血濡れは絶景を求める、

出無川 でむこ

文字の大きさ
5 / 19
第一章

4ページ目 木のナイフ

しおりを挟む
結局、スピカと一緒に、食べる事になった。
気遣ってくれたのか、エルも付き合ってくれた。

この時は特に問題はなく、軽い談話をして過ごしたのだが、問題が起きたのは、食後の戦闘授業の時間だった。

「さあ、模擬戦闘の時間だ」

この世界は、魔王の脅威がなくなっても、魔王の魔力の残骸によって、魔物が生み出されている。
戦闘の才能がある人は、冒険者ギルドに所属して、冒険者になり、魔物を倒して、それで生計を立てる人もいる。
ほかにも、傭兵や護衛や騎士に所属など、戦闘経験が必要な職業が沢山あるのだ。
その為、魔王がいなくなっても尚、自分を守る手段として、生きる手段として戦闘訓練は幼い頃から必修科目として受けている。

「模擬戦闘かぁ・・・」

シャルはどちらかと言う平和的な為、争い事は苦手だった。
その為、模擬戦闘の成績はそこまで良くなかった。
しかも、今日に限って、今回の相手はピグレだった。
相性は最悪だ、体格差に筋力も何もが劣っていたシャルには一度も勝った事もなかったのだから。

「よぉ!シャルゥウウ、お前と模擬戦闘するの楽しみだったぜぇ・・・」

ピグレは何時に増しても、やる気満々で満ち溢れていた。
鼻息は荒く、口からフシューフシューと、音を鳴らしならす。
シャルを小動物を狩るような目で見てくる。先ほどの事を、まだ気にしているらしく、その屈辱を模擬戦闘で晴らそうとしていた。

対するシャルは、その真逆で肩を落としていた。
隣にいた、エルは頑張ってと励ましてくれるが、流石に今でも相手をボコボコにしてきそうな人と戦うとなると、やる気がなくなっていく。
そのエルとは反対にスピカは立っていて、何故か楽しそうに見ていた、相変わらず何を考えているのかが分からなかった。

お互いに、木製で出来た剣を手に取る。
他にも、木製の武器はあるが、シャルは無難に剣を取る。

「ルールは先に2本取ったら勝ちだ!始め!」

そう言って、ミレイ先生の合図と同時にお互い動き始める。

「おりゃああああ!シャルゥウウウ!!」
「う、うぉ!?」

ピグレはシャルの頭を叩き割る勢いで木剣を振った。
シャルは反射的に手に持った木剣で防御する。
攻撃を受け止めると、ドゴォと鈍い音がなる。明らかに木剣が鳴らす音では無かった。

「お、おい!?カチ割るつもりかよ!?」
「うるせえ!!ここで、くたばりやがれ!!」

ピグレは持ち前の対格差と力でゴリ押そうとした。
シャルは、それに耐えるのが精一杯で、どうやって勝つかまで思考が追い付かない。


「シャルー!頑張れー!!」
「・・・」

エルの応援がシャルの耳に入ってくる。
その隣にいる、スピカはシャルを観察するように、ジーっと見ていた。
視線が身体に突き刺さるほどに痛みはないが、精神的に痛み感じる。そして何よりも、身体の奥底から、何だかざわつく。

「・・・っく!!」
「どうしたんだ?シャルゥ!その程度なのか?」

そう言って、ピグレは更に力を込める。
木剣がミシミシと音が鳴り、今でも壊れそうだ。
そして、このまま力任せで剣で振り、シャルは吹き飛ばされる。

「うわ!?」

シャルは転がるように吹き飛び、地面に倒れた。
そのまま、起き上がろうとすると、首元に剣が付きつけられる。
最初の一本はピグレだった。

「ふん!やったぜ!」

そう言って、ピグレは元の定位置に戻った。
シャルはそのまま大の字になる、今の勝負で大分消費した。
すると、何やらカランと軽い音が聞こえた。

音がした方を見ると、木のナイフだった。
自分の頭から、影が近づいてくる。今度は上を見上げる。
スピカが無表情で、シャルの方へと歩いてくる。

「スピカさん・・・?」
「・・・」

呼びかけても、反応はない。
周りの皆は騒めくが、それを気にもせず、そのまま、スピカは傍まで近づいてしゃがみ込んだ。
スカートの中身が見えそうになり、目を逸らす。
しかし、スピカはシャルの顔を掴み、無理やり見つめ合うように、そのまま覗き込む。

「今の、無様な戦いはなんだい?」
「へ・・・?」

転校初日だというのに、今日はスピカと、やたらと目が合うことが多い。
もはや見慣れた、その綺麗な琥珀の瞳が吸い込まれ、不思議と見放せなかった。
顔が近い、だけど恥ずかしいという感情はなく、違う意味で心臓が高鳴る。

「君の力はそんなもんじゃないだろう?」
「スピカさん・・・君はいったい何を・・・」

スピカが何を言っているのかが分からなかった。
君の力?そんなもんじゃない?どういうことだ?
その様な事を脳内でループするように思考が回る。

「さぁ、君の"本来"の武器を選んであげたわ、感謝しなさい」

今日は、何故か戸惑う事ばかりだ。
何故、自分が理不尽な目に合っているか?
そう考えると、無性に腹が立ってくる。
スピカに睨むと、怖がるどころか、小悪魔的な笑顔になっていた。

