賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
33 / 200
第五章 ダンジョン・デストラクション

キャスリー、お漏らしを何とか我慢する

しおりを挟む

 俺とキャスリーは、夕方前にはレノンフィールドの屋敷に着いた。
 魔法を使えばあっという間だ。

 この世界に来て最初に世話になった屋敷だ。いわば俺の第三の生まれ故郷と言ってもいい。

 客間に通された俺は、キャスリーとともにレノンフィールド侯を待つ。
 キャスリーは明らかに怯えていた。

「なあ、そんな怖い人なのか? 一応はお前の父親だろう?」
「お父様は厳しいけれど、優しい方ですわ。話を聞かないタイプではないのですが、その、曲がったことは大嫌いな性格ですの。……学校を退学になったことを、どう思うか」

 話していると、どかどかという大きな足音とともに、大柄な筋肉質の中年男性が入ってきた。
 キャスリーはびくりと気を付けの姿勢を取ると、緊張したようにぷるぷると震えていた。

 俺はゆったりと余裕を見せた態度で、一礼する。

「初めまして、レノンフィールド侯。私はイングウェイ・リヒテンシュタインと申します。先日は候のいない間にいろいろとお世話になりました」
 
「ああ、礼ならむしろ、こっちが言わねばならないところだ。わしはこのレノンフィールド領の領主、エドワード・レノンフィールド。大切な娘を、グラスハイドラから救ってくれたと聞いている。本当に、ありがとう」

 エドワードは礼を言いながら、深々と頭を下げてくれた。一介の冒険者に過ぎない、この俺にだ。
「それにしても貴公もなかなかの腕だそうじゃないか。グラスハイドラを苦も無く追い払うとは。どうだ、キャシーのやつを嫁にせんか? 歓迎するぞ」

「お、お父様っ? いきなりなにをおっしゃるんですの!?」

 俺は冷静に言った。
「ふっ、ご冗談を。それより、本題に入りたいのだが」

 なるほど、言葉を交わしてみて、キャスリーが言っていた意味がよく分かった。
 エドワードは質実剛健を地で行くタイプらしい。下手に取り繕うよりも、こちらも誠意をもって正直にぶつかれば、きっと応えてくれる。そんな気にさせてくれる、気持ちの良い人物だ。

「ううむ、本気なんじゃがのう。まあよいか。
 今回の件は、簡単にだが事情は聞いている。キャスリー、決闘でどこぞのお嬢様を殺したらしいな」

 エドワードがじろりとキャスリーを見た。
 ひっ、とキャスリーが小さく声をあげたのが聞こえた。お漏らしの呪いが再発しなければいいのだが。

「あ、あの、ごごご、ごめんなさい、お父様っ!」
 どもりつつも一息に謝ると、ばっと頭を下げる。

 が、それに対するエドワードの反応は、意外なものだった。
 ほわっと顔をほころばせると、笑みを浮かべてキャスリーに近づく。ばんばんとでかい右手でキャスリーの細い背中を叩きながら、激励したのだ。

「何を言っとる、正々堂々とした戦いで勝利したんだろう? しかも、腕を食わせて腹に一発ぶちこんだそうじゃないか。戦いは気迫じゃ、そうでなくてはいかん。だいたいあそこの家は前からむかついてたんじゃ。米や麦の相場がどうたらとか、芋の病気がどうだとか。金のことしか考えず、戦争のせの字もわかっとらん甘ちゃん貴族よ」

「え、……え? お父様?」
「ああ、もちろん亡くなったメアリー嬢には心から同情するがね。キャスリー、よく頑張ったな」

「うえーん、お父さまー。でも私、退学に。えぐっ、えぐっ」

 緊張の糸が解けたのだろう、キャスリーはエドワードの胸に顔を埋め、ぼろぼろと泣き始めた。
 優しくその背を撫でるエドワード。


 ところで、とエドワードは俺を見ていった。
「君も単に娘を送り届けに来ただけではないのだろう?」

「ええ、この手紙を預かりました。おそらく、王から」
 そうだ、むしろ本題はこちらなのだ。
 エドワードは頷くと、未だ嗚咽が続くキャスリーを優しく離した。
「キャシー、お前は部屋で休んでいなさい。夕食は三人で食べよう」

「ぐずっ、はい、お父さま」

 ばたり、と扉が閉まり、部屋は急に静かになる。
 では、手紙を見せてもらおうか。
 そう言ったエドワードの顔は引き締まり、辺境侯の領主へと戻っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...