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第ー章『追放偏』
第1話『物語の出会いとは常に急な物だ、故に問題も急な事だ』
しおりを挟む――【???】
―いきなりなんだが、これは私の独り言だと思ってくれ
そう言って、音もない闇の中で、ひときわ目立つ純白なローブを着た男が、分厚い本と羽ペンを持って、一人で佇んでいた。
そして男は、誰かに語り掛けるかのように、闇の中、一人で話はじめる。
―『物語』には様々な結末(エンディング)がある
その大半の"物語"の皆が望む結末というのは希望、幸福、より良い結果が多い
―例えば、白雪姫の話なら、継母は世界で一番美しいのは誰かを鏡に占ってもらい、白雪姫の方が美しいと言われ、怒る継母は、魔女に変身して、白雪姫の元へ行き、『とても美味しいリンゴだよ』と言って、毒リンゴを渡してしまうんだ
ー白雪姫は、貰ったリンゴが毒リンゴ知らずに食べてしまい、呪いで永遠の眠りについてしまう
ー最終的には、王子が登場して、その白雪姫の美しい姿に一目惚れして、口づけをして呪いを解いて目を覚まし、その後は王子と白雪姫は一緒に暮らして幸せになる
男は闇の中で、何かを思いつめながら、円を描くように歩きだし、そのまま話し続ける。
―勇者と魔王の王道の展開としては、勇者は仲間を集めて、魔王を倒しに行くんだけど
―その道中には、勇者とその仲間達たちに試練と困難を与えていくんだ
―強大な敵、ある時は仲間達とのすれ違い、救える筈だった命が救えなかったこと
―それでも、勇者たちは挫折と葛藤を繰り返し乗り越えて、成長させ、強くなっていくんだよ、身も心もね
―そして、最後に激闘の末、魔王を倒して、世界が平和になる
次に男は、そのまま歩きながら、手に持った本を開いて、羽ペンで何かを書き始める。
―など、その物語によって結末が異なってくるが、結果として、主人公たちは幸せになるんだ
―しかし、それは書き手がそう望むわけであって、書き手が違うと、内容は同じでも本質は違う
―幸福な物語の筈なのが、少し、内容を歪ませることで、"残酷"で幸福な物語になる
―例えば、先ほど言っていた、白雪姫が分かりやすいかもね。皆がイメージしてる白雪姫は本来のイメージしたのとかけ離れたものだ
―元々、白雪姫はグリム童話の話からきているんだ
―その内容は、より残酷に過激になっている
―皆が知っている、白雪姫の話は、継母が実の母親だったり、死に方とは毒リンゴのイメージが多いが、実際は森に置き去りにして、狩人に殺させようとして、実の娘の肺と肝臓を取って来いと言って、塩で煮て食べようとしたんだ。
―他にも、継母の死に方も違う、崖に落ちて死ぬのが、グリムだと実の母親に真っ赤に焼けた鉄の上履きを履かされて、火傷を負いながら死ぬまで踊らされる
―実に残酷な物語だね。しかし、結果としては白雪姫は王子と結婚して幸せになっているんだ
―その残酷さを避ける為に、同じ内容だけど、本来とは違う形で"書き直す"
―そして、嫌な事は忘れ去られていくんだね・・・
男は足を止め、書くのもやめる。
そして、上を見上げて、先の見えない闇に向けてポツリと言う。
―なぁ、友よ、そうだろう?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日差しが強く、セミの声が鳴いていた。
外は気合が入った声が聞こえる。
それもそうだ、夏の大会に向けての体育会系の人たちが、ヘトヘトになるまで、活動しているのが殆どだ。
しかし、文系の人達も例外ではなく、夏のコンクールに出す作品を最後の仕上げの為に描く人がいれば、9月の文化祭に向けての、出し物を準備する生徒もいた。
気が滅入るような暑さの中で、俺は演劇部の部屋にる。
「あつい・・・」
現在、部室のクーラーは故障していて、蒸し暑さが襲って来る。
この暑さの中で激しい動きをする為、着ていたシャツが汗のせいで、背中にピッタリとくっ付いていて、気持ち悪かった。
練習で疲れたので、部室の床であぐらを掻いて壁にもたれ掛かる。
