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ストロベリアムの晩餐
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「かんぱ~い」
レモン牛乳の入った木製ジョッキが乾いた音をたてる。
ちょっと小洒落た田舎の飲み屋さんを思わせる。木造の落ち着いた店内。
瑠璃子と真司は賑わう公共エリアのカウンターを避け、個室で二人っきりで食事をした。
静かな個室に瑠璃子のキャッキャという嬌声がだけが響いた。
個室に入る前、店内の公共スペースをウエイターのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)に案内されて歩いたが随分な賑わいようだった。
ストロベリアムの食堂は人気があり、初期村をクリアしたプレイヤーでも時々遊びに来るという話は聞いていた。実際に上級者っぽいプレイヤーの姿もちらりほらりとあった。
瑠璃子たちが入った個室はインスタンスエリアで、外界からは隔離(かくり)されたプライベートエリアだ。ここには外のプレイヤーの声は届かない。
「うんうん、甘くてほのかに酸っぱい、このレモン牛乳は美味しいのだ」
瑠璃子がチビリチビリとレモン牛乳を飲む、ジャンクな味だったがどうやらお気に召した様だ。
お酒は二十歳になってからなので、VRフードにアルコールを添加するアルコールパックは未装着だった。で、レモン牛乳。
もし、アルコールパックが付いていたら、瑠璃子は名物の麦焼酎でも飲んだだろうか?
瑠璃子とお酒を飲んだらどんなに楽しいだろう、そんなことを思いながらレモン牛乳を飲んだ。
これはこれで、悪くなかった。
ちなみに説明が遅れたがレモン牛乳とは栃木のコンビニなどでも販売されている地元のソウルフード的な飲料だ。
「でも不思議、牛乳にレモンを入れたら固まらないかなぁ?」
「おっ瑠璃ちゃんは良いところに気づいたね。実はこのレモン牛乳にレモンは入ってないんだ」
「ええ~そうなの?」
「うん、無果汁だよ」
う~ん騙された、とか言いながら瑠璃子はレモン牛乳を目を細めて凝視した。
しばらく見つめたあと、まっ美味しいから良いよね~と言って二ヘラと笑った。
そうしてテーブル脇に置かれたメニューを手に取る。それからが大変だった。
「う~ん、う~ん、うぅ~~ん」
瑠璃子がメニューを見てうなっている。どうやらすっごく迷っている様だった。
「なんでも、好きなもの好きなだけ食べなよ」
「う……うん、そうなんだけどね」
瑠璃子が少しだけ寂しそうに笑った。
言った後、真司はしまったと思った。
最近の瑠璃子は内臓が弱ってきていて、たくさん食べると戻してしまうことが多かった。
少し前にあった真司の誕生会で食べ過ぎた瑠璃子は夜に大量の嘔吐をしたという。
本人に直接聞いたわけではないが、それはとても辛い体験だったようだ。
元来、瑠璃子はグルメで食べることは殊の外大好きだ。しかも残された時間を考えると瑠璃子の食事の回数はもうそれほどないのかもしれなかった。
だからきっとすごく迷うのだろう。
「好きなだけ考えな。僕は待ってるから」
「真ちゃんは何が食べたいの?」
「瑠璃ちゃんと同じ物が良い」
「そうなの?……よし、うんと美味しいの選んであげるからね」
そう言って瑠璃子はまたうんうんとうなりだした。
「これがみみうどん……本当に耳みたいだね~」
十数分後、真司たちの前には湯気をあげるうどんがあった。
栃木県佐野市の郷土料理みみうどんだ。
醤油ベースのだし汁にゆずの香が利いている。だて巻きやかまぼこなどの具材にわかめやネギ等の薬味類が入っている。具材の豪華さはうどんの中でもぴかイチだろう。
何より特徴的なのはそのうどん、細い麺状ではなく厚めの餃子の皮を成形したような、まさに耳の様な形のうどんなのだ。
