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第四章 イン・ラスト・プレイス
束の間の平和の中で
しおりを挟むキャスリーを連れて家に戻ると、マリアが剣を打っていた。
サクラとレイチェルは、ギルドで別のお仕事中らしい。
「ということで、辺境のレノンフィールド領まで行ってくる」
「まじっすか」
「まじだ。そこまで遠いわけでもないから、明日には帰ってくるつもりだ」
マリアは心配そうに言った。
「あっちのほう、まだ魔族とドンパチやってるらしいよ。気を付けて」
「お父様なら平気ですわ。政治はともかく、武術なら今でもバリバリの現役ですもの」
そういえば、そうだったな。平和に見えるレノンフィールド領だったけれど、もしかしたら先日出会ったグラスハイドラも、魔族の侵攻と何か関係があったのかもしれない。
この世界は女性が胸に魔力をためるように、男性は筋肉に魔力をため込む。というか、女性は体の一定個所に魔力が集まるというべきか。
体全体に回る関係で魔法は使えないが、その分、筋肉が発達し、肉弾戦には強い。
王城でサクラに遊ばれていた斧使いの戦士など、その典型だ。
きっとキャスリーの父親も、そういうタイプなのだろう。
「じゃあ、護衛をお願いしますわね、インギー」
キャスリーはそういうと、俺の腕に飛びついた。
おい、歩きにくいぞ。
あれ? ふと気づくと、マリアがこちらを指さしてわなわなと震えている。
「ちょちょちょちょっとぉ! なんだよインギーって、そんな親し気に! 離れろよこのビッチめ!」
「あら失礼ね。インギー、さっさと行きませんこと?」
キャスリーは腕を掴んだまま、ぐっと自分の胸に押し付ける。
おい、顔が近い。
これ以上問題を抱え込むのはごめんだ。俺は、逃げ出すようにマリアの工房を逃げ出した。
街を出た俺は、キャスリーと懐かしい道を歩く。
懐には、王からの手紙。路銀と一緒に預かったものだ。
ジョン・ハワードからは、別の用事も受けている。
「どうせ送り届けるなら、ついでにこれも渡してくれ。くれぐれも、レノンフィールド侯に直接手渡すように」
妙な依頼だ。
手渡すように念を押すような手紙を、”ついで”で頼むだろうか?
もしかしたら何か厄介ごとがあるかもしれないな。そう考えると、サクラとレイチェルがいなかったのはちょうどよかったとも言える。
あの二人なら自分の身の安全も考えずに、すぐに人を助けようとするからな。優しすぎるのだ。
キャスリーの今後も、問題のひとつだ。
最初に会った時に、彼女は実家であまりいい待遇を受けていなかった。今回のことで厄介者と判断されたらどうなるのだろうか。いや、そもそも手紙の内容自体、キャスリーかレノンフィールド家の処分に関わる内容かもしれない。
封筒に押された、アサルセニアの紋章。俺はそれを憎たらし気に睨む。
紋章には魔力的な封印がしてある。見るのは簡単だが、見たらすぐバレるタイプのものだな。
まあいい、出たとこ勝負だ。
「何を考えてるんですの?」
「別に」
「? まあ、別にいいですけどー」
この無邪気な笑顔は、俺が守ってやらなければいけない。
俺は固く決意した。
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