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イチゴを狩って新装備

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「イチゴあんまりつまむなよ。晩御飯食べられなくなるぞ」
「わかってるよーお母さんみたいなこと言わないで」
 そう言いながら瑠璃子はイチゴを一個ムシャムシャ食べた。
「甘酸っぱくて美味し~」
 調子に乗ってイチゴをパクつく瑠璃子をなんだかんだ言っても真司は笑って見ていた。

 しかし、見事なCGだな~と二人は思った。
 イチゴは本当にそこに生えている様で、香りもするし手触りも本物のそれと比べてもなんら遜色はない。
 所々に虫がついている辺りなんて、やり過ぎかと思うくらいの演出だ。

 このCGは人間の手によるものではない。
 ゲームシステムやデザインなど基盤部分は人間の手によって設計されているが、実際にこのCGを創ったのはイデアルプシュケーと呼ばれる人口知能だ。
 理想的な生命という意味を持つその人工知能は現在三体あって、アメリカのアリス、イギリスのヴィクトリア、日本のサクラとありSEXOのCGの大半はサクラとアリスが創ったものだ。
 ブルーオーシャンは政府筋とも強いつながりのある企業で、SEXOの開発は壮大な社会実験でもあった。

 イチゴの味を確かめたら、それで満足したのか、瑠璃子はそれ以後イチゴを食べず、無心に収穫をし始めた。
 すごく真剣な表情でイチゴを収穫している。こういう時の瑠璃子には話しかけない方が良い。
 真司もイチゴの収穫に集中し始めた。二人はしばらく夢中でイチゴを収穫した。
 
 ある程度収穫が進んだところで、瑠璃子はふと手を止めた。もうかなりの数のイチゴを収穫していた。
 真司を見ると彼もたくさんのイチゴを収穫したようで、瑠璃子から随分はなれたところまでその手を伸ばしていたようだ。

「真ちゃんいっぱい採れた?」
 瑠璃子は真司に駆け寄って声をかけた。
「ああ。そう言えばずいぶん採ったな」
「私もいっぱい採れたよ」
 瑠璃子が大きなバスケットに一杯になったイチゴを見せた。

「うんうん、上出来、それにしてもVR空間だとルリちゃんはずいぶん上手に身体を動かすね」
「私のとってはこっちの方が現実みたいだしね」
 瑠璃子は得意になって胸を張った。

「現実もこんなふうに身体が動いたらいいのにね。私本物の海で泳ぐのが夢なんだ」
 真司はそんな瑠璃子になんて声をかければいいのかわからなかった。
 瑠璃子が泳ぐことなんてできない、水に浸かっても溺れるだけだ。
 元気になったら泳ぎに行こうなんて無責任なことも言えなかった。だからただ黙って笑った。

「ねえ、覚えてる? 小学校の運動会の時さ」
 唐突に言う瑠璃子の顔には悪戯っ子の様な笑みが浮かんでいた。
「ああ……あんまりいい思い出じゃないな」
 真司の方は渋面だ。それは確かに良い思い出ではなかった。ただ瑠璃子には忘れられない思い出だった。

「かけっこで私が脚引きずって走ってさ、それを別のクラスの男の子が笑ったんだよね」
「思いださせるなよ」
「そんで怒った真ちゃんがその男の子をメチャメチャに殴ったんだよね」
「あまりの剣幕にさ、先生とかも止められなくて、未だにあれは伝説だよね」

 殴られた男の子がいわゆるガキ大将的な男の子で、そいつをメチャメチャにやっつけた真司はその後男子から一目置かれる存在になったのだ。
 今でも真司が凄むと街の不良も道を開けるのだった。

「笑われたことは少しだけ悲しいだけだったけど、真ちゃんが本気で怒ったのは本当に怖かった」
「あの時は本当に頭にきたんだよ」
 真司はポリポリと頭を掻きながらプイっと目を反らした。

「ねえ、何で私に優しくしてくれるの?」
 ふとまた真剣な顔になった瑠璃子に真司はドキリとした。
 真司は返事ができず、ごにょごにょと言葉をにごした。

「私は真ちゃんのことが好きだから」
 ストレートな物言いに真司はハッとなる。
「もう少しの間だけだから、だから……一緒にいて」
 瑠璃子はそう言うと少しだけ泣いた。
 ドラマだったら気の利いたセリフを言うところなんだろうが、真司はこういう時もなんて言ったらいいのかわからなくなってしまうのだった。

