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第12章 魔獣討伐

悲しみの残りかす

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 まさかのレッドドラゴンの襲来から二日。俺たちは予定通りアサルセニア軍の野営地へとたどりついた。
 ばたばたと行き交う兵士たちの様子に、俺たちの身も自然と引き締まる。

「ふぁああ、やれやれ。やっと着きましたか」
 あくびをしながら荷馬車から降りてきたのは、俺たちの担当役人のカインだ。今までにやった仕事といえば出発の時の点呼くらいだが、大目に見てやろう。到着してしまえば、さすがに奴も忙しくなるはずだ。
 書類仕事の面倒さを知っている俺は、若干の同情とともに奴の後姿を眺めていた。

「なんですって、書類が回ってきてない?」
「いや、しかしだな、」
「しかしも何も、ちゃんと手続きはしてるはずですよ。だいたいこっちはせいぜい20人程度なんだから、受け入れる余裕くらいあるでしょう」

 ほら見たことか、もう揉めている。
 だいたいこんなもんなんだ、役所というやつは。やれ労災だのなんだと言われて視察に来るのはいいが、指摘していく場所は全然違う箇所なのだ。

 そういえば、会社の皆は大丈夫だろうか。あの時は皆に別れを言う暇もなかったので、落ち着いたら一度戻って、別れと謝罪をしなければ。
 俺がこうして転生しているということは、死亡事故が発生したということだ。俺はこっちでうまいことやっている、そっちも気にせず適当に処理して欲しいのだが、死亡事故となるとそうもいかない。
 俺をつぶした金型も気になる。傷でも付けたらえらいことだ。生産スケジュールがタイトだったので、修理に出す暇もないはずだ。非常ボタンを押す暇もなかったからな。
 実は俺が挟まれた金型は割と最近買った新型だ。離型しやすいように表面が加工されているそうで、今までの感覚でペーパーで研磨してしまうとよくないらしい。血でもこびりついてしまったら申し訳ないな。担当に……。

 あれ、なんだっけ、あの担当の係長の、辻、……いや、あれ右だったか? 田中、いや山田?何か違うな。

 そう昔の話ではないはずなのに、なぜか思い出せない。短いようでいろいろあったからだろうか?


 腕を組み、首をかしげ、昔の記憶をたどっていく。
 ぼんやりとは覚えているのだが、はっきりと思い出そうとすると、途端に靄がかかったかのように思考が溶けていく。まるで脳みそがスポンジになったみたいだ。
 うーむ、ここまでは出てきているのだが。
 思い出せない気持ち悪さに、俺はぽりぽりと後頭部をかく。そして、その手は勝手に首筋を撫でまわした。
 まるで癖になっているような動きだった。

 なんだ、俺は今、何をした?
 何かを確かめるような動きだった。そうだ、まるで首筋に付いているものを探すような。

 ――――どうだ、ジャックは付いているか?

 唐突に、脳内で声がした。俺の声だった、気がする。

 俺は反射的に戦闘態勢を取っていた。魔力を高め、剣に手をかける。実際に抜かずに踏みとどまれたのは幸いだった。


「ちょっとイングウェイさん、どうしたんですか、いきなり!?」
 隣にいたレイチェルが、驚いて俺に声をかける。
 俺ははっと我に返ると、慌てて剣から手を離す。
「……なんでもない」
「なんでもないことはないでしょう、顔が真っ青ですよ。一体どうしたんです?」
「本当に何でもないんだ、ほっといてくれ」
 レイチェルの優しさが、今はただ、うっとうしかった。

「ちょっとあなたたち。陣中で何を騒いでいるんですの? こういうところは皆が武器を持っているんですから、節度ある行動をとるものですわ」
 タイミングよく、キャスリーが戻ってくる。
 隣にはいつかの壮健な戦士。キャスリーの父親、レノンフィールド侯エドワードだ。

「ひさしぶりですな、イングウェイ殿。先日はお世話になりました。今回は一緒に戦っていただけるとのことで、頼もしい限りですぞ」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
「イングウェイ殿、よかったら今夜は儂のところの天幕へ来ませぬか? 積もる話もありますゆえ」
「わかった、あとでお邪魔しよう」

 レイチェルが不安そうな目でこちらを見ていた。俺はそれに気づかないふりをして、その場を後にした。
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