「疲れた・・・暑い・・・」
言葉を繰り返し言っていた。
この俺、新垣 寅(あらがき とら)は春に高校3年生になり、高校最後の夏を過ごすことになった。
「高校生活も最後かあ」
今、この高校生活の3年間を思い返すと自分はだらだら過ごしていただけだった。
部活は何処にも入部していなかったし、勉強も自分が興味があること以外はからっきしだった。それでも、基本的にはテストの平均は維持はしている。
ではなぜ、そんな俺は演劇部の部室にいるかというと・・・。
新垣は目を瞑りながら、ぐったりしていると、頬に冷たい物が当たる。
「うわっ!?」
驚いて目を空けると、髪の毛を後ろに方に一つにまとめ、ジャージを着ている、女生徒が新垣にスポーツドリンクを渡す。
「飛鳥(あすか)・・・お前か・・・」
「ほら、ぐったりしてないで!これを飲んでシャキっとしなさい」
こいつは物部 飛鳥(もののべ あすか)、演劇部の部長だ。
中学からの付き合いで、俺の友人でもある。
何故、演劇部の部室にいるかというと、この飛鳥が原因だった。
俺も中学までは飛鳥と一緒に演劇部をやっていた。
しかし、"ある日"を境に、高校からは部活には入らずに、演劇部の人たちが用事や病欠の時に来れない時は、その"役"を埋める為に飛鳥に助っ人で呼ばれていた。
「冷房が効いていない所で、シャキッとしろって言われても、この暑さじゃ、無理だなあ、それに俺は助っ人であって、演劇部さんと違って、そこまで運動してるわけじゃないからな」
そう言って、何時までも頬に押し付けてくるもんだから、俺は暑さの事もあって少し荒っぽく飲み物を受け取る。
額に溜まった汗を腕で拭い、そのまま貰った飲み物を一気に飲む。
この中の暑さのせいか、飲んだ途端に、冷たさが全身の血管が巡るよう感覚になる。
「くぅううううう!身体中に染み渡るう!」
「あはは、こんな暑い日は冷たい物はおいしいよねえ」
飛鳥は軽く笑いながら、俺の隣に座る。
暑かったのか、そのままジャージを脱ぐ。
白い体操着が剥き出しになり、汗で濡れていた。若干、体操着からは薄い緑の物が透けている・・・。つい視線がそっちに行ってしまう。
当の本人は、そんなことも気にせずに、買ってきた飲み物のふたを開けて、飲み始めた。
「うーん!染み渡る!」
「同じこと言ってるじゃないか」
「えへへ」
彼女の顔がよく見たら、真っ赤なのが分かる。
正直、熱中症にならないかと心配していたら、話しかける。
「トラがいて、助かったわ、台本を渡すだけですぐに覚えてくれるし、それですぐに実践できちゃうから、人手が足りない時とか助かるわー」
「はいはい、"未来の俳優"さんに褒められるとは、光栄ございますよーっと」
「まったく、人が素直にに褒めてるんだから、トラも素直に喜べばいいのに」
「はいはい」
実際に悪い気分はしていないさ。
なんせ、物部 飛鳥の演劇の技術はプロに認められ、俳優になってほしいと勧誘がくらいなのだから。
だけど、俺には"あの日"から、褒められるほどの力あるなんてないと思ってる。
そう、悟ったんだ。
過去をの事を思い出すのが嫌だったのか、他の事を考えようとしていて、周りを見ると、ふと、視界に入る。日差しのせいなのか、飛鳥の汗が光って、動くだけで艶めかしく感じる。
視線に気づいたのか、彼女は不思議しそうな顔で、視線だけ動かし、問いかける。
「トラ?どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
俺は慌てて、視線を外した。
相手が悪かったのか、察しが良い飛鳥は、いたずらっぽく言ってくる。
「おや、トラはやっぱり、こういう事には興味があるのかな?」
「うるせうるせ、そもそもだな、お前はこんな暑い日にジャージを着てるんだ」
「別にいいじゃん?女の子には色々あるんだから」
あっけらかんとした反応で、しばらく沈黙する。
すると、先に飛鳥がこっちを向いて話しかける。
その表情はさっきの明るい表情はとは違って、どこか寂しそうな顔をしていた。
