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ウサギを守れっ!

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「ピーターのお母さんはゴブリンに食べられちゃったんだ」
 クエストをくれる農夫はまだ少年だった。
 少年には妹がおり仔ウサギを抱いて涙ぐんでいる。どうやら抱かっているウサギがピーターの様だ。
 ウサギはつぶらな瞳に茶色の毛色で本当に可愛らしかった。

 農園の外れには草っぱらがあり、そこで村のウサギが何匹か草を食んでいた。
 クエストはどうやら、襲ってくるゴブリンからこのウサギたちを守る任務の様だった。
 攻撃力が足りないとウサギがやられクエスト失敗になるという話だったが、初期村最強装備をそろえた冒険者クラス二人ならほとんど問題がないと攻略サイトには書かれていた。

「このままじゃピーターも食べられちゃうよ」
「うん、うんうん、よくわかったわ、ピーターは私が守る」
 瑠璃子は胸を張ってドーンと叩いた。
「お姉さんに任せておきなさい」

 真司はシステムメニューのクエスト受領ボタンを押した。
「本当に? ピーターを守ってくれるの? 冒険者さん」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう」
 半泣きでお礼を言う妹キャラの頭を瑠璃子はゴシゴシと撫ぜた。

「もうそろそろゴブリンがやってくる頃だよ」
 少年が身震いする。直後、少し離れたところにある人の背丈ほどもある草むらがガサガサとなった。
「あっ! ゴブリンだ。ゴブリンが来たよ」

 見ると真司の腰ほどの身長の緑の小鬼が何匹かぞろぞろと現れた。
 ボロキレを纏い、手に鋲を打った木ぎれを持っている。
 キツネとはうって変わってリアルなクリーチャー系のモンスターで、小柄ではあったが迫力があった。

「小僧どもっ! ウサギを食わせろっ!」
 しわがれた声を張り上げ、ゴブリンがウサギたちに襲い掛かった。ウサギが逃げまどい辺りを跳ねまわる。

「ダメーーーーーーー」
 その時瑠璃子の大声が辺りに響き渡った。ウサギたちを守るように仁王立ちになるとゴブリンの前に立ちはだかる。
 一匹のゴブリンがウサギを追って前に出ると、瑠璃子は手をぐるぐると回しながらゴブリンをポコポコと叩いた。



「うわ……すご」
 全然効きそうにない瑠璃子のポコポコ攻撃だが、アタック判定はしっかり発生している様で、ゴブリンのライフがゴリゴリと削れていく。
 さすがは初期村最強装備と言ったところか、瑠璃子の杖が衝突するたびに目に見えてゴブリンのライフは消えていった。

 十数秒ポコポコされたゴブリンはライフを全損したようで、うぎゃーと声を上げてライトエフェクトを残して消えていった。
 真司も一瞬唖然としたが、気を取り直してゴブリンに切りかかる。

 でたらめな動きで通常攻撃を繰りかえす瑠璃子と違って、真司はしっかりとソードマンの攻撃スキルを駆使して戦った。
 ソードマンの初期スキルで連撃の頭に繰り出すスキルとして末永くお世話になる基本スキル、パワースラッシュを真司は器用に使った。
 間合いをダッシュで詰めながら上段から斬るだけのスキルだが十分な威力がでた。

 頭からばっさりと斬られたゴブリンは一撃でライフを全損し、断末魔を上げて消えていった。
 ほとんどのゴブリンが瑠璃子と真司の手によってウサギの元へと到着する前にライトエフェクトを出しながら消えていった。
 何匹か防衛ラインを突破したゴブリンもウサギに殴りかかるが、ウサギのライフがなくなるより前に主に瑠璃子の手によって撃破された。

 すべてのゴブリンを倒したところで、システムメッセージのボイスが「クエスト、ウサギを守れをクリアしました。おめでとうございます」と告げた。
「やったーーーー♪」
 瑠璃子が大喜びで飛び跳ね真司の元へ駆け寄ってくる。二人は笑顔でガッツポーズを決めると、手を叩きあって喜んだ。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ピーターを守ってくれてありがとう」
 少年が丁寧に頭を下げて二人にお礼を言う。
「ありがとうですぅ」
 とピーターをだっこした妹も泣きながらお礼を言った。

