賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
55 / 200
第六章 女神の洗濯

わかっているんですのよ

しおりを挟む
 ダンジョンと普通の洞窟には、明確な区別がある。それは、『コア』の存在だ。

 この世界のギルドでは、魔石を核としてダンジョンが生まれるという説明を受けた。
 だが、それは事象の半分しか捉えていない。

 確かに高純度の魔力性物質は、周囲をゆっくりと汚染していく。汚染された物質はそれ自身も魔力線を出し始め、それが更に周囲を汚染し続ける。
 これがダンジョン化と呼ばれる現象だ。

 魔石や魔道具マジックアイテムなどは確かに『高純度の魔力性物質』の代表だが、人や魔物、植物なども核になりうる。
 生物がダンジョンコアになるには、相応の魔力量、強さに加え、長期間その場を離れないことなど、色々な条件が必要だ。
 非常に珍しいことではあるが、決して前例が無いわけではない。

 そしてその成り立ちから、生物をコアとしたダンジョンは、強力で攻略難易度も高いものが多い。

 暗く影のあるフィールドに包まれていたり、陰湿な悪い呪いを内包していたり。
 レイチェルを襲った記憶喪失アムネジアの呪いなどは、まさにそれに当てはまる。



 事情を説明すると、フィッツとキャスリーは深刻そうに顔を見合わせる。

「結局、解呪するには、ダンジョンコアをつぶしてダンジョンブレイクするしかないのかにゃん?」
「おそらく、それが一番早い。しかし――」
 俺は言葉に詰まった。

 この規模のダンジョンなどいくつもつぶしてきた。経験上、核となるモンスターの強さにも、ある程度見当はついている。
 二度の転生を経て魔力が落ちている俺でも、一対一で戦えば、まず問題なく勝てるだろう。

 しかし、皆を守りながら戦うとなると。

 迷っている俺を見て、我慢できずにキャスリーが言った。
「単刀直入に聞くわ、イングウェイ。わらわたちは、あなたの足手まといですの?」

 いや、そんなことはない。彼女らを安心させる言葉を吐くのは簡単だ。
 しかし、それでいいのか俺。

 気づくと、キャスリーのピースメーカーを持つ手が、かすかに震えていた。

「わかってるんですのよ、インギー。あなたがわらわたちの安全を一番に考えてくれているのは。でも、少し過保護過ぎじゃなくって? わらわたちは仲間であって、一方的に守られる関係じゃないんですのよ?」

 キャスリーのセリフに、フィッツも腕を組み、うんうんと頷いていた。

 ふっ、どうやら俺が間違っていたようだ。
 年下の女の子に教えられるとは、まったく、俺もまだまだだ。

「いいだろう。奥に進むぞ。だが、ボスは俺一人でやる。みんなはレイチェルを他のモンスターから守ってやってくれ」
「はい!」
「はいにゃー」

 さっきまでの張りつめていた空気は嘘のように消え、明るい声がダンジョンにこだました。

「行くぞ、レイチェル!」
 俺は隣で飲んでいるレイチェルに声をかける。

 レイチェルの記憶喪失アムネジアの呪いはさらに進んでいる。私たちの記憶や事情は失われているものの、死霊術ネクロマンシーは問題なく使えているようだ。
 この様子からすると、どうやら最近の記憶から順に失われているのだろう。

「あ、はいー、待ってください、ついていくからもう一本ビールくださーい。ひっく、うまー」

 ……やはり普段とあまり変わらない気がしてきた。
 ただ単に酔っているだけだという可能性も、いまだ捨てきれない。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...