賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
60 / 200
第七章 製造と販売

ぜんっぜんわかってないんですけど!

しおりを挟む

「というわけだ、マリア。俺は反省しているので、サクラの機嫌を直す方法を教えてもらえないだろうか。俺としては、埋め合わせとして次回のダンジョン探索に連れていくのが一番だと思うのだが――」

 とてかん、とてかん、と軽快なドラムのビートが響く。
 今日も俺は、夜な夜な、マリアの鍛冶レベル上げに付き合っている。レイチェルは酔って寝てしまったため、二人きりだ。

「あのさー、イングウェイ、それって本気で言ってるの?」
「ん、どういうことだ?」

 マリアは手を止め、じっと俺の目を見て続けた。

「ほんっとーに、サクラが、ダンジョンに連れてってもらえなかったことを怒ってると思ってるの?」

「……違うのか?」

 はーあ、とこちらにまで聞こえる大きなため息をつき、マリアは立ち上がる。そばにあった白いワイシャツを手に取る。
 彼女が愛用している、男物の少し大きめのやつだ。

「着替えるから、少し後ろ向いててくれる?」

「ん? ああ、わかった」
 静かな工房に、さらさらと衣擦れの音が響く。
 次いで、とくとくと酒を注ぐような音。マリアが焼酎の水割りを布に染みこませ、細部を消毒しているのだろう。
 揺らめく炎が、壁にぼんやりとした影を映し出している。ほっそりとした体の線が見え、なんとなく気まずくなり目を逸らす。

「もういいよ、こっち向いても」

 マリアは、素肌の上から白いシャツを直に着ていた。
 そういえばこの世界ではブラは付けないのが普通だったな。マリアは魔力が少ないため、服のしわに隠れているのが幸いだ。
 それよりも、うっすら透けて見える縫い目が痛々しい。
 俺は優しくシャツの上から撫でてやる。回復呪文(ヒーリング)は不得意だが、何もしないよりはましだろう。

「インギー、そういうところだよ。『わかってない』っていうのは」
 マリアに珍しくインギーと呼ばれてしまった。しかし、何のことやら、俺はまだわからない。

 汗ばんだ体にシャツが張り付き、ぺっとりと素肌が透けていた。
「すまない、気遣いが足りなかったようだ」

 俺はマリアが使っていた芋焼酎を一口拝借した。芋臭さが苦手なものもいるが、この香りなくしては芋焼酎とは言えない。
 マリアのカップが空になっていることに気付き、少しだけ注いでやる。ゆっくり口を付けると、マリアは少しだけ震えた。

「寒いのか?」と俺が聞くと、マリアは「少しだけ」と答えた。
 夜だし、汗をかいたことで体を冷やしたのだろうか。さっきまでは火のそばだったからな。

 俺は≪温水ホット≫の魔法をマリアのカップに唱えた。

 湯気とともに立ち上るアルコールが、鼻と喉を優しく包んでいく。芋の香りはさらに奥深く広がり、一口飲むだけで熱が全身を回っていく。
 麦も米もそれぞれの良さがあるが、ことお湯割りとなると、芋は別格である。森の奥深くにある、澄んだ泉を思わせる芳香。疲れた心と体を優しく包み込んでいく。
 素晴らしき癒しの酒、芋焼酎。

「あったかいね」
「ああ、そうだな」

 そのまま、静かな時が流れていく。
 マリアが少しだけ身を寄せてきた。まだ少し寒いのだろう。薄手のシャツ越しに、ゾンビの控えめな体温が伝わってくる。
 肩を抱き寄せる。白い布がくしゃりと紙のように折れ曲がり、



 ――がたん、ばたっ、どたっ。
 突然扉の向こうでやかましい音がした。

「ふひー、いんぐうぇーさーん、いっしょねよー?」

 レイチェルか。お風呂上りらしく、ぽかぽかの体。しっとり濡れた黒髪。
 そして、可愛らしいしゃれこうべ模様のパジャマ。

「仕方ない、マリア、今日はここまでだ。俺はレイチェルを連れていくぞ」
「あ、うん、お休み……」

 レイチェルに近寄ると、彼女は首に手を回すようにしがみついてきた。
「むにゃむにゃ、いんぐうぇー、すきー」

 胸がきついせいで、彼女は大人用の少しぶかっとしたパジャマを愛用している。
 おいおい、袖から手が出ていないではないか。これではこけてしまうのも無理はない。
 どうせさっきも、ズボンの裾を踏んでこけたのだろう。

 俺はレイチェルを抱きかかえ、ベッドに連れて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...