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第七章 製造と販売
ヴォーテックス
しおりを挟むホームに帰ると、俺はヴァンパイアの件を皆に報告し、マリアの工房に向かった。
「さ、早く実験してみようよ。今度の試作品は自信あるんだ」
「ああ、期待している。武器だけじゃなくて、こんな工作も得意だとは、やはりマリア、君は頼りになるな」
「へへー、戦えない分、こっちでは頑張らないとね!」
実は、任せていた洗濯機の試作品ができたとマリアから連絡があったのだ。
うまいアイデアが出なかった俺は、もういっそ大渦の呪文を込めた魔石を鍋にぶち込んだ方が早くないだろうかとすら考えていた。以前のミキサーのように、服がぼろぼろになるかもしれないが、そこは防御魔法を応用して、と。
「じゃーん、これが新作、全自動洗濯機でーす!」
なんと!?
見せてもらった試作品は、驚きの完成度だった。
形は(俺から見たら古臭いが)二層式の洗濯機。違うところといえば、左右に手回し用のレバーがついているところか。ドラム型は結局ボツになったようだ。
「これにね、鍋を2重構造にして、内側の鍋に穴をあけてみたんだ。これで排水するときも楽なんじゃないかと思って。でね、ここを回せばこういうふうに回るんだ」
マリアはレバーをくるくる回しながら説明する。
左側の洗濯槽に、ゆっくりと渦が生まれていく。
「しかし、動力は魔石にするんじゃなかったのか? 手動とはいえ、可動部分を増やすと壊れやすくなるから、あまり賛成できないのだが」
「あー、確かに注文とは違うよ。でも、そこはねー、使う人のことを考えたらやっぱり必要かなって思ったのさ」
マリアが申し訳なさそうに言った。
いや、別に俺は怒っているわけではないんだ。マリアの意図が知りたい。そういうと、マリアは説明を始めた。
「イングウェイが狙っているお客さんって、キャンポーテラ教の信者たちなんでしょ? それなら、そのー……、言いづらいけど、ボクみたいに胸が無い人が多いと思うんだ。それこそ魔石の充電にも困るような。
それともう一つ、魔石はそこそこ高価だ。特に魔力充電型のものはね。だから、イングウェイが狙っているような底辺信者たちには、手が出せない金額になるんじゃないかなって思ったんだ。
でもね、言われた通りに魔石もちゃんと取り付けられるようにしてあるよ。魔力と手動と、切り替えられる構造にしてあるんだ。……ダメ、だったかなあ?」
ダメだと? とんでもない。ダメなのは俺のほうだった。
「すごいじゃないか、マリア。俺の予想以上だ。俺の方こそ、そういう細かいところに気付いてやれず、すまなかったな」
マリアはようやく安心したのか、えへへーと照れたような笑いを見せた。
「ところでこっちは、例の脱水機構か?」
「うん、最初は一つの鍋でまとめて洗濯も脱水もーって考えてたんだけど、それだと上手く排水できなかったりとかの問題があってさ。これだとほら、左右でギア比が変えられるから、洗濯用の鍋はゆっくりと、脱水の鍋は早く回るようになってるんだ」
「ギアボックスで切り替えるようにできなかったのか?」
「それこそ壊れやすくなるからダメだね。うちで使う分だけなら全然かまわないけど、お客さんに売るんでしょ? ガチャガチャ切り替えるような構造にしたら、たぶん一年後とか――、もっと先かもしれないけど、一気に壊れ始めたときに修理が追っつかなくなるよ。
それに、実際にテストしてみて思ったんだ。手動だと意外と洗濯時間がかかるから、同時に両方使えるこの形のほうが、かえって良いんじゃないかなって」
「なるほど、すごいな、よく考えられている。これほどだとは思わなかったぞ」
「えへへー、そう? ありがとう。でもまだ試作品さ、改良するところはたくさんあると思うよ」
「いや違う、洗濯機ではなくお前のことさ、マリア。これほどまでイイ女だとは思わなかったぞ」
本心だった。腕の良さは感じていたが、発想の柔軟さや細かい配慮。ここまでできる女だとは正直思わなかった。
マリア、君は世界一のゾンビーだ。
「え? えええ? でもボクってほら、かわいくもないし! え、うそ! そんなこと言われたのって初めてだよー」
マリアの青白い顔が真っ赤に、ではない。青黒く染まった。健康は大丈夫だろうか。
心配で触ろうとすると、「だめーーー」と叫んで、小走りでどこかへ消えてしまった。
まあゾンビだから、死ぬことはあるまい。
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