った」
 「クリア?」

 誰かが繰り返すように呟く。

 「そう。 これはゲームだがゲームじゃない。 すでにゲームバランスは崩れている。 その要因はプレイヤーキラーの存在。 そしてプレイヤーがこの世界から逃げ出した始めたことだ」
 「それはどいう意味か説明してもらえる?」
 「簡単にいうなら、今この世界のプレイヤーの敵はプレイヤーであるということ。 君達を含め指名手配者と呼ばれる者は今十万人近くいるそうだ。 そいつらがまずゲームを崩壊させた奴らだ」

 俺は今どんな表情をしているのだろうか。 指名手配者は自分にも当てはまる、自分がこの世界をおかしくした? 他のみんなも複雑な表情を浮かべている。

 「だがそいつらが全て悪いわけじゃない。 多くのプレイヤーはもう諦めてるからな、このゲームは現実だと自己暗示をかけるように」
  「確かに……。 私が拠点を置いていた、十七区の街ではプレイヤーが店を出して普通に暮らしてた。 武器も装備も付けず、NPCと同様に暗い表情をして」

 フールが重い引きずる声を発する。 
 脱出不可能なデスゲーム、そこに囚われた以上、普通の人間なら救済を願い、怯えながら暮らすのは仕方ない。

 「表では攻略ギルドが動いているが、未だクリアの方法は解明されていない。 時間は無限だが俺達が使えるのはほんの一部なんだ。 俺はこのゲームを終わらしたい。 そのためにみんなをギルドに招待した。 理由はそれだけだ」
 「そうね。 クリアするのに反対する者はいないわ。 でも主に何をするか、重要なところはそこなのよ。 あなたは全面的に信用なんて出来ない」

 さすが己の信念を曲げないリオンさん。 これにはユウトでも苦笑を浮かべる。

 「大まかには他のプレイヤーの頼み事を聞く。 ボスモンスターの討伐。 そして攻略ギルドのマスターの首を取ることだ」
 『なっ!?』

 全員が目を見開き口を揃える。 その一言に思考が一瞬低下した。 
 するとユウトは一度席を立ち、赤と白のラインが入ったローブを身体にまとう。

 「中途半端なところで申し訳ないが重要な用がある。 個人への次の作戦はこの紙にまとめている。 俺が次帰るのは三日後になる。 その時また続きを話そう」

 誰もがその後ろ姿を止めることなく話はブッチリと切断された。 
 机には八枚の紙が無造作に散らばっている。 無音の空間、俺はどっと力が抜けた。

 
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