「うんうん、ピーターも良かったね」
 瑠璃子は抱っこされている、仔ウサギの前足を指先でつまむようにして、握手するようにちょこちょこと振った。
 ピーターはくすぐったそうに身をよじると、喜んでいるのか瑠璃子の指先に鼻を擦り付けた。

「これ、少ないけどお礼なの」
 妹が硬貨の入った袋を真司に渡した。受け取ると同時に真司と瑠璃子の身体が光った。
「おめでとうございます。レベルアップしました」システムメッセージと共に小さくファンファーレが鳴った。

「おおーーレベルアップだ」
「このクエストはかなり経験値が多いみたいだな」
 真司たちのレベルは一気に5レベル程度に上昇し、これで初期村のクエストなら問題なくクリアできるレベルになった。

「しかし、チュートリアルだけでも凄いやりごたえだな」
「ね~、初期村だけで相当遊べそうだよねぇ~」
 初期村のクエスト群はプレイヤーにゲームの基礎を覚えてもらうための練習エリアになっていたが、瑠璃子たちは半日ダイブしても半分も終わっていなかった。
 もっとも真司と瑠璃子のペースはかなりのまったりプレイだったので一般のプレイヤーよりかなり遅れていたが。

 しかし、レベルは十分に上がったし、初期村で一番の難所となる最強装備の入手も終わっているので、このまま進めば特に問題なく、あとは十時間もかからないだろう。

「瑠璃ちゃん疲れてないかい?」
 もうダイブしてから6時間程度が過ぎていた。瑠璃子はダイブ慣れしているとはいえ連続6時間のゲームは疲れたんじゃないかと真司は思った。

「ぜ~んぜん平気、リアルの動かない身体よりこっちの方が調子いいんだもん」
 瑠璃子は全然平気そうだった。実際大して疲れていないんだろう、瞳は輝いて実に元気そうだった。
「そっか、瑠璃ちゃん意外にゲーマーだもんね」
 瑠璃子の障害は主に脊椎と頸椎に原因があり、頭は全くの健常者、実はゲームはお手の物だった。

 自分では歩くこともトイレに行くこともできない瑠璃子は一日中ダイブしていることもざらだった。
 少なくとも小までの排泄はダイブギアがサポートしているし、チューブで口の中に食事が送り込まれるVRフードは、フードの元になる流動食をセットしておきさえすれば瑠璃子一人でも食事ができた。
 つまりダイブしている方が手もかからなかった。それをこの少女はよく理解していた。

「真ちゃんは疲れたの?」
「まあ、まだプレイできそうだが昼がサンドイッチとヨーグルトをちょっとだけだったから腹が減ってきたな」
「そういえば」
 瑠璃子のお腹もくぅぅと鳴った。

「初期村無料食事券があるんだっけ?」
 VRフードのカートリッジの分配金目当てに無料で料理が提供されることもあったが、高級料理などは別にリアルマネーやゲーム内マネーを取った。
 料理自体に著作権は無かったがVRスキャンした料理データには著作権が認められ、電子データで幾らでも複製して料理を提供できたが、素のデータには価値があると考えられていた。
 初期村無料食事券はその料金をただにしてくれるゲームパッケージ購入者特典だ。

「ストロベリアムは料理が良いって聞いてさ、イギリスとコラボしてる鉱山村はゲームプレイは最高にしやすいらしいけど料理は最悪だって聞いて、瑠璃ちゃんと遊ぶならストロベリアムって決めてたんだ」
「苦しゅうない苦しゅうない、真ちゃんよくやった。早速栃木のグルメを堪能するのだ」

 瑠璃子と真司は手をつないでストロベリアムの宿、イチゴの庭亭目指して歩き出した。
 綺麗な夕日が二人を照らしていた。
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