平凡OLとイケメンドクター 

紅牡丹

文字の大きさ
59 / 77

嵐の前の静けさ(数子)

しおりを挟む
熱く優しい抱擁のあと、鈴田先生は、お父さんに結婚の許しをもらいに行こう、と言ってくれた。

家に電話を掛け呼び出し音を聞きながら、昨日の夜の事を考えていた。

実は昨夜お父さんから、
『良かったら、そのうち彼氏を家に連れてきなさい』
と言われていたのだった。

私がこのところ立て続けに結婚式にお呼ばれしたり、昨日は花嫁のブーケを持ち帰ったりしたから、気持ちが盛り上がったのだろうか。

『そのうちね』
と曖昧に答えたけれど、まさか翌日こんな急展開になるなんて。
今もなんだか夢の中にいるような気分だ。

呼び出し音が止んで、お父さんが出た。
短い遣り取りのあと、本題に入る。

「……あのね……お父さん、急なんだけど彼に会ってもらいたいの。一時間半くらい後に、家に連れて行っても良い?」

緊張や気恥ずかしさで口の中はカラカラだし、声が上ずってしまう。

私の話を聞きながら、お父さんもちょっと慌てているようだった。それでも、
『そうか……分かった。良いよ、連れて来なさい。お父さん、待ってるからな……気を付けてくるんだぞ』
と明るく返事をしてくれた。

彼氏として鈴田先生を家に連れて行き、しかも結婚を許して欲しいなんて言ったら、お父さんは腰を抜かさんばかりに驚くに違いない。

同じ会社の彼氏は? 
と聞かれるかもしれないけれど、お父さんの入院前に別れていたと正直に話そう。
鈴田先生に目移りして別れたなんて思われたら、嫌だし。

お父さん、鈴田先生のことが大好きだから、きっと喜んでくれるはず。

この時私は単純に、そんなことを考えていた。



車で家に向かう途中、デパートへ寄った。
お父さんが大好きな『やらと』の和菓子を、先生が手土産として買うためだ。

それにしてもデパートの近くや店内で、向こうから歩いて来る女の子の何人もが、先生を見つめ、かっこいい~! という表情をするのは、ちょっと快感だ。

でも、手を繋いでいる私にもれなく視線を移し、えっ、何でこの子なの!? みたいな顔をして、先生と私の間で何度も視線を往復させるから、かなり複雑でもある。

ま、気にしても仕方がないか……。

親への挨拶という事で、先生は白いワイシャツにえんじ色のネクタイを締め、紺のスラックスを穿いている。
家に着くまではスーツのジャケットは脱いでいるので、薄いワイシャツ越しに、筋肉質な体幹や肩幅の広さが窺い知れる。

メンズのファッション雑誌の表紙から抜け出してきたようで、本当に素敵だ。

私、こんな人とさっき、あんな事やそんな事……

ボッ(顔面発火)

ん…、んんっ

でも、この人なら選り取り見取りなはずなのに、どうして私なのかと、最近ふっと疑問に思う事がある。

お父さんに恨みがあると言うけれど、私には慕っているようにしか見えない。
昨日もお父さんに誘われて、家に遊びに来てくれたし。
人の心は多面体だから、敬愛する一方で憎悪してる……という感じでもないような。

なんて思っていると、切れ長の目と視線がぶつかる。

「ん? 数子アホ面して俺に見とれてるのか?」

「アホって……、違うからっ、見とれてないからっ!」

数秒後には、お互いクスクス笑い合う。

こんな何でもないひと時が、堪らなく愛しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

密室に二人閉じ込められたら?

水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...