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第12章 魔獣討伐

明け方はいつもブラッケンド

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 あさぼらけ。俺はキャスリーとともに、冒険者ギルドを訪れていた。
 依頼の確認や情報収集のため、マリアも含めた全メンバーが交代で行っている、大切な仕事だ。

 いつも通りにきしむドアを開けると、緊張した空気が立ち込めていた。
 中央のテーブルを囲み、皆がああだこうだと相談をしている。 

「――だからよ、派遣するっていっても――」
「でも、ほっとくわけには――」
「うちは無理だ――」
「――あ、そっちは敵の――」

 こちらにはさっぱり気付いていない。
 キャスリーは少し迷ったものの、強引に話に入ろうとして、声をかける。冒険者という仕事は、待っていても始まらないのだ。

「おはよーございますですのー!」
 テーブルの皆が顔をあげ、一斉にこっちを振り向く。

「おお、イングウェイの旦那じゃねえか」
「あ、インギーさん、キャスリーさん! 待ってましたよ」
「ちょっと聞いてくれよ」

 待ってたという割には、誰一人俺達に気付かなかったじゃないか。まあ、それだけ真剣に話していたということか。
 集まっていたメンバーは、そうそうたる顔ぶれだ。
 Sクラスギルド、『憂鬱な日曜ブルー・サンデー』のリーダー、イアン。同じくSクラスギルド『白蛇ホワイト・スネイク』のリーダー、デイヴィッド。『ストーム・シーカー』所属、多彩な魔術を使い、大魔導士の称号を持つリッチー。
 フリーの冒険者でありながら情報収集だけでSクラスと言われる、盗賊エヴァンス。同じくフリー冒険者で、強さだけを求め傭兵のようにギルドを渡り歩く、剣士グラヴァー。そして一服の清涼剤、アリサ嬢。


「一体どうした?」
「北方の魔獣どもの活動が活発になったらしく、王国も軍を派遣して討伐に向かうってんだよ。で、普段なら「がんばれー」で終わるんだが、今回は俺たち冒険者ギルドにまで声がかかってなあ」
 ――北方か。キャスリーの眉がぴくりとうごく。レノンフィールド領の方角だ。
 彼女の故郷であるレノンフィールド領は、王国の北端に位置し、魔獣襲撃の防波堤となっている。

 正面から来るならもちろんのこと、北方から攻められた場合、孤立する恐れもある。とても危ない。

 俺は聞いた。
「で、それで何の相談だ? これだけの顔ぶれを揃えておいて、誰が行くかなんてことを話してるわけでもないだろう?」

 イアンが笑いながら言う。
「ははは、このメンバー相手にそこまでバッサリ言えるやつはお前くらいよ。だからこそ、お前さんを待ってたのさ」
 イアンは酒場で酒をおごられてからの親友だ。

 いつも思うのだが、上位クラスの冒険者に委縮する奴らが多いのはなんでだろうか。
 先達に敬意を払うのは当然だが、敬意の払い方を間違えてはいけない。間違っていることはきちんと言うべきだし、助け合うということは、こちらも上位者を助けるということだ。
 と、そのようなことを以前酒の席で言ったら、偉く気に入られてしまった。俺からすればごく当たり前のことなのだが。

「なにをすればいい? あまり面倒なことはパスだぞ?」

「そんなことを言いながら、いつも仕事はちゃんとこなすじゃない。例えAランクの依頼でも、平気な顔をしてクリアしてくるんだから。信頼してるわよ」
 リッチーが、肩を叩きながら言った。
 リッチーは酒場で酒をおごってやってからの親友だ。ムダ遣いがひどいので、リーダーに財布を握られている。
 酒場の窓から指をくわえて中を覗いていたので、一杯おごったのだ。
 魔術師らしく、「では一杯だけ」といいつつ、酒樽一杯飲んだあげくに、料金をこちらに押し付けてきた。さすが魔術師、ずるがしこい。