「悪魔の耳を食べちゃうと、家の中の噂話を聞けなくなるから無病息災になるんだって」
「うん、今説明見てる。どうやら魔除けの料理らしいね。だて巻きやかまぼこが入っているのはおせちの残りをうどんにしてた名残なんだってね」
郷土料理の説明をざっと流し読みして、改めてみみうどんを見る。なんだかとても華やかで縁起の良いものに見えた。
「真ちゃんに良いことがありますように……いただきます」
そう言って瑠璃子はうどんに箸をつけた。
「瑠璃ちゃんがずっと元気でいますように……いただきます」
二人の目線が交差する。直後、ニコリと笑って二人は同時に耳の様なうどんを食べた。
「おお~美味しい、だしが利いてて、凄くムチムチしてるんだね」
「うん、これはアタリだな」
瑠璃子は小盛りにしたみみうどんをハフハフしながらよく噛んで食べた。
すごく料理に集中して、一生懸命食べた。
「美味しい?」
「うん、私はコレすごい好き、真ちゃんはどう? 美味しくない?」
「すごく美味しいよ。瑠璃ちゃんをストロベリアムに誘って良かった」
みみうどんを堪能した後は、とちおとめのジャムのかかったアイスクリームを食べた。定番の組み合わせだがバニラアイスとイチゴジャムは良く合った。
瑠璃子はアイスもゆっくりと味わいながら時間をかけて食べた。
真司はみみうどんもアイスクリームもラージサイズだったが、瑠璃子はどちらもスモールだった。
「真ちゃん、凄く美味しかったです。ありがとう、ごちそうさま」
何か神聖な儀式の様だった二人のディナーは終わった。
「このゲームすごく面白いね」
「気に入った? よかった」
「最後の思いでを作るのにこのゲーム……良いかなって」
「最後とか言うなよ。瑠璃ちゃんは元気になって僕のお嫁さんになるんだろ?」
瑠璃子は目に少しだけ涙を浮かべ「うん、そうだったね」と言って笑った。
瑠璃子がその場から消えてしまいそうな気がして、真司は彼女の手をそっとにぎった。
白くて、細くて、小さな手だった。
その時、外部から通信が入った。
システムメニューが空中に開き、見慣れた瑠璃子ママの顔が映った。
「瑠璃ちゃん、ご飯はどうするの?」
「うん、食べた。真ちゃんと、みみうどんって言ってすごく美味しかったんだよ」
「そう、よかったわね。陽子さん伝えとくわね」
陽子さんとは瑠璃子担当の看護師で、瑠璃子と実に仲が良かった。
体の動かない瑠璃子の食事やトイレやお風呂の世話をしてくれる頼れるお姉さんだった。
ちなみに真司にもすごく優しい。
「あと加奈子ちゃん来たわよ。バイトでお誕生会にこれなくてゴメンねって、プレゼントに猫の写真集置いて行ったわよ。瑠璃ちゃんこの写真家さん好きでしょ?」
瑠璃子ママが写真集を掲げて見せた。野良猫や普通の雑種猫なんかを撮る高名は写真家の写真集だった。表紙はモロにシマ模様の野良猫のオスだった。
「わあぁ……可愛い、これ欲しかったんだ」
加奈子は瑠璃子と真司のクラスメートだ。茶道部に入っているおっとりとした女の子だ。瑠璃子とは無二の親友であった。
「瑠璃ちゃんが真ちゃんとゲームしているって言ったら、よろしく言っといてくださいって言ってすぐ帰っちゃったわ、邪魔しちゃ悪いって」
「あ……そうだったんだ」
「明日学校でお礼言っときなさいよ」
「うん、そうする」
「それで、これからどうするの?」
「うん、もう少しゲームするよ」
「そう、ママはもう帰るからね。また明日ね、何かあったらすぐ携帯よ」
「うん、わかってるよ。ママおやすみ」
そこで通信は途切れた。
「瑠璃ちゃんはまだゲームするんだ」
真司はちょっと意外だなと思った。てっきりベッドで休みながら写真集でも見るのかと思った。
瑠璃子は少しだけ考える仕草をした。何か言おうとしてつっかえて、また考え込んだ。
そんな瑠璃子の言葉を真司は穏やかな笑みを浮かべて待った。
