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第六章 女神の洗濯
暗い記憶
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~レイチェル・ヘイムドッター~
気付くと私は、とあるダンジョンの中にいた。
初めて見るダンジョン、そして初めて見る仲間。
そう、私は初対面の人たちとパーティーを組んでいたのだ。
……って、そんな馬鹿な!
普通ならありえない状況だが、本当なのだから仕方ない。きっと私にも事情があるのでしょう。
リーダーは、美形のお兄さん。頭も良く、頼りにされている。というか、こいつの頭の回転はヤバいです。
「えーと、あなたたちって……」
「ああレイチェル、よく聞いてくれ。君は今、記憶喪失状態にある。覚えていないだろうが、俺たちは仲間だ。みんなでダンジョン攻略に来たところ、君だけが変な呪いにかかってしまったのだ」
「信用でき……」
「騙そうとしているのでも幻覚でもない。と言っても信用できないだろうから、君は俺たちの後方からついてきてくれるだけでいい」
「私は戦い……」
「ああ、敵はすべてこちらで引き受ける。間違っても戦おうなんて思うな。いつもみたいに後ろで酒を飲んで酔っ払っていろ」
私がしゃべろうとした先は、すべてこの男につぶされてしまいました。
……なんでしょうか、この「俺はわかっているから」的な態度は。少し強引ですが、不思議とイヤじゃありません。
というか、「後ろで酒を飲んでいろ」ってどういうことでしょう、いつもの私って一体何なんですか!
やっぱり少しイライラして、ビールをがぶりと飲み干します。 ……はっ、しまった。これでは本当に、彼らの言う”いつもの私”じゃないか。
そんなことを考えていると、突然恐ろしい咆哮が聞こえてきました。
ぐやーん、ぎゃおー。
筋骨隆々の牛頭の巨人が、でっかい斧を振り回して、イケメンの彼に襲い掛かります。
魔法を使えない男は脳筋戦士、筋肉のない優男は歌手か飛び道具使いと相場が決まっているのですが、彼はイケメン優男のくせに、難なく前衛をこなしていました。
すごい勢いで振り下ろされる斧を、まったく危なげなくかわしています。かわすと同時に牛の足元に≪火球≫を放ったり、後ろの銃使いが狙われそうになると、さっと割って入って≪幻影≫の術でかく乱したり。
素人目に見てもすぐに、彼が恐ろしいほどの達人であることがわかりました。
というか、あれ? よく見るとあの男、魔法も使ってませんか?
一瞬の不意を突かれ、あっという間に炎に包まれて倒れる牛男(ミノタウロス)。
どういうこと? 男のくせに魔法を使うだって?
私はその事実に、妙な親近感を覚えた。なぜなら、私も同じだからだ。
医者のくせに、患者を治すよりゾンビーにする方が得意な、死療術を使うはぐれもの。
◇◇◇
思い出します。最初にパーティーを組んで冒険に出かけたときのこと。
相手は、私と同じ新米冒険者。経験もまだ少なかった私たちは、調子に乗ってダンジョンの奥深くに潜り、全滅しかけたんです。
一人倒れ、二人倒れ。
魔法使いの彼女に攻撃が迫った時、私はつい、あの術を使ってしまった。
私の術に反応して、倒れたはずの剣士の男が立ち上がり、攻撃を受け止めた。
剣士は既に痛みも何も感じない体になっており、左腕がもげながらも、なんとかモンスターを撃退した。
「はあ、はあ。 ……ありがとう、助かったわ」
「オヤスイ ゴヨウデス、れいちぇる・サン。 ツギノ メイレイヲ ドウゾ」
剣士の頼もしい返事は、魔法使いの心には届かなかった。
「なにそれ、あなた、なにやってんの? きゃーーーっ!」
彼女はパニックになって走りさり、それっきりだ。
◇◇◇
いつの間にか牛男は地に付し、イケメンは笑顔で戦いの後始末をしていた。
先に進むなら、私も何か手伝わないと。かばってもらうだけで生き残れるほど、ダンジョンは甘くない。
だが、私が力を見せたとき、やはり彼らも私を嫌うのだろうか。
それとも――
いや、考えるのは後にしよう。ここは既にダンジョンの奥深く。どちらにしろ彼らの助けなくては、帰ることはできない。
私は不安な心を押さえつけながら、謎の男性魔術師の後をついていった。
気付くと私は、とあるダンジョンの中にいた。
初めて見るダンジョン、そして初めて見る仲間。
そう、私は初対面の人たちとパーティーを組んでいたのだ。
……って、そんな馬鹿な!
