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第12章 魔獣討伐

日常の終わりと、狂気への誘い

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 その夜。エドワードとキャスリーの三人で、酒を飲んでいたときのことだ。
 いや、キャスリーはあっという間につぶれて寝てしまったから、二人だな。

「いやいや、儂も気を付けてはいるんだ、しかしだな、最近はいろいろうるさい奴が増え過ぎで」
「ああ、わかるぞ、みんな細かいところを気にしすぎなのだ」
「だいたい胸や尻はでっぱっているのだ、たまたま手を伸ばしたら、ぶつかるのは当たり前ではないか。それをセクハラだのなんだの、ぶちぶちと。だいたいお前のようなババアの乳を狙いに行くかというのだ」
「ふむ、触って減るものではないからな。むしろ俺が触ればどんどん増えるぞ」
「はっはっは、イングウェイ殿がうらやましいわい。あのレイチェルとかいうおなごも、なかなかバイーンと立派な魔力を持っているのう」
「バイーンか」
「ばいーんじゃ、ばいーん」

「ん?」
 唐突に頭がひりつくような感覚がして、俺は飲みかけていたグラスを置いた。
 胸ざわめく。酔いのせいではない。

 心配してエドワードが聞いてくる。
「どうしました、イングウェイ殿?」
「いや、何か嫌な感じがしてな」
 立ち上がり、耳を澄ます。目を閉じて、魔力を聴覚に集中させる。遠くで何かが騒いでいるような気がする。
 妙な胸騒ぎがして、俺は天幕の外へ出る。
 風の強い夜だった。夜の闇の中、俺はある方向を向き、目を凝らす。

 その時だった。わずかだが確かに聞こえた。金属音とどなり声だ。
「エドワード、聞こえたか?」
「ああ、もちろんだ」
 さすがと言うべきか、彼の酔いはすでにさめていた。そこにいたのは酔っ払いおやじではなく、一人の屈強な戦士だった。

「俺は先に行く、キャスリーを見ていてくれ。できれば、レイチェルや俺の仲間たちのところへ合流させてやってくれ」
「わかった。すぐに部下をよこす、無理はするな」
「誰に言ってる、俺は賢者イングウェイだぞ」
 軽く笑った俺に、エドワードも笑顔で返す。
「死ぬなよ、イングウェイ殿。君にはぜひとも、娘を貰ってもらわねばならぬからな」
 おい、いつそんな話になった? だいたい転生時期を入れたら、俺のほうがお前より年上なのだぞ。

 エドワードは部下を呼びつけて色々と指示を飛ばす。その様子を見届け、俺もすぐにその場を離れる。

 走りながら、腰のメタ梨花リカに声をかけた。
「おい、戦闘になりそうだ。起きてるか?」
「当たり前ですよ、もともと私は戦闘用ゴーレムですからね。戦わない方が調子が悪くなります」
 それはそれは、頼もしい限りだ。

 ぎゃおーーす。
 風に乗って届く、ドラゴンの叫び。

「妙だな」
「なにがですか?」
 俺のつぶやきに、メタ梨花が反応した。
「ドラゴンさ」
「なぜです? ドラゴンは飛べるし、単独での戦闘力も高い。魔王軍が夜襲に使用しても、不思議ではないでしょう」
 まあ、それは一理あるのだが。
 相手の規模にもよるさ。俺は説明しながら、自分の頭の中を整理していく。

「確かにドラゴンは強力なモンスターだが、相手は王国の正規軍だぞ。ドラゴン殺しの騎士くらい、当然いると考えるのが普通だ」
「実際にインギーさんも、来る途中で一匹殺しましたしねえ」

「だいたい夜襲というのが気に食わん。夜の闇に紛れれば、確かにドラゴンも目立たず飛んでこれるだろうさ。しかし、ブレスは吐くわ咆哮を上げるわ。一度戦い始めたら、目立ってしょうがないだろう」
「ははあ、それは確かに。おまけにこんな中途半端なところを攻めるなんて」
「そうだな、俺なら本陣のど真ん中に降り立ち、一撃与えてすぐに逃げ出す。こんな中途半端な夜襲など、警戒されて逆に次の行動がとりにくくなるだけだ」

「と、言うことは――」
「おとり、か?」
 俺ははたと立ち止まる。
 しまった。

 エドワードの天幕は、連合軍の北西付近にあたる。ドラゴンは、ほぼ真北から襲ってきた。
 このまま応援に行くと、本陣からはさらに離れることになってしまう。

 考えろ、俺が魔王軍ならどうする? ドラゴンを囮に使った目的は?
 ドラゴンに対応する様子を観察し、頭となる存在を探すとするなら。奴らはどこに隠れる?

 俺は空を見上げた。
 はるか上空に、黒い人影が見えた。

 本命は、あれか。

 再度響く、竜の咆哮。微妙に声の高さが違う。
 何匹いるかはわからんが、ドラゴンを放置することもできない。
 腹は決まった。方向を変えて走り出す。

「おっとっと、今度はどこに向かってんですかあ?」
「ホルスのところだ。まずはレイチェルと奴を合流させ、ドラゴンを任せる。あいつは優秀だ、きっと何とかすると思う」

「じゃあ、イングウェイさんは?」
「大将の護衛だな」
「間に合うんですかあ?」
「相手がせっかく目立つところに陣取っているんだ、一直線に向かわせてもらおう」
 空中戦は久しぶりだが、なんとかなるだろう。
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