「高校生活・・・最後だね」
「そうだね」
そんな、一言だった。
「・・・最後まで、入部しなかったね」
「・・・・そうだね」
俺達の間に再び、沈黙が訪れる。
その間は、数分の時間を経った気がしたが、まだ数秒しか経っていなかった。
「トラ、あのね・・・」
「飛鳥、休憩時間が過ぎたから、練習の続きをしよっか」
俺は話題を避けようとして、立ち上がって練習をしようとした。
不安にさせないと思って、飛鳥に振り返って、"笑顔"で向ける。
「トラ・・・ううん、なんでもない、演劇の続きでもしよっか」
「だな、頑張れよ」
そして、飛鳥もまた"笑顔"を向けるのであった。
――夕方
オレンジ色の空が目立つような時間になる。ドア越しから見える夕焼けに照らされている雲は、薄いピンク色になって、幻想的で美しかった。
だけど、何処か切なさ感じさせるような、そんな景色だった。
演劇部の活動が終わって、俺は家に帰る準備をしていた。
外に出ようとした時、誰かに肩を叩かれる。
後ろを振り返ると、頬に何かが当たる。
指だった。そこから視線を追うと、そこには飛鳥が立っていた。
ニヤニヤしながら、嬉しそう声で言う。
「やーい、引っかかった!!」
「っあ!てめっ!!」
「きゃー!こわーい!」
俺はその指を手で払った。飛鳥は逃げるように先に走り出した。
思わず、逃げる飛鳥を追いかけるように、俺も走り出す。
お互いに校門まで全力で走った後は、息が荒くなる。
「ハアハア・・・部活で疲れた後に走るもんじゃないね、バカした・・・」
「ほんとだよ・・・俺も思わず走ったけど、なんで追いかけだんだろう・・・」
お互いに、目が合うと、お互いにバカやってるなあって思って、笑いだす。
「ップ・・・!あんた、どんだけ体力が無いのさ、あはは!」
「うっせえよ!お前が体力バカなだけだよ!」
お互いに落ち着いた所で、互いの背を向けて、分かれる。
校門から少し歩いた所で、少し遠くに飛鳥の声が聞こえる。
「トラー!」
自分の名前が呼ばれたから、立ち止まって振り向く。
遠くから、飛鳥がこっちに向いている。
夕焼けに照らされている雲は薄いピンク色と長い黒髪がオレンジと混ざり、美しかった。
だけど、切なさ感じさせるような、そんな彼女と景色。
「・・・また、明日ね!」
そう言って、飛鳥は笑顔だったが、何処か切なそうな顔をしていた。
きっと、景色のせいだろう。そう思いたい。
俺は手だけ、振った。
それに満足したのか、彼女は笑顔で再び元の方向に振り返り、走り出した。
「・・・さて、帰るかあ」
再び家に帰ろうと歩き出そうとした時だった。
いつもだったら、まっすぐ家に帰るのだが、今日は"何故"か他の道で帰りたくなってしまう。それが、遠回りだと分かっててもだ。
それは自分にも分からなかった。何故、自分がこのような事をしているのか。
気づけば、一歩、また一歩と歩いて行く。
不気味だ。
何が不気味って、何かに誘われていくんじゃなく、"自分から行きたいと思ってしまう"のだから。
「まあ、たまには別の道から帰るのも悪くないよな」
一人で呟きながら、取り合えず、割り切ることにした。
なんだかんだ、最後の高校生活だし、寄り道も悪くないと思った。
「高校最後だからって、遠回りをする事が発想だと思うと、なんだか悲しくなってくるな・・・」
普段、通らない道っていうのもあって、新鮮な気分になる。
かれこれ30分、遠回りしていると、いつの間にか薄暗く狭い通路に行きついた。
「いや、こうはならんだろ。本当に何処だここ?」
一人でツッコミして、不安になる。
周りを見渡すと、コンクリート壁はひび割れていて、ひび割れた場所からカビや苔が生えている。他にも、猫が引っ掻いた後だろうと思われる、破れたゴミ袋が置いてあり、そこから生臭さと酸っぱい臭いが充満しが鼻につく。
「くっさ・・・!」
この道を抜けたいな、そう思いながら鼻をつまみながら顔を下げ歩く。ふと、足が止まる。
見逃せない『それ』がそこに在った。異質な光景が目の前に広がっている。
