『小さな出会い』 グリーン車で隣り合わせたボロボロ爺さんの身の上話

紅牡丹

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出会い 

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2週間後 土曜日 11時30分
東京駅近くの高級レストラン『ラ・メフィアス』

俺は鈴木常務に言われた通り、受付で一ノ瀬と名乗り予約席に案内された。
見合い相手について知っているのは、黒木みさというタカラジェンヌのような名前と、歳が25という事だけだ。
写真も釣り書きも貰っていない。まあ、俺も渡していないからお相子だけど。

『みさちゃんの身元は保証する。相手を知る楽しみを味わい給え』
って、別に楽しみたくないよ!! 
心の中で悪態をつきつつ愛想笑いを浮かべていると、
『ああそれから一ノ瀬君、一応コースは頼んでおくが、何でも好きな物を注文しなさい。請求書は私に回させる』

あの時常務はそう言って笑っていた。


じゃんじゃん食べて飲んでやりたいところだが、今日は夕方から親友の披露宴があるから、胃袋は空けておかないと。
なんてことをつらつら考えていると、店のスタッフが声をかけてきた。

「お連れ様がいらっしゃいました」

ふっと顔を上げ、どれどれ……って、こりゃ無いな~。
もともと低かったテンションが、坂道を転がるように下がってゆく。

『黒ミサ』って名前から、しっとり清楚、でもどことなく色っぽい美人をイメージしていたが、やって来た彼女は、小柄で丸顔、顔立ちは地味。化粧も野暮ったいし、肩まである髪もごわついてて重苦しい。
スタイリッシュな英国ブランドのワンピースは、今日のために買ってきたのか? 気の毒なくらい似合ってないが。
兎に角、この子とあんな事やそんな事をするなんて、想像もできないし絶対に無理だ。

それでも常務の紹介だから話を盛り上げようと頑張ったが、黒ミサは緊張しているせいか俺の質問に、「はい」か「いいえ」もしくは短い言葉で返して来る。
間が持たない。正直俺には拷問のような時間だった。
食べ方は品が良くて綺麗だけど。


「このあと大阪に行かなければなりませんので、僕はこれで」

もう会うこともないだろう……。

「はい」

14時少し前にレストランで別れ、俺は走りに走って新幹線に飛び乗った。
グリーン車の中は結構混んでいた。

B18…B18 あった。あれれ? 
そこには既に七十代くらいのお婆さんが座っていた。

席の脇に立ち、手荷物棚の下についている番号表示と切符を再度見比べていると、お婆さんは気付いたようにアッと小さく言って席を立ち上がり、
「ごめんなさいね。切符の字が小さくて席を間違えてしまったわ……年は取りたくないものね」
と微笑しながら通路を挟んだ隣に移動した。
俺は微笑し席に着いた。

俺の隣の窓際の席には、5月中旬だというのに分厚いセーターを着た70代後半くらいのみすぼらしい爺さんが座っていた。
手編みと思しき紺のセーターには、白っぽくなった毛玉が無数についており、ところどころ穴も開いている。
失礼ながらグリーン車に乗れるほど、金銭的に余裕があるようには見受けられない。

今日は普通車、満席なのか? 
それとも、ここを自由席だと思って乗っちゃったのかな?

などと聞けるわけないが……。
発車してしばらくしてから、美人だがきつい感じの女性乗務員が切符を確認に来た。

爺さんが切符を差し出す。

『ここは普通車じゃないですよ!』
と若年の乗務員に冷たく言われ、おろおろと慌てふためく老人。

そんな切ない展開を予想し、先走って爺さんを気の毒に思っていた。
俺は、爺ちゃん婆ちゃん子だったからか、老人が冷たくあしらわれるのは見たくない。

「有り難うございます」

にっこりと、彼女は爺さんに切符を返した。

おおおー、良かった!!!
ホッと胸をなでおろした。

「切符をお願いします」

「ああ、済みません」

俺は慌てて胸ポケットから切符を取り出し乗務員に渡した。


その後女性乗務員は、通路を挟んだ隣の切符を確認し始めた。
この時俺は、彼女が窓際の青年に『切符を……』と声を掛け遣り取りした後、その隣に座るさっきのお婆さんの切符は確認しなかった事を、特に気にもとめなかった。
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