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№9 Bloody Hammer
Jump in the Fire
しおりを挟むその夜の事、イングウェイはきいきいという妙な鳴き声で目を覚ました。
ぼやけた目を擦り、体を起こす。木製の廊下がきしむ音が混じる。
ぞくりと背筋を冷たいものが通り過ぎ、思わず首筋を指で確かめる。かつんと爪が金属製のジャックに当たる。
「クソったれめ、ドラゴンの次はゴブリンか?」
耳を覆っても、忌々しい鳴き声は止むことはない。腐ったオレンジの汁が紙袋を染みて床を汚すように、脳みそをぐじぐじと揺さぶってくる。
納屋にあるウージーを出しておくべきだった。錆びついているだろうが、殴りつけるには十分だろう。
目をつむっていても、声は大きくなるだけだった。
イングウェイは、本気で耳を切り落とすことを検討し始める。
ベッドから体を起こし、吐き気を抑えて立ち上がる。枕元に合ったウイスキーを口に含み、ゆっくりと飲み下す。
徐々に頭がさえてくる。
と同時に、蒸し暑さもあった。
がたつくノブを握り、ドアに耳をつける。どぶ臭い。何重にも重なった、きいきいという高い声。ひっかくような爪音。かさかさという軽い足音。それらをミキサーの中にぶち込んだあとのジュースの臭いだ。
引き出しに入れてあるリボルヴァーを取り、腰に突っ込む。その横には、古い鉈もあった。切れるだろうか? しかし、持っていかないという選択肢はない。
意を決し、鉈を手に、ドアを開けた。
そこには、はいずりまわる邪悪な小鬼たちがいた。
ゴブリン。醜悪な外見を持つ、低級モンスター。
「ひっ」
イングウェイは一瞬息を飲む。鉈をぐっと握りしめ。目が合った小鬼を思い切り蹴り飛ばす。
ぎゃひっと喉がつぶれたような呻き。これで、さっきの無様に漏らした声と相殺だ。呻きを聞いたイングウェイは、少しだけほっとする。
殺せる、これなら。
しかし、うすら笑いはすぐに消える。
右を向いたイングウェイは、廊下の奥がオレンジ色に輝いていることに気付いたからだ。
ばちばちと爆ぜる音とともに、熱風がほほを撫でる。
ゴブリンたちが我先にと、こちらへ向かってくる。いや、違う。逃げているのだ。
イングウェイは振り返ると、部屋の中へ戻る。そのまま奥の窓をあけ、屋根から地面へと飛び降りる。
最悪の日だった。
「どうしてこうなった? 普通でいいんだよ、普通が。それだけで良かったんだ。あの女のせいか? それとも、その前のダイヴからか? ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう」
イングウェイが外から回って確かめると、火はすでに家の東側全体に回っていた。どうしようもない。
叫び、持っていた鉈を思い切り壁に叩きつける。べきんと鈍い音がする。刃が深く食い込んだので、柄を踏み抜くようにして、乱暴に引き抜いた。
たいした家ではないが、失っていいものでもない。車も既に火の中だ。酒も、銃も、金も。
ゴブリンがわらわらと燃える家から出てくる。
移動をしなければならなかった。奴らが本格的に自分に目を付ける前に。
思考力は酒に奪われていたが、かえって良かったのかもしれない。どうせ考えたところで、何も変わらなかったからだ。
よろよろとよろけながら、イングウェイは走る。
あては、なかった。
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