汚れがひとつない机と椅子、その机の上に、電源ケーブルがつなげる場所がないのに、明かりがついたデスクトップパソコン。
「何故、こんな所に・・・?」
明らかに異質な"それ"に思わず、足が動く。
恐る恐るパソコンの画面を覗き込むとこう書かれていた。
「君に質問だ。この日、世界が終焉を迎えるとしよう。君にはそれを変える力がある。どうする?」
その奇妙な問いかけに思わず。
「変える力か・・・」
と呟いてしまう。
目を閉じて、"あの日"の事を思い出す。
それは自分にとっての"分岐点"だろうと思う、あの日。
しばらくして、瞑想するかのように沈黙する。
そのまま、目を開けると、パソコンの画面に向かって、「変える力があるなら・・・変えたいかな」と再び一人で呟いた。
すると、画面から光が漏れ出す。目の前が真っ白になり、何かに抗おうとしたが、そのまま、意識が途切れた。
ふと、人の気配で目を覚ました。ゆっくり目を開けると、上から白い花弁が舞うが、そのまま背景に溶け込むように消える。
そこで、気づく。
「ここは・・・何処だ!?」
慌てて、周りを見渡すと"白"の世界、そのままの意味で、何もない白い世界と花弁が降り注いでいた。
ふと、後ろから、何かが聞こえる。
振り向けば、百合の花のようふんわりとした白い布が、目に飛び込んできた。
布の切れ間から、透き通った肌が覗く。ヒトらしい。自分にはなしかけているようだが、声がよく聞こえない。
ふれたら壊れてしまいそうなガラスのような肌とは対照に、二つ結びされた燃えるような赤い髪が揺らめく。
世界に音が戻る。
「君は一体・・・」
そう呟くと、少女は無邪気に笑う。
白い世界が淡い色に染められた気がした。
少女が近づく度に、自分の鼓動が少しずつ早くなっていくのが分かる。
すると、俺の目の前に立って、覗き込む。
そのまま、先ほどと同じような笑顔で話し始める。
「やあ、新垣くん!はじめまして、やっと、気が付いたようだね!」
「どうして、俺の名前を・・・?」
そのまま、少女は何故か得意げに無い胸を張って言う。
「フフン、ボクは女神だからね、名前ぐらいは分かるさ!」
「は、はあ・・・め、女神・・・ですか」
自分の事を女神だと名乗る少女、どうもにわかには信じられなかった。
しかし、この不思議な空間をどう説明するか、俺は混乱する。
「まだ、混乱してるようだね。それも無理もないか、いきなりの事でだもんね。ごめんね」
そう言って、少女は悲しそうな顔する。
その少女の顔を見ると、何故か胸が締め付けられる。
ここまで、感情が揺さぶれるのは初めてだった。
少女の悲しい顔を見たくないと思い、この場を何とかしようとした。
「え、っあ!大丈夫です。そんな、謝らないでください!」
「しかし・・・」
「ところで、女神様のお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
そう言うと、「っあ!そうだったね」と言って、礼儀正しく、お辞儀をする。
「自己紹介が遅れたね!ボクの名前はシアナ、よろしくね」
そして、自己紹介した後に、雰囲気が変わる。
本当にさっきの人なのか?と、その少女に似つかわしくない大人の雰囲気と無邪気の笑顔から柔らかく包むような優しい笑顔は神々しさを感じられる。
その変わりように、息をのむ。
ここで少女の存在を再認識する。
シアナと名乗る少女は、俺にさらに接近して、そのまま手を握る。
その手を握ると、我が子のように微笑む。その姿に俺は目に焼き付いたのだった。
そのまま、シエナは顔を上げて言う。
「ボクと一緒に終焉《カタストロフィ》を止めてくれないか!」
「か、かたすとろふぃ・・・?」
「この世界で、終焉《カタストロフィ》を止めないと、キミが元居た世界も、終わってしまうのだよ」
ただ、思うのは、女神シエナって子は初対面の人に対して、無理難題の事を言ってくる子のようだった。
俺はそのいきなりの事で、一瞬だけ気が遠くなりそうになった。
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