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他愛もない話
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爺さんは、文庫本を読み始めた。
『独眼竜』
ああ、政宗か。
恐らく小学生向けと思しきその本は、ページが捲れ上がっていて、随分読み込まれた跡があった。
爺さん歴史好きか?
などとちらりと思いながら、俺は今朝読みかけだった経済新聞をバッグから取り出し読み始めた。
30分くらい経った頃、行き成り隣からしわがれた声で話しかけられた。
「兄さん、卵食うかい?」
爺さんは、駅の売店で売っている2個入りのゆで卵の一つを、俺に差し出した。
「あ、え? 良いんですか?」
ああ、と頷く爺さん。俺は少し驚いたが、厚意に甘える事にした。
「遠慮なく頂きます」
始めて食べる売店のゆで卵は、塩味がきいていてビックリするほど美味かった。
「あ、これ旨いですねえ!!」
「だろう? 卵料理の中でコレが一番うめぇんだよ」
爺さんはカップ酒を飲みながら、ちょっと勝ち誇ったように言った。
ちっこい爺さんとゆで卵・カップ酒・季節外れのボロセーターは、かなり寂しいコラボレーションだ。
「歴史、お好きなんですか?」
「まあな……。これが俺の愛読書よ」
何気なくふった話に、爺さんは小学生用の文庫本をかざしながら機嫌良さそうに答えた。
爺さん、もしかして話し相手が欲しかったのか?
俺は死んだ爺ちゃんを思い出し、少し切ない気分になった。
その後俺たちは取り留めもない会話をした。
俺が経済新聞を読んでいたからか、爺さんは政治や経済関連の事にもちらりと話を向けた。
この爺さんに政治経済の事が分かるとは思えないが、俺は爺さんに恥をかかせないように気を遣いながら、当たり障りのない政治や経済ネタを話した。
爺さんは話が分かっているかは怪しいものの、『うんうん』『そうだな』『確かに』などと、俺に相槌を打っていた。
話はいつの間にか、先月の経団連の人事に及んでいた。
「亀川さんが会長だと、金融業界に良いように操られそうで、ちょっと嫌なんですよねぇ……」
独り言感覚で、うっかり小難しい事を言ってしまった。
『確かにな』とか適当に言って流してくれ……。
「確かにな」
よしいいぞ!
「亀川については賛否両論だけど、俺は結構かってんだよ。あいつは風采も上がらねぇし、根っからの技術屋だから口数も少なくて、頼りない感じがするかもしれないが、職人気質でブレねぇ信念持ってる。俺は会長就任賛成だけどなぁ」
爺さんの言葉の淀みのなさに驚いた。
そう言えば、鈴木常務も似たような事言ってたなぁ……。
「ところで兄さん、どこまで行くんだい?」
「大阪です。友達の披露宴があるので」
「そうか……。兄さん、結婚は?」
「独身です。実は上司の勧めでさっき見合いをしたんですが……」
はははと誤魔化すように笑うと、爺さんもちょっと笑って、
「気に入らなかったのかい?」と。
「ええ、まあ……」
「俺が言う事じゃねえが、人なんて一回会ったくらいじゃ分からねえもんよ。最初はパッとしない印象でも、案外かけがえのねえ存在になるかも知れねえよ」
あの子はゼッタイならないよ!
「そうですかねぇ……」
俺は軽く受け流し、会話は何気なくストップした。
そしてしばらくの沈黙の後、爺さんは問わず語りに自分の話をし始めた。
『独眼竜』
ああ、政宗か。
恐らく小学生向けと思しきその本は、ページが捲れ上がっていて、随分読み込まれた跡があった。
爺さん歴史好きか?
などとちらりと思いながら、俺は今朝読みかけだった経済新聞をバッグから取り出し読み始めた。
30分くらい経った頃、行き成り隣からしわがれた声で話しかけられた。
「兄さん、卵食うかい?」
爺さんは、駅の売店で売っている2個入りのゆで卵の一つを、俺に差し出した。
「あ、え? 良いんですか?」
ああ、と頷く爺さん。俺は少し驚いたが、厚意に甘える事にした。
「遠慮なく頂きます」
始めて食べる売店のゆで卵は、塩味がきいていてビックリするほど美味かった。
「あ、これ旨いですねえ!!」
「だろう? 卵料理の中でコレが一番うめぇんだよ」
爺さんはカップ酒を飲みながら、ちょっと勝ち誇ったように言った。
ちっこい爺さんとゆで卵・カップ酒・季節外れのボロセーターは、かなり寂しいコラボレーションだ。
「歴史、お好きなんですか?」
「まあな……。これが俺の愛読書よ」
何気なくふった話に、爺さんは小学生用の文庫本をかざしながら機嫌良さそうに答えた。
爺さん、もしかして話し相手が欲しかったのか?
俺は死んだ爺ちゃんを思い出し、少し切ない気分になった。
その後俺たちは取り留めもない会話をした。
俺が経済新聞を読んでいたからか、爺さんは政治や経済関連の事にもちらりと話を向けた。
この爺さんに政治経済の事が分かるとは思えないが、俺は爺さんに恥をかかせないように気を遣いながら、当たり障りのない政治や経済ネタを話した。
爺さんは話が分かっているかは怪しいものの、『うんうん』『そうだな』『確かに』などと、俺に相槌を打っていた。
話はいつの間にか、先月の経団連の人事に及んでいた。
「亀川さんが会長だと、金融業界に良いように操られそうで、ちょっと嫌なんですよねぇ……」
独り言感覚で、うっかり小難しい事を言ってしまった。
『確かにな』とか適当に言って流してくれ……。
「確かにな」
よしいいぞ!
「亀川については賛否両論だけど、俺は結構かってんだよ。あいつは風采も上がらねぇし、根っからの技術屋だから口数も少なくて、頼りない感じがするかもしれないが、職人気質でブレねぇ信念持ってる。俺は会長就任賛成だけどなぁ」
爺さんの言葉の淀みのなさに驚いた。
そう言えば、鈴木常務も似たような事言ってたなぁ……。
「ところで兄さん、どこまで行くんだい?」
「大阪です。友達の披露宴があるので」
「そうか……。兄さん、結婚は?」
「独身です。実は上司の勧めでさっき見合いをしたんですが……」
はははと誤魔化すように笑うと、爺さんもちょっと笑って、
「気に入らなかったのかい?」と。
「ええ、まあ……」
「俺が言う事じゃねえが、人なんて一回会ったくらいじゃ分からねえもんよ。最初はパッとしない印象でも、案外かけがえのねえ存在になるかも知れねえよ」
あの子はゼッタイならないよ!
「そうですかねぇ……」
俺は軽く受け流し、会話は何気なくストップした。
そしてしばらくの沈黙の後、爺さんは問わず語りに自分の話をし始めた。
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