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第六章 女神の洗濯
フォレスト・イゾー草
しおりを挟むイングウェイらと別れたサクラは、ミリリッ太とともに森の奥へ進んだ。頼まれていた薬草は、ブラック・ミストランド草とウッド・グラインド草の青いやつ、そしてフォレスト・イゾー草の三つだ。
「ミリリッ太、見分けられないなら私が探すから、教えた草を摘んでいってね」
「へい旦那、すいやせん、あっしの目がないばっかりに」
「いいよ、それは仕方ないよ。あ、まずはこれとこれね」
「へい旦那、これっすね」
ミリリッ太はサクラの指示通りに、薬草を次々とむしり、バスケットの中に入れていく。
小さな手は薬草を傷つけることなく、器用に素早く摘んでいく。これは嬉しい誤算だ。
「えーと、あとはー、フォレスト・イゾー草かー。そもそも見つかるかどうかわからないレアものなんだよね、たしか」
「旦那、旦那、サクラの旦那!」
「へい、なんでぇミリリッ太! ……て、うつっちゃったじゃないか! どしたの?」
「へい、あっちの方からかすかに嫌な気配がしやっす!」
えー? 半信半疑でサクラが木陰に目を凝らすと、茂みがざわざわと揺れ、大きな熊が現れる。
ぎしゃー、ぐおー!
「旦那、あっしはどうしましょうか、戦いますか?」
バスケットを置き、ちゃきっと構えを取るミリリッ太。サクラは冷静にツッコミを入れる。
「いや、無理でしょ。蹴飛ばされて終わりだよ」
下がってて。そういうと、サクラは名刀モモフクを抜いて熊にとびかかる。
迫りくる大きな爪をあっさりかわすと、脳天にガツンと一撃、カタナの峰を打ち付ける。
ぐっふう!
熊はうめくと、そのまま四つ足で転がるように茂みに入っていく。
「かわいそうだから、お仕置きだけね。あんまり人間に手を出しちゃだめだよ」
「すげえよ旦那! いやあ、強いんですねー。おみそれしやした!」
えへへー、と照れるサクラ。頬が少しだけ桃色に染まり、桜色の髪とおそろいになる。
「……あのー、すみませーん」
か細い声が下から聞こえた。
「あれ、ミリリッ太、今なんか言った?」
「言ってやせんぜ、旦那。おそらくこいつでしょう」
ミリリッ太が指さした先には、一匹の蜥蜴がいた。
「あたしは坂東黒蜥蜴のゲルゲルユシと申します。あの乱暴な熊にはいつも困っていたのです、助けてくれてありがとうございました」
蜥蜴は礼儀正しく、そして器用に直立し、頭を下げる。
「ああ、はい、これはご丁寧に」
サクラもつられてひざまずくと、「どうも」っと言いながら礼を返す。
「つきましては坂東黒蜥蜴族に伝わるある薬を、お礼としてあなたに進呈しようかと思うのです」
「え? は、はぁ……」
薬はいわゆる惚れ薬だった。坂東黒蜥蜴族の秘伝であり、人間たちの間でも高値で取引されているらしい。
かつては商人たちが森を訪れ、直接彼らと取引したりしていた。だが、今では材料となる薬草も少なくなってしまい、あまり手に入らないという。
「え、そんな貴重なものなんですか? 別にお礼なんていいですよ」
「旦那、サクラの旦那。もらっとくんですよこういうものは! 使わないにしろ、売り飛ばせば金になりやすぜ!」
遠慮するサクラに、強引にもらおうとするミリリッ太。
ゲルゲルユシは言った。
「これを売るなんてとんでもない。あなたが使うべきです。桃色は我ら黒蜥蜴族にとって、恋の色。桃色の美しい色の髪の毛を持つあなたは本来おモテになるはずだが、現実はそうではないようだ。そんなあなたを見過ごすなんて、黒蜥蜴族のプライドが許せません。どうか、これで乙女の幸せをつかんでください」
ゲルゲルユシは惚れ薬をサクラに押し付けるように渡すと、ちょろちょろとすごい速さで走り去っていった。
「えー、困ったなあ。どうしよう、これ。惚れ薬……、かあ」
サクラの胸に浮かぶ男性の名は、イングウェイ・リヒテンシュタイン。
それは間違いなく恋ではあるのだが、どこまで本気の気持ちなのか、サクラ自身悩んでいる。
ゲルゲルユシに悩んでいる自分を見透かされたような気がして、応援してくれる嬉しさよりも困惑の方が大きかった。
「どうしよーか、ミリリッ太?」
「決まってますぜ、旦那。それを売って、金で愛を買うんです! なんなら既成事実を作る手伝いをしやしょうか? あっしが旦那の思い人の前で、どぎつい酒を腹に隠してスキットルに化けとくんでさぁ。あっしの酒をぐびぐび飲ませたら、あとは酔いの勢いに任せたまま、熱い夜を迎えられますぜ!」
「はーあ。もしそんなことしたら、マリアに頼んで炉にくべるからね? ネジかクギに打ち直してもらっちゃうよ?」
使うべきか、使わぬべきか。迷い迷われ惚れ薬。
そしてフォレスト・イゾー草は忘れられるのだった。
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