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第15章 再びアサルセニア
記憶の残りかす
しおりを挟む「で、あんたたちは、どうやってここに来たの?」
「紫色の靄に入ったら、ここにたどりついた」
「あー、なるほど」
女魔術師はなにか感づいたようだったが、それについて説明する気もないようだ。
レイチェルが言った。
「よくそんな渋いワインが飲めますね」
「余計なお世話よ」
「失礼だぞ、レイチェル。お前だって安いからって、ビールばっかりのんでいただろう」
魔術師はむっとした様子で、こちらをにらんできた。
「失礼ね、これでもそこそこ高いのよ。あんたたちにはわからないでしょうけど、こっちでは酒はめっちゃくちゃ貴重品なの!」
「へ? ビールですらもないんですか?」
レイチェルが聞くと、魔術師は頷いた。
「むしろビールは高いわよ。まがいものの発泡酒なら、少しは安いけど」
「地獄ですか、ここは」
「ちょっとレイチェルさん、失礼ですよ。お酒がないくらいで」
あまりに失礼な物言いに、サクラが横から口を出す。
が、当の女魔術師は、たいして気にもしていないようだ。
「いいのよ。本当に地獄だもの、この世界は。そのために、イングウェイ、あなたを利用してるんだから」
「「はあ?」」
レイチェルとサクラは、そろって素っ頓狂な声を上げた。
だが、俺には何とも言えない奇妙な感覚があった。この女に昔あったことがあるような。
「あなた、奇妙な夢を見たことはない? 首にこんな”穴”がある人を見たことは?」
そう言って女魔術師は、美しいうなじをあらわにした。そこにあったのは、金属製の――
「穴か!?」
「覚えているようね」
「イングウェイさん、私知ってますよ、ジャックっていう謎の男を! もしかしてツマミの豆と関係があるのでは?」
うるさい、レイチェル、少し黙ってろ。
頭痛がひどくなる。思い出そうとすると、いつもこうだ。
ジャック――。 首にある、金属製の穴。そこから電子情報が流れこみ、俺の意識は落ちていく。
それが、ダイヴだ。
立っていられず、俺は膝をついた。慌ててサクラとレイチェルがかけよる。
脳髄に熱湯を流し込まれる感覚。グレムリンのように頭の中を駆け回る情報。首の後ろが、熱い。
思わずうなじに手をやるが、柔らかい皮膚と肉の感触しかない。
「あなた、イングウェイさんに何をしたんですかっ!?」
愛刀モモフクに手をかけるサクラを、俺は止める。
やめろ、そいつは別に敵じゃない。
――記憶の残りかすを絞り出す。
「ここは、もしかして、地球か?」
「思い出したのね。記憶には封印措置がかけられているのに、驚いたわ」
セリフとは裏腹に、彼女に驚いた様子はなかった。先ほどと変わらず、ワインをちびちびと飲んでいる。
「ちきゅう? どこでしょうか、それ」
「私も、聞いたことないですね」
そりゃそうだ、俺が転生する前に住んでいた世界のことだからな。おそらく、別の次元に位置するのだろう。
だがそれよりも、ここが地球かどうかよりも、もっと重要なことがある。
俺は逡巡した後、口を開く。
「ここは、現実なのか? 教えてくれ、俺の体は今、どこにある? 薄汚れたベッドの上か、それとも草まみれで川岸に寝っ転がってんのか。どっちだ?」
「現実よ。ここも、アサルセニアも、どちらも現実。あなたの体はここにあるし、隣にいる女の子たちもちゃんと存在しているわ」
自分で聞いておいて、信じられなかった。
「じゃあ、なぜここに来れた。 次元を超えたのか? パープルヘイズを通り抜けられるのは、精神体だけじゃないのか」
「ただの地球人なら、そうかもしれない。けれど、あなたたちは魔法使いでしょう。魔力とは精神の力。地球人よりも、肉体と精神を結ぶ鎖はずっと強いはず。それが影響しているんじゃないかしら?」
「それだけか?」
女魔術師は、慎重に言葉を選んでいるようだった。
「あとは、お酒のせい。お酒は精神に作用して、次元の境をあいまいにするわ。私に今言えるのは、ここまでね」
俺はレイチェルと顔を見合わせた。レイチェルにしては珍しく、今は酒を飲んでいないのだが。もちろんサクラも。
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