「じゃあ、オレから説明しようか」
 妙に馴れ馴れしいのは、情報屋エヴァンス。酒場で隣で飲んでいて意気投合した。こいつは腕っぷしはたいしたことないが、相手を酔わせて情報をいただくずるいやつ。

「今回の件、単に魔獣どもが暴れているわけではなく、裏で糸を引いているやつがいる。つまり、魔族が魔獣たちの群れを率いているってわけさ。わざわざ俺たち冒険者にまで声をかけてきた理由が、それだ。
 王国軍も、前回の襲撃でこりてて、魔族の相手を俺たち冒険者に押し付けたいんだろうな」

「なるほど。だが、軍の考えもわからんでもないがな。軍の強みは集団戦だ。魔獣の群れは軍が受け止め、数は少なくとも個の強みを持つ魔族を、冒険者が引き受ける。理にかなっていると思うが」
「そうやって理性的に考えられるやつばかりなら、楽なんだがなあ」

 デイヴィッドが頭をぽりぽりかきながら続けた。
「よりにもよって、遠征部隊の隊長に選ばれたのは、獅子顔のタントゥーロだ。冒険者嫌いの、な。どんな無茶な命令が来るかわからんが、高ランク――俺たちみたいな――冒険者がほいほい従うと、冒険者ギルドのメンツに関わる。かといって反発しても揉めるだけ。さすがに王国軍とやりあうわけにはいかんからな」
 タントゥーロ。奴のことは有名だ。主に、悪い意味で。
 兵の使い方はうまいが、卑劣な罠を仕掛けるのが好きなのだ。軍としては勝つものの、敵は死屍累々、味方は戦意喪失。そして顔が怖いので、誰もそれに意見ができない。
 ついたあだ名は獅子顔。

「ついでに言うと、あまり高ランク冒険者ばかり派遣すると、王都の守りが薄くなるのよね。だって、魔獣を集めてるの自体が、魔族の罠かもしれないじゃない? こないだみたいな襲撃があったら、冒険者ギルドそのものが危なくなるわ」

「そこで、だ。ランクが低く、そのくせアホみたいに強いお前らが――。いや、お前こそが適任なんだ、インギー」

「話はわかったが、俺たちはまだDランクだぞ。さすがにランクが低すぎて、軍の信用が得られないのでは?」
「そこは大丈夫だろ。お前らがこっそり王からの依頼を受けてるの、知ってんだぜ。それに、レノンフィールドのキャスリーお嬢さんもいる。参加する理由としては、ごく自然だと思うぞ」

 なるほど、そこまで知られていたなら話は早い。飲み友達の頼みを断るわけにもいかんしな。
「仕方ない、引き受けよう」

「お前ならそういうと思ってたぜ! ありがとう」
「報酬ははずめよ」
「わかってる」

「すまんな。面倒ごとを押し付けて」
 エヴァンスは俺の肩を叩きながら言った。
「かまわんさ。それに、場所を聞いた時点で予感はしていた」

 後ろで静かに聞いていたキャスリーだが、そわそわしていたのには気づいていた。ほっておくと、一人ででも飛び出していきそうだったからな。

 俺たちは酒を飲みつつ、細かい作戦を練る。俺たち以外で派遣されるパーティーもいるし、どこまで情報を共有しておくか、戦闘になった時の分担など、考えることは山ほどある。
 最終的には俺たちミスフィッツがメインで動くことになるのだろうが、連携できるところはしておかねば。
 まずはギルドの依頼を通じてヴォランティアとして戦場に行き、タントゥーロの近くで戦いつつ、魔族が襲撃してきたら相手をする。
 やれやれ、Dランクギルドなんかに、こんな厄介な話を持ってくるお前らの気がしれん。

 誰を連れていくべきかも、悩んでいる。
 キャスリーは抱き着いてでも付いて来ようとするだろうし、あまり大勢ででかけて王都を空にするわけにもいかん。そして最近のサクラは、なんだか怖い。
 ううむ、誰と一緒に行くべきか。
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