賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
107 / 200
第11章 パペット・パニック!

どりんきんぐ!

しおりを挟む

 ニセインギーが皆の気を引いている間に、本物の俺が陰から束縛バインドを唱える。
 完璧な作戦だ。
 唯一のミステイクといえば、キャスリーがあまり酔っていなかったことか。
 逆に俺は、酔っ払いだ。重度の酔っ払いだ。それはそうだ、敵をあぶりだすためにまず自分から飲んだからだ。
 飲んだ、そう、焼酎を!
 敵をあざむくにはまず自分が酔わねばならない。仕方ないことであり、世界の真理でもある。

「きゃっ、なにをするんですの!」
 ぱんっ、ぱんっ!

 キャスリーは抵抗し、銃をパンパンと打ちまくる。
 俺は、いや、ニセ俺は、あっさりやられた。ぐあああといううめきとともに、本体が明らかになる。

 イングウェイ・ザ・シェイプシフターは、秘密のヴェールに包まれた本体を現す。

 その姿は、なんとスライムのようなつるりんとしたスライム。
 おもちのようなその姿、透き通るクリアブルーの肢体。手も足もないけれど。

「くっ、何をするのだぁ!」
 口調だけは俺なのだが、やけに高い声で偉そうにぴきーぴきーわめいている。

 俺はなんだかムカついて、蹴っ飛ばしてやった。そうだ、そもそもこいつを持って帰ったイングウェイとか言う奴が悪い。遺跡に封じておけば、こんなやっかいなことにもならなかったのに。
 イングウェイは悪いということは、つまり、ニセの俺も悪い。俺が正当にうっぷんを晴らすには、ニセモノの俺を蹴っ飛ばしてやるしかない。

 ぶにん、と鈍い音がして、つま先にスライムがまとわりついた。
 気持ち悪いが、ここは我慢だ。燃やすのだ。燃えろ。

 俺は炎の術を唱えようとした。
 その瞬間、スライム状の俺は跳ねて室内に逃げ込もうとする。

 俺は追わない。酔っているからむりなのだ。走るのは、まずい。

 今走るととてもいい気分になり、天国に旅立ってしまう。今も必死で正気にかじりついているのだから。

 ああ、おつまみに何か、ください。俺は虚空にお願いする。
 素敵だ。この世は光に満ち溢れておる。そう、空を見上げると無数の星々が俺を祝福している。

 と、そこで俺の脳天にも弾丸が撃ち込まれる。
 すんでのところでかわす俺。さすが俺。

「なんですの、あなた! あなたもニセインギーですの?」
「そうだ、俺もニセインギーでございます」

 俺は酔いのせいで、嘘をついてしまう。いや、嘘ではない。酔っ払いの行動とは、相手の行動の鏡写し。すなわち、俺はこのモンスターと同じ状態にある。
 相手の行動をそのまま真似で返す癖のある酔っ払いは、言葉の意味など考えずに適当な返事を返すのだ。
 そして、そのことを一切覚えていない。
 これは危険だ。


 俺は思い出す。俺はニセキャスリーを探していたのではなかったか?
 このキャシーは本物だ。英語で言うと、モノホンだ。

 つまり、偽物ではない。
 では偽物はどこだ。
 決まっている、こういうときはこういうのだ。

「あなたの心の中にいるのです」と。

 フィッツが聞く。
「なにが心の中にいるんだにゃん?」

 決まっている、偽物だ。
「つまりインギーは、みーたちのニセモノを探しているんだにゃん?」
「そうだ、酒が飲めない。奴らは酒が飲めない」
「なぜにゃん?」
「酔うからだ」

「じゃあ、さっきから全然飲んでないやつが偽物かにゃん?」
「そうだ」
「それはみーだにゃん」
「うそだ」
「うそにゃん」

「「ははははは」」

 フィッツも酔っていた。
 いい気分になった俺は、適当にニセモノを探すことにした。もう、俺がにせものと思ったやつがにせものだ。それでいいではないか。

 一番酔っているだろうというやつを探す。つまり、俺だ。 俺がにせものなのだ。

 俺は俺をポカリと叩く。

 ああ。やられた。眠い。




 ――偽物は、本当に俺だった。
 俺は、偽物だった。ただし半分だけだ。

 やけに体が重たい。庭で目覚めた俺は、体の上にゼリー状の物体が乗っかっていることに気付く。

 なんだこれは?

 変な顔でそれをつまみ上げようか悩んでいると、騒ぎの元の変態鉱石シャイプシフターが言った。
「ありがとうございます。それこそが、私の半身。私の探していた、最後の偽物です」
「お前は、鉱石魔人」
「鉱石ではありません。せめて魔法生物と言ってください。まあいいです。探していた偽物は、どうやらいつのまにかイングウェイさんにへばりついていたようですね」

「では、奴のあの奇行も?」

「おそらく、あなたの酔っ払いとしての思考をそのままトレースしてしまったのでしょう。嘆かわしいことです」

 なるほど、思考すら真似してくるということか。たしかに、酔っ払いの思考で混乱するのは当然だ。
 とはいえ、眠気がひどい。まずい。
 俺は再び眠りに落ちる。目を開けたら幸せのお花畑が広がっていることを信じて。

 うっぷ、気持ち悪い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...