意を決したように瑠璃子が言った。
「真ちゃん……エッチしよ」
レモン牛乳の入った木製ジョッキが乾いた音をたてる。
ちょっと小洒落た田舎の飲み屋さんを思わせる。木造の落ち着いた店内。
瑠璃子と真司は賑わう公共エリアのカウンターを避け、個室で二人っきりで食事をした。
静かな個室に瑠璃子のキャッキャという嬌声がだけが響いた。
個室に入る前、店内の公共スペースをウエイターのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)に案内されて歩いたが随分な賑わいようだった。
ストロベリアムの食堂は人気があり、初期村をクリアしたプレイヤーでも時々遊びに来るという話は聞いていた。実際に上級者っぽいプレイヤーの姿もちらりほらりとあった。
瑠璃子たちが入った個室はインスタンスエリアで、外界からは隔離(かくり)されたプライベートエリアだ。ここには外のプレイヤーの声は届かない。
「うんうん、甘くてほのかに酸っぱい、このレモン牛乳は美味しいのだ」
瑠璃子がチビリチビリとレモン牛乳を飲む、ジャンクな味だったがどうやらお気に召した様だ。
お酒は二十歳になってからなので、VRフードにアルコールを添加するアルコールパックは未装着だった。で、レモン牛乳。
もし、アルコールパックが付いていたら、瑠璃子は名物の麦焼酎でも飲んだだろうか?
瑠璃子とお酒を飲んだらどんなに楽しいだろう、そんなことを思いながらレモン牛乳を飲んだ。
これはこれで、悪くなかった。
ちなみに説明が遅れたがレモン牛乳とは栃木のコンビニなどでも販売されている地元のソウルフード的な飲料だ。
「でも不思議、牛乳にレモンを入れたら固まらないかなぁ?」
「おっ瑠璃ちゃんは良いところに気づいたね。実はこのレモン牛乳にレモンは入ってないんだ」
「ええ~そうなの?」
「うん、無果汁だよ」
う~ん騙された、とか言いながら瑠璃子はレモン牛乳を目を細めて凝視した。
しばらく見つめたあと、まっ美味しいから良いよね~と言って二ヘラと笑った。
そうしてテーブル脇に置かれたメニューを手に取る。それからが大変だった。
「う~ん、う~ん、うぅ~~ん」
瑠璃子がメニューを見てうなっている。どうやらすっごく迷っている様だった。
「なんでも、好きなもの好きなだけ食べなよ」
「う……うん、そうなんだけどね」
瑠璃子が少しだけ寂しそうに笑った。
言った後、真司はしまったと思った。
最近の瑠璃子は内臓が弱ってきていて、たくさん食べると戻してしまうことが多かった。
少し前にあった真司の誕生会で食べ過ぎた瑠璃子は夜に大量の嘔吐をしたという。
本人に直接聞いたわけではないが、それはとても辛い体験だったようだ。
元来、瑠璃子はグルメで食べることは殊の外大好きだ。しかも残された時間を考えると瑠璃子の食事の回数はもうそれほどないのかもしれなかった。
だからきっとすごく迷うのだろう。
「好きなだけ考えな。僕は待ってるから」
「真ちゃんは何が食べたいの?」
「瑠璃ちゃんと同じ物が良い」
「そうなの?……よし、うんと美味しいの選んであげるからね」
そう言って瑠璃子はまたうんうんとうなりだした。
「これがみみうどん……本当に耳みたいだね~」
十数分後、真司たちの前には湯気をあげるうどんがあった。
栃木県佐野市の郷土料理みみうどんだ。
醤油ベースのだし汁にゆずの香が利いている。だて巻きやかまぼこなどの具材にわかめやネギ等の薬味類が入っている。具材の豪華さはうどんの中でもぴかイチだろう。
何より特徴的なのはそのうどん、細い麺状ではなく厚めの餃子の皮を成形したような、まさに耳の様な形のうどんなのだ。
「悪魔の耳を食べちゃうと、家の中の噂話を聞けなくなるから無病息災になるんだって」