普通ならありえない状況だが、本当なのだから仕方ない。きっと私にも事情があるのでしょう。
リーダーは、美形のお兄さん。頭も良く、頼りにされている。というか、こいつの頭の回転はヤバいです。
「えーと、あなたたちって……」
「ああレイチェル、よく聞いてくれ。君は今、記憶喪失状態にある。覚えていないだろうが、俺たちは仲間だ。みんなでダンジョン攻略に来たところ、君だけが変な呪いにかかってしまったのだ」
「信用でき……」
「騙そうとしているのでも幻覚でもない。と言っても信用できないだろうから、君は俺たちの後方からついてきてくれるだけでいい」
「私は戦い……」
「ああ、敵はすべてこちらで引き受ける。間違っても戦おうなんて思うな。いつもみたいに後ろで酒を飲んで酔っ払っていろ」
私がしゃべろうとした先は、すべてこの男につぶされてしまいました。
……なんでしょうか、この「俺はわかっているから」的な態度は。少し強引ですが、不思議とイヤじゃありません。
というか、「後ろで酒を飲んでいろ」ってどういうことでしょう、いつもの私って一体何なんですか!
やっぱり少しイライラして、ビールをがぶりと飲み干します。 ……はっ、しまった。これでは本当に、彼らの言う”いつもの私”じゃないか。
そんなことを考えていると、突然恐ろしい咆哮が聞こえてきました。
ぐやーん、ぎゃおー。
筋骨隆々の牛頭の巨人が、でっかい斧を振り回して、イケメンの彼に襲い掛かります。
魔法を使えない男は脳筋戦士、筋肉のない優男は歌手か飛び道具使いと相場が決まっているのですが、彼はイケメン優男のくせに、難なく前衛をこなしていました。
すごい勢いで振り下ろされる斧を、まったく危なげなくかわしています。かわすと同時に牛の足元に≪火球≫を放ったり、後ろの銃使いが狙われそうになると、さっと割って入って≪幻影≫の術でかく乱したり。
素人目に見てもすぐに、彼が恐ろしいほどの達人であることがわかりました。
というか、あれ? よく見るとあの男、魔法も使ってませんか?
一瞬の不意を突かれ、あっという間に炎に包まれて倒れる牛男(ミノタウロス)。
どういうこと? 男のくせに魔法を使うだって?
私はその事実に、妙な親近感を覚えた。なぜなら、私も同じだからだ。
医者のくせに、患者を治すよりゾンビーにする方が得意な、死療術を使うはぐれもの。
◇◇◇
思い出します。最初にパーティーを組んで冒険に出かけたときのこと。
相手は、私と同じ新米冒険者。経験もまだ少なかった私たちは、調子に乗ってダンジョンの奥深くに潜り、全滅しかけたんです。
一人倒れ、二人倒れ。
魔法使いの彼女に攻撃が迫った時、私はつい、あの術を使ってしまった。
私の術に反応して、倒れたはずの剣士の男が立ち上がり、攻撃を受け止めた。
剣士は既に痛みも何も感じない体になっており、左腕がもげながらも、なんとかモンスターを撃退した。
「はあ、はあ。 ……ありがとう、助かったわ」
「オヤスイ ゴヨウデス、れいちぇる・サン。 ツギノ メイレイヲ ドウゾ」
剣士の頼もしい返事は、魔法使いの心には届かなかった。
「なにそれ、あなた、なにやってんの? きゃーーーっ!」
彼女はパニックになって走りさり、それっきりだ。
◇◇◇
いつの間にか牛男は地に付し、イケメンは笑顔で戦いの後始末をしていた。
先に進むなら、私も何か手伝わないと。かばってもらうだけで生き残れるほど、ダンジョンは甘くない。
だが、私が力を見せたとき、やはり彼らも私を嫌うのだろうか。
それとも――
いや、考えるのは後にしよう。ここは既にダンジョンの奥深く。どちらにしろ彼らの助けなくては、帰ることはできない。
私は不安な心を押さえつけながら、謎の男性魔術師の後をついていった。
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