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第三章 王都炎上

キョニー・ネーステッド

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 俺たちは城を目指した。
 サクラは不思議そうに尋ねる。
「なんで城に行くんですか? 王様を助けるの?」

「半分正解だな。これだけの魔物たちの襲撃、リーダー格のものがいるとみて、間違いないだろう。となると、そのボスが狙うのは、王で間違いない」
「これだけ王都が混乱しているのに、冷静にそこまで読んでるんですね。やっぱりイングウェイさんってすごい」
 当然だ。昔からこういうのには慣れているからな。


 王城はさすがに守りが硬く、城門は固く閉ざされていた。くそっ、この兵を少しでも都の守りに使っていれば、マリアも死ななかったかもしれないのに。
 俺は苛つきながら、≪透過シースルー≫の術を唱え、サクラをしっかりと抱き寄せる。魔術の淡い光が、俺とサクラを優しく包んだ。
透過シースルー≫は、一時的に術者の存在する次元をスライドさせ、壁などをすり抜ける魔法だ。
 機械の安全カバーなどもすり抜けられるので、機械を止めないまま修理するのにも便利で、よく使用していた。
 本来は壁などをすり抜けて侵入するための、暗殺者アサシン向けの術である。

「えー、ちょっとー、イングウェイさんのえっちー!」

 棒読みだった。セリフのわりに、サクラのほうからムニムニと柔らかな体を押し付けてくる。特に胸を。こいつ、なかなか余裕そうだな。
 そういえばこの世界は日本と違い、ブラというものが発達していない。男だから気付くのが遅れてしまった。
 魔力が多い女性は露出度が低めの格好を好むのが一般的なようだが、サクラとレイチェルは例外で、わりと普通の恰好をしている。
 サクラは和服なので、合わせ目から見える深い谷は普段は隠れているし、飲んだくれのレイチェルは、酔って吐かないように、体を締め付けないようなゆったりして楽なローブ姿を好んでいた。
 二人とも無意識のうちに前かがみになる癖があるのだが、たまにこぼれ落ちそうになっていて、そのときは俺がさりげなく直してやっている。

 今回も、俺に押し付けている部分からは、ダイレクトに柔らかな感覚が伝わってくる。まったく、俺のことを信頼しているのか、男としてカウントされていないのか。
 そういうのは好きな男にしてやるべきだと思うのだが、本当に無防備な奴らだ。
 俺はため息をつき、サクラをたしなめる。
「おい、ふざけている場合か。ふたり揃って『石の中にいる』なんてことになりたくないなら、少し黙ってろ」

 城内はさぞ大騒ぎかと思ったら、緊急事態過ぎて、無駄の騒ぐ余裕もないようだ。兵たちの大半は、街に戦いに出ており、残った者たちも籠城の準備に、せわしなく動き続けている。

 俺は王の間を目指し、走る。こういう城は何度も侵入した経験がある。迷うことはないだろう。
 なんとなく走っていると、予想通り王の間についた。

「イングウェイさん、この気配は?」

 サクラもどうやら気付いたようだ。
 扉を開ける。部屋の中には、血まみれの兵士たちに囲まれる王と、一人の女の魔族がいた。
 兵士は息も絶え絶えに、うめくように言った。
「くっ、新手の魔族か。ここまでか、王様、申し訳ありません」
「おい、勘違いするな。俺は人間だ、親友を殺されたのでな、落とし前をつけさせてもらいにきただけだ」
「あら、ボウヤは何者かしら? なかなかいい男だけど、死にたくなければさっさとあっちへ行ってなさい」

 ふむ、さすが魔族。俺が男なのも瞬時に見抜いている。
 俺は剣を抜き、たずねた。黒い刀身を持つ、エルフの女鍛冶師、マリア・ラーズの鍛えた剣だ。

「お前がボスで間違いないか? 今回の騒ぎのせいで、俺の親友が死んだ。お前は殺す」
「はっ、虫けらが一人死んだくらいで、大げさな。いいわ、かかってきなさい!」

「イングウェイさんっ、私はどうしますか?」
 サクラも凛とした顔でモモフクを構えている。
 俺はサクラに、王たちを守るように頼んだ。

 腹の中では、熱い液体が渦巻き、今にも吐きそうなくらいだった。
 街の復興のためにも、王は殺されるわけにはいかない。マリアのことだって、仇をうったところで生き返るわけがないのはわかっている。八つ当たりみたいなものだ。

 理性はわかっていても、気持ちはついてこない。
 俺はひどく冷めた目で、女魔族を見据えていた。

 女魔族は、蛇の髪を持つゴルゴンだった。煽情的な黒いレザーのドレスの背からは、コウモリのような皮膜のついた羽が見えた。

「私の名は、キョニー。キョニー・ネーステッド。お前は、男のくせに魔力が豊富ね。血も美味しそうだわ」

 吸血鬼か? バカめ。
 俺は剣を振りかぶり、キョニーに向かい、跳躍した。

 ぶんっ、ざっ、どかっ。
 切りかかる俺の剣をかわしたキョニーは、勢いのまま蹴りを入れてくる。
 こちらも、よけると同時に魔術を展開する。≪魔法矢マジックアロー≫を同時に複数放つと、キョニーは驚いて飛び下がった。
「ちっ、魔法の同時展開だと? ずいぶんと器用なことを」

 キョニーは巨大な火球を放つ。
 俺は剣に魔力を込め、火球に正面から突っ込んだ。

「あははは、バカめ。燃え尽きろっ!」
 ところが次の瞬間、マリアの剣の効果で、火球があっさりとかき消される。

「なっ、バカな? 今、何をしたんだ?」

「俺の大切な仲間の形見だ。お前ごときの魔法には、負けないさ」
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