 瑠璃子が泣き止んだ時、頭をポンポンと撫ぜてやった。それが真司の精一杯だった。



 収穫したイチゴを換金したら、思いのほか大金になってしまった。
 お姉さんからもらった収穫道具が思いのほか高性能だったのが原因である。

「よし、これで初期村の最強装備が買えるぞ」
 二人は喜び勇んで村の武器屋に乗り込んだ。

「じゃーん、見て見て、可愛い?」
 瑠璃子が新調されたクレリックの装備を着てキメポーズをして見せた。
 十字架がところどころにあしらわれた、少し偉い尼僧の様な服装だった。長めのスカートの落ち着いた雰囲気と瑠璃子の活発そうなショートヘアがミスマッチのようでいて逆に可愛かった。
 アコライトドレスと言う名前も瑠璃子は気に入った様だった。



 真司も少年兵から少し出世したような銀の鎧を着てサムズアップをして見せた。
 スチールソードにスチールアーマー一式、まだ弱い装備なので装飾は地味だが、駆り出された少年兵から、雇われの剣士くらいにはレベルアップした外見になった。

「まいどあり~」
 小柄なドワーフの娘がそろばんを弾きながら嬉しそうにお辞儀をした。
 ケン君よりは表情豊かなNPCであったドワーフの頑固職人の娘で守銭奴な武器屋の看板娘に勧められるまま、溜まったお金はすっかり散財してしまった。

「これ、初期装備とは格段に攻防力上がってるな」
「本当? 全然戦わないまま強くなっちゃったね」
「これで、ここらのクエストならもう苦戦することはないっぽいな」
「そう聞くと試してみたいよねぇ」
 瑠璃子が身体をモジモジしはじめる。これは何かをしたいのをこらえてる時の瑠璃子の仕草だ。

「モンスターをいじめるのは嫌なんじゃなかったか?」
「可愛い動物はいじめたくないよ。でも悪い奴はやっつけたい」
 悪い奴の所を妙に強調して瑠璃子が言った。
「ははっ、じゃあ悪そうなやつをやっつけるクエスト探してみるよ」

 SEXOセイクリッドエンパイアXは自由度の高いゲームだ。
 無数にあるクエストをクリアして世界観を楽しんでも良いし、面倒くさければクエストを一切やらなくてもゲームは進められた。
 新しいエリアやダンジョンを解放するのにはクエストをやった方が効率が良いように設計されていたが、それらコンテンツ解放も指定のアイテムを集めて納める等、クエストをやらないでも解放できる抜け道が必ずあった。

 レベルを上げることはこのゲームの主要なコンテンツの一つではあったが、生産系のクラスを選択すれば、ぶっちゃけ狩りもクエストも一切しなくてもレベルは上げられた。
 だから瑠璃子の要望にそって、悪い奴をやっつけるクエストを選ぶこともできたし、可愛い動物を避けて狩ることも全然不可能じゃなかった。

 システムメニューのパネルを開いて、冒険者案内のクエスト紹介を開く。ずらっと初期村周辺のクエストが表示された。狩りクエストなどはほとんど手を付けていないので、できそうなクエストはたくさんあった。

「イチゴ畑を荒らすイノシシ退治……これは除外だな。あとは村を狙うゴブリン系か」
 ゴブリンも可愛らしかったらどうしようかと思ったが、設定的には悪い奴の様だった。

「村をゴブリンの山賊団が狙っているって設定になってて、その関係の連続クエストがあるみたいだな」
「ゴブリンか~ファンタジーの悪い下っ端の定番だねぇ」
「一応、このストロベリアムを守る……みたいな感じで、この村のメインストーリーらしい」
「それはちょっとやってみたいかも」
 瑠璃子は結構こういったストーリー系のコンテンツにのめり込む方で。感動系の映画でポロポロ泣くし、VRゲームで正義の味方になるときもすっかりなりきるタイプだった。

「最初のクエストは防衛系クエストのチュートリアルになってて、なんでも村のウサギを守るんだと」
「ウサギさんがピンチなの? すぐに助けなきゃ!」
「よしっ! 行くか」
「えいえいおー」

 すっかり乗り気になった瑠璃子と真司はクエストをくれる農夫の元へ意気揚々と乗り込んだのだった。


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