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嵐の前の静けさ(数子)
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熱く優しい抱擁のあと、鈴田先生は、お父さんに結婚の許しをもらいに行こう、と言ってくれた。
家に電話を掛け呼び出し音を聞きながら、昨日の夜の事を考えていた。
実は昨夜お父さんから、
『良かったら、そのうち彼氏を家に連れてきなさい』
と言われていたのだった。
私がこのところ立て続けに結婚式にお呼ばれしたり、昨日は花嫁のブーケを持ち帰ったりしたから、気持ちが盛り上がったのだろうか。
『そのうちね』
と曖昧に答えたけれど、まさか翌日こんな急展開になるなんて。
今もなんだか夢の中にいるような気分だ。
呼び出し音が止んで、お父さんが出た。
短い遣り取りのあと、本題に入る。
「……あのね……お父さん、急なんだけど彼に会ってもらいたいの。一時間半くらい後に、家に連れて行っても良い?」
緊張や気恥ずかしさで口の中はカラカラだし、声が上ずってしまう。
私の話を聞きながら、お父さんもちょっと慌てているようだった。それでも、
『そうか……分かった。良いよ、連れて来なさい。お父さん、待ってるからな……気を付けてくるんだぞ』
と明るく返事をしてくれた。
彼氏として鈴田先生を家に連れて行き、しかも結婚を許して欲しいなんて言ったら、お父さんは腰を抜かさんばかりに驚くに違いない。
同じ会社の彼氏は?
と聞かれるかもしれないけれど、お父さんの入院前に別れていたと正直に話そう。
鈴田先生に目移りして別れたなんて思われたら、嫌だし。
お父さん、鈴田先生のことが大好きだから、きっと喜んでくれるはず。
この時私は単純に、そんなことを考えていた。
*
車で家に向かう途中、デパートへ寄った。
お父さんが大好きな『やらと』の和菓子を、先生が手土産として買うためだ。
それにしてもデパートの近くや店内で、向こうから歩いて来る女の子の何人もが、先生を見つめ、かっこいい~! という表情をするのは、ちょっと快感だ。
でも、手を繋いでいる私にもれなく視線を移し、えっ、何でこの子なの!? みたいな顔をして、先生と私の間で何度も視線を往復させるから、かなり複雑でもある。
ま、気にしても仕方がないか……。
親への挨拶という事で、先生は白いワイシャツにえんじ色のネクタイを締め、紺のスラックスを穿いている。
家に着くまではスーツのジャケットは脱いでいるので、薄いワイシャツ越しに、筋肉質な体幹や肩幅の広さが窺い知れる。
メンズのファッション雑誌の表紙から抜け出してきたようで、本当に素敵だ。
私、こんな人とさっき、あんな事やそんな事……
ボッ(顔面発火)
ん…、んんっ
でも、この人なら選り取り見取りなはずなのに、どうして私なのかと、最近ふっと疑問に思う事がある。
お父さんに恨みがあると言うけれど、私には慕っているようにしか見えない。
昨日もお父さんに誘われて、家に遊びに来てくれたし。
人の心は多面体だから、敬愛する一方で憎悪してる……という感じでもないような。
なんて思っていると、切れ長の目と視線がぶつかる。
「ん? 数子アホ面して俺に見とれてるのか?」
「アホって……、違うからっ、見とれてないからっ!」
数秒後には、お互いクスクス笑い合う。
こんな何でもないひと時が、堪らなく愛しかった。
家に電話を掛け呼び出し音を聞きながら、昨日の夜の事を考えていた。
実は昨夜お父さんから、
『良かったら、そのうち彼氏を家に連れてきなさい』
と言われていたのだった。
私がこのところ立て続けに結婚式にお呼ばれしたり、昨日は花嫁のブーケを持ち帰ったりしたから、気持ちが盛り上がったのだろうか。
『そのうちね』
と曖昧に答えたけれど、まさか翌日こんな急展開になるなんて。
今もなんだか夢の中にいるような気分だ。
呼び出し音が止んで、お父さんが出た。
短い遣り取りのあと、本題に入る。
「……あのね……お父さん、急なんだけど彼に会ってもらいたいの。一時間半くらい後に、家に連れて行っても良い?」
緊張や気恥ずかしさで口の中はカラカラだし、声が上ずってしまう。
私の話を聞きながら、お父さんもちょっと慌てているようだった。それでも、
『そうか……分かった。良いよ、連れて来なさい。お父さん、待ってるからな……気を付けてくるんだぞ』
と明るく返事をしてくれた。
彼氏として鈴田先生を家に連れて行き、しかも結婚を許して欲しいなんて言ったら、お父さんは腰を抜かさんばかりに驚くに違いない。
同じ会社の彼氏は?
と聞かれるかもしれないけれど、お父さんの入院前に別れていたと正直に話そう。
鈴田先生に目移りして別れたなんて思われたら、嫌だし。
お父さん、鈴田先生のことが大好きだから、きっと喜んでくれるはず。
この時私は単純に、そんなことを考えていた。
*
車で家に向かう途中、デパートへ寄った。
お父さんが大好きな『やらと』の和菓子を、先生が手土産として買うためだ。
それにしてもデパートの近くや店内で、向こうから歩いて来る女の子の何人もが、先生を見つめ、かっこいい~! という表情をするのは、ちょっと快感だ。
でも、手を繋いでいる私にもれなく視線を移し、えっ、何でこの子なの!? みたいな顔をして、先生と私の間で何度も視線を往復させるから、かなり複雑でもある。
ま、気にしても仕方がないか……。
親への挨拶という事で、先生は白いワイシャツにえんじ色のネクタイを締め、紺のスラックスを穿いている。
家に着くまではスーツのジャケットは脱いでいるので、薄いワイシャツ越しに、筋肉質な体幹や肩幅の広さが窺い知れる。
メンズのファッション雑誌の表紙から抜け出してきたようで、本当に素敵だ。
私、こんな人とさっき、あんな事やそんな事……
ボッ(顔面発火)
ん…、んんっ
でも、この人なら選り取り見取りなはずなのに、どうして私なのかと、最近ふっと疑問に思う事がある。
お父さんに恨みがあると言うけれど、私には慕っているようにしか見えない。
昨日もお父さんに誘われて、家に遊びに来てくれたし。
人の心は多面体だから、敬愛する一方で憎悪してる……という感じでもないような。
なんて思っていると、切れ長の目と視線がぶつかる。
「ん? 数子アホ面して俺に見とれてるのか?」
「アホって……、違うからっ、見とれてないからっ!」
数秒後には、お互いクスクス笑い合う。
こんな何でもないひと時が、堪らなく愛しかった。
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