114 / 200
第12章 魔獣討伐
悲しみの残りかす
しおりを挟むまさかのレッドドラゴンの襲来から二日。俺たちは予定通りアサルセニア軍の野営地へとたどりついた。
ばたばたと行き交う兵士たちの様子に、俺たちの身も自然と引き締まる。
「ふぁああ、やれやれ。やっと着きましたか」
あくびをしながら荷馬車から降りてきたのは、俺たちの担当役人のカインだ。今までにやった仕事といえば出発の時の点呼くらいだが、大目に見てやろう。到着してしまえば、さすがに奴も忙しくなるはずだ。
書類仕事の面倒さを知っている俺は、若干の同情とともに奴の後姿を眺めていた。
「なんですって、書類が回ってきてない?」
「いや、しかしだな、」
「しかしも何も、ちゃんと手続きはしてるはずですよ。だいたいこっちはせいぜい20人程度なんだから、受け入れる余裕くらいあるでしょう」
ほら見たことか、もう揉めている。
だいたいこんなもんなんだ、役所というやつは。やれ労災だのなんだと言われて視察に来るのはいいが、指摘していく場所は全然違う箇所なのだ。
そういえば、会社の皆は大丈夫だろうか。あの時は皆に別れを言う暇もなかったので、落ち着いたら一度戻って、別れと謝罪をしなければ。
俺がこうして転生しているということは、死亡事故が発生したということだ。俺はこっちでうまいことやっている、そっちも気にせず適当に処理して欲しいのだが、死亡事故となるとそうもいかない。
俺をつぶした金型も気になる。傷でも付けたらえらいことだ。生産スケジュールがタイトだったので、修理に出す暇もないはずだ。非常ボタンを押す暇もなかったからな。
実は俺が挟まれた金型は割と最近買った新型だ。離型しやすいように表面が加工されているそうで、今までの感覚でペーパーで研磨してしまうとよくないらしい。血でもこびりついてしまったら申し訳ないな。担当に……。
あれ、なんだっけ、あの担当の係長の、辻、……いや、あれ右だったか? 田中、いや山田?何か違うな。
そう昔の話ではないはずなのに、なぜか思い出せない。短いようでいろいろあったからだろうか?
腕を組み、首をかしげ、昔の記憶をたどっていく。
ぼんやりとは覚えているのだが、はっきりと思い出そうとすると、途端に靄がかかったかのように思考が溶けていく。まるで脳みそがスポンジになったみたいだ。
うーむ、ここまでは出てきているのだが。
思い出せない気持ち悪さに、俺はぽりぽりと後頭部をかく。そして、その手は勝手に首筋を撫でまわした。
まるで癖になっているような動きだった。
なんだ、俺は今、何をした?
何かを確かめるような動きだった。そうだ、まるで首筋に付いているものを探すような。
――――どうだ、穴は付いているか?
唐突に、脳内で声がした。俺の声だった、気がする。
俺は反射的に戦闘態勢を取っていた。魔力を高め、剣に手をかける。実際に抜かずに踏みとどまれたのは幸いだった。
「ちょっとイングウェイさん、どうしたんですか、いきなり!?」
隣にいたレイチェルが、驚いて俺に声をかける。
俺ははっと我に返ると、慌てて剣から手を離す。
「……なんでもない」
「なんでもないことはないでしょう、顔が真っ青ですよ。一体どうしたんです?」
「本当に何でもないんだ、ほっといてくれ」
レイチェルの優しさが、今はただ、うっとうしかった。
「ちょっとあなたたち。陣中で何を騒いでいるんですの? こういうところは皆が武器を持っているんですから、節度ある行動をとるものですわ」
タイミングよく、キャスリーが戻ってくる。
隣にはいつかの壮健な戦士。キャスリーの父親、レノンフィールド侯エドワードだ。
「ひさしぶりですな、イングウェイ殿。先日はお世話になりました。今回は一緒に戦っていただけるとのことで、頼もしい限りですぞ」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
「イングウェイ殿、よかったら今夜は儂のところの天幕へ来ませぬか? 積もる話もありますゆえ」
「わかった、あとでお邪魔しよう」
レイチェルが不安そうな目でこちらを見ていた。俺はそれに気づかないふりをして、その場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる