賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第八章 渦巻く嫉妬

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「はいはーい、魔力増強希望の方は、こちらの列に並んでくだちゃーい」

 レイチェルはうっきうきで客の列をさばいていく。列の先頭は、設置された簡易テントの中に続く。
 俺はその中で、一人一人に魔力的な治療を施していた。

「あ、あのっ、私も大丈夫なんでしょうかっ!? こんなまっ平な胸でも、ちゃんと魔力が増えるのでしょうか?」
 切実な目で訴えるご婦人の胸は、レベル計を置いてもぴくりとも反応しそうにないほどの平坦さだ。
「ええ、もちろんでちゅ。ナウマンダーヴ様のご加護は、すべての人に届くんでちゅよ」
「お願いします、もうあなたしか頼れる人はいないんですっ」
「ああ、わかった。わかったから、そんなに拝まないでくれ」
 俺はご婦人の胸に優しく手を置き、ゆっくりと魔力を巡らせていく。キャスリーの時にやったのと同じ要領で、体中に散っている魔力を胸へと集めていく。

 はあ。これで何人目だ? 朝からずっと続く客の列に、俺はいい加減うんざりしてきた。

「お願いします、あたしも、胸を大きくしてください! クラスで憧れの先輩は、魔力が高い人が好みだって……」
「いいでちゅよ、ではナウマンダーヴ様へお布施をお願いしますー」
「え、でも、あたしの家はキャンポーテラ教を……」

 その名を聞いたレイチェルの目に、さっと影が落ちる。

「ああ、それは残念。ナウマンダーヴ様は、自分を信じてくれない人を助けるほど暇じゃないんでちゅ!」
「そ、そんなぁ」

 はあ。見かねた俺は、テントから出ると、レイチェルの首根っこを掴んで持ち上げた。

「ぐえっ、なにするんでちゅか、インぐうぇーさんっ」

「おい、レイチェル。客を差別するなと言っただろう。俺は、魔力をうまく使えずに困っている人を助けるということで協力してるんだ。約束を破るなら、これ以上は無しだ」
「えー、でも、それじゃお金が―」

 文句を言うレイチェルを無視して、俺は少女をテント内に誘う。
「どうぞ、いいから入って」
 前の世界なら、高校生くらいに見える。これくらいの年齢なら、ほっておいても勝手に育ちそうなものだが。
 いや、この世界の人間は成長が遅い気がするので、見た目で判断しづらい。こんなに悩んでいるということは、おそらく成人しているのだろう。

「お願いしますっ」
 少女は目をつむり、観念したように胸をあらわにする。
 いや、服の上からでいいから。

 そんなこんなで、俺は魔力を増やしたいという女性たちの願いを、かなえていった。



 昼過ぎだろうか、妙な客が来た。
 マスクに頬かむり、眼鏡らしきものをして、顔がさっぱり見えやしない。
「ここにくれば、おっぱ……いえ、魔力を増強していただけると聞いたのですが。」
 もごもご話しているので聞き取りづらいが、どこかで聞いたような声だ。

「ええ、そうですね。ただ、一時的なものであり、定着するかどうかはその人の相性と努力次第なのですが」
「かまいませんっ! ぜひ、私をきょにゅ……ちがった、ま、まりょくっ、強力な魔法使いに憧れているんです、お願いしますっ!」

 ……こいつ、怪しいな。
 そう思ったのがまずかった。俺は彼女の顔をにらむように見てしまう。
 彼女と目が合い、むこうは「あっ」と小さく声をあげた。

 間違いない。一瞬で隠したが、確かに今、殺気を感じた。さては、暗殺者か?
 俺は相手に気取られないように、テントの外の気配を探る。特に怪しげな魔力などは感じない。単独か?

 唐突に女が聞いてくる。
「あっ、あの、やっぱりその、胸を触るんですか?」
 やはり、敵か? 治療という言葉を信用せず、こちらのことを警戒しているようだ。俺は優しく微笑み、さらに相手の反応を確かめる。
「ええ。でも心配いりませんよ、皆さんやってらっしゃることですから」
 女は少しだけ悩んだものの、「お願いします」とはっきりと口にした。

 こんなところでキャンポーテラ様をコケにするようなことをするのだ。教団からの報復があるのはわかっていた。
 俺はすぐにでも攻撃呪文を発動できるように警戒しつつ、そっと女の胸に手を当てる。
 普段は両手でさっさと終わらせるところを、ゆっくりと警戒しつつ魔力を循環させる。

「ああ、なんだか胸がきつくなってきました!」
「ええ、それは魔力が集中している証拠です。体中に分散している魔力を心臓近くに集めることで、魔法を発動しやすい状態にしていくのです」
 相手に魔力を与えるということは、武器を与えるということだ。
 俺が彼女なら、狙うのは施術が終わる瞬間。

「終わりました」

「え、も、もうですかっ?」
 女は驚いたように言う。ありがとうございますっ! と何度も頭を下げつつ、テントを去っていく。

 あれ? なにも攻撃してこないのか?

 拍子抜けだ。思わず逃がしてしまったが、仕方ないだろう。今ここで戦いを始めると、回りへの被害も大きい。
 しかし、何者だ。経験豊富なのは間違いない。最初の殺気は本物だった。おそらくこちらが警戒していることに気付き、途中から情報収集に切り替えたのだ。

 鋭い殺意を持ちつつ、じっくりとチャンスを待つ冷静さ。こちらに急所を触らせる胆力。
 盗賊ギルド絡みか、それともキャンポーテラ教のやつらか。
 面白くなってきた。
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