「うん、今説明見てる。どうやら魔除けの料理らしいね。だて巻きやかまぼこが入っているのはおせちの残りをうどんにしてた名残なんだってね」
郷土料理の説明をざっと流し読みして、改めてみみうどんを見る。なんだかとても華やかで縁起の良いものに見えた。
「真ちゃんに良いことがありますように……いただきます」
そう言って瑠璃子はうどんに箸をつけた。
「瑠璃ちゃんがずっと元気でいますように……いただきます」
二人の目線が交差する。直後、ニコリと笑って二人は同時に耳の様なうどんを食べた。
「おお~美味しい、だしが利いてて、凄くムチムチしてるんだね」
「うん、これはアタリだな」
瑠璃子は小盛りにしたみみうどんをハフハフしながらよく噛んで食べた。
すごく料理に集中して、一生懸命食べた。
「美味しい?」
「うん、私はコレすごい好き、真ちゃんはどう? 美味しくない?」
「すごく美味しいよ。瑠璃ちゃんをストロベリアムに誘って良かった」
みみうどんを堪能した後は、とちおとめのジャムのかかったアイスクリームを食べた。定番の組み合わせだがバニラアイスとイチゴジャムは良く合った。
瑠璃子はアイスもゆっくりと味わいながら時間をかけて食べた。
真司はみみうどんもアイスクリームもラージサイズだったが、瑠璃子はどちらもスモールだった。
「真ちゃん、凄く美味しかったです。ありがとう、ごちそうさま」
何か神聖な儀式の様だった二人のディナーは終わった。
「このゲームすごく面白いね」
「気に入った? よかった」
「最後の思いでを作るのにこのゲーム……良いかなって」
「最後とか言うなよ。瑠璃ちゃんは元気になって僕のお嫁さんになるんだろ?」
瑠璃子は目に少しだけ涙を浮かべ「うん、そうだったね」と言って笑った。
瑠璃子がその場から消えてしまいそうな気がして、真司は彼女の手をそっとにぎった。
白くて、細くて、小さな手だった。
その時、外部から通信が入った。
システムメニューが空中に開き、見慣れた瑠璃子ママの顔が映った。
「瑠璃ちゃん、ご飯はどうするの?」
「うん、食べた。真ちゃんと、みみうどんって言ってすごく美味しかったんだよ」
「そう、よかったわね。陽子さん伝えとくわね」
陽子さんとは瑠璃子担当の看護師で、瑠璃子と実に仲が良かった。
体の動かない瑠璃子の食事やトイレやお風呂の世話をしてくれる頼れるお姉さんだった。
ちなみに真司にもすごく優しい。
「あと加奈子ちゃん来たわよ。バイトでお誕生会にこれなくてゴメンねって、プレゼントに猫の写真集置いて行ったわよ。瑠璃ちゃんこの写真家さん好きでしょ?」
瑠璃子ママが写真集を掲げて見せた。野良猫や普通の雑種猫なんかを撮る高名は写真家の写真集だった。表紙はモロにシマ模様の野良猫のオスだった。
「わあぁ……可愛い、これ欲しかったんだ」
加奈子は瑠璃子と真司のクラスメートだ。茶道部に入っているおっとりとした女の子だ。瑠璃子とは無二の親友であった。
「瑠璃ちゃんが真ちゃんとゲームしているって言ったら、よろしく言っといてくださいって言ってすぐ帰っちゃったわ、邪魔しちゃ悪いって」
「あ……そうだったんだ」
「明日学校でお礼言っときなさいよ」
「うん、そうする」
「それで、これからどうするの?」
「うん、もう少しゲームするよ」
「そう、ママはもう帰るからね。また明日ね、何かあったらすぐ携帯よ」
「うん、わかってるよ。ママおやすみ」
そこで通信は途切れた。
「瑠璃ちゃんはまだゲームするんだ」
真司はちょっと意外だなと思った。てっきりベッドで休みながら写真集でも見るのかと思った。
瑠璃子は少しだけ考える仕草をした。何か言おうとしてつっかえて、また考え込んだ。
そんな瑠璃子の言葉を真司は穏やかな笑みを浮かべて待った。
意を決したように瑠璃子が言った。
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