「フフッ・・・そう、それでいいのよ」
「何言ってんだよ・・・」

スピカはそのまま自己完結する。未だにシャルが理解しないままの状態で、自分の場所へと戻る。
エルはスピカとのやり取りを見て、気になったのか話しかけていた。

「シャル君と何してたのー?」
「フフッ、少し彼にアドバイスをしてあげたのよ」

遠くで笑ってるスピカを見る。
なんて自分勝手な人だと思いつつ、シャルは隣に落ちてる木製のナイフを見つめる。

「これで、どう戦えと・・・」

ナイフで戦ったなんてない。むしろ。ナイフ事態を触るのが、これが初めてだ。
しかし、スピカが渡してきた以上は、これで戦わなけばならないと思った。
じゃないと、次は何をされるか分からなかったからだ。

「それに・・・」

スピカの自信に満ちた顔を見つつ、ため息しながら、地面に落ちていた、木製のナイフを拾う。

「・・・」

不思議とナイフを握ると落ち着く。
むしろ、初めて触ったのに、何度も使った事あるかのような感覚だった。
シャルは握ったナイフを見つめる。何か体の奥から、何かを思い出す感覚に陥る。
しびれを切らしたのか、ピグレが怒鳴るようにシャルに話しかける。

「早くしろよ!ったく!またスピカちゃんと話がって!許さねぇ!」

完全な逆恨みである。
シャルはゆらりと立ち上がる。そして、シャルはピグレを優しく笑う。

「ごめんね」

シャルの優しい声で言ったのは、その一言だけだった。
ピグレは剣を構えた。

「さあ、やるぞ!」
「・・・」

先生の合図と同時にピグレは踏み込んでそのまま剣を大振りに振る。
相変わらずの巨体を利用した迫力だった。
普通の人ならここでビビッて立ちすくんでいただろう

シャルは憶する事もせず、ピグレの眼を真っすぐ見つめていた。
何やら、嫌な予感がしたのか剣を振るのが一瞬遅れる。
シャルは小さく避け、そのまま横に回り込んだ。

「何ッ・・・!?」

そのまま、シャルはナイフを振り上げる。
しかし、ピグレの方がガードが早かった、そう早かったのだ。
ピグレはシャルの振り上げた手を見てみると、"何も持っていなかった"。

「う、うそだ、うぉ!?」

ピグレの首にもう片方の手に先ほどの木のナイフが突き立てられる。
周りはあまりの出来事に唖然とする。
あのシャルがピグレに一本を取ったのだ。

「こ、この野郎!シャルの癖に!」

それが気に入らなかったのか、それも腹が立ったのか分からなかったがピグレの口調が荒くなっていく。
しかし、対するシャルは恐ろしく冷静なっていた。
まるで研ぎ澄まされたナイフのように思考が切れていた。
そして先生の指示でお互いに元の位置に戻った。

「さぁ、最後だ!始め!」

ミレイ先生は合図をした。
しかし、ピグレは先ほどの事に警戒しているのか、むやみに近づかなかった。
ピグレでも、学習はするんだなと思うシャルであった。

ここで、シャルは構えるのやめて、シャルはゆっくりと歩きだした。
人が武器を持ってて構えていれば、それは誰しも警戒するであろう。
彼は仲間でクラスメイトだ。
シャルは木のナイフはポケットにしまう。

その急の行動に、呆然とするピグレ。
だが、シャルは何時も変わらず、廊下ですれ違うような感覚で歩く。
廊下ですれ違うのはピグレだ。
知り合いなら、挨拶はすべきだと思ったシャルは挨拶をする。

「やあ、ピグレ」
「へ?」

彼との距離は近かった、すれ違う前に、手を上げ振った。
それはあまりにも自然だったので誰も気づかなかった。
ただ"一人"除いての話だが
シャルの手にはいつの間にか・・・。

ナイフが握られていた。

手を上げると同時にナイフをピグレの首に向けて刺そうとしていた。
その瞬間、ピグレは気づいた。

自分は殺されかけている。
いや、殺しに来ているという事に!

「うわぁあ!?」

ピグレは思わずのバランスが崩れ、そのまま尻餅をしてしまう。
そのまま、シャルはナイフをピグレの首に突き立てた。

「勝負あり!シャルの勝ち!」

ミレイ先生の合図が聞こえる。
勝ったのはシャルだ。
周りは未だに何が起きたのかを理解していなかった。
だが、スピカだけはご機嫌よさげに笑っていたのは遠くから見ても分かる。
何故、シャルにナイフを渡したのかが少しわかった気がする。

「だ、大丈夫?」
「あ、あぁ・・・」

シャルはピグレに近づいて言う。
負けたのがショックなのか大人しくなっていた。
ピグレはシャルを向いて話す。

「シャルゥ・・・お前いったい何したんだ?」

その事を聞かれたシャルはどう返そうと困った。
何故なら、自分でも分からなかったからだった。
ただ、ナイフを持つと、不思議と落ち着いただけを話す。
ピグレは、当然の如く何を言ってんだコイツという顔をしてて、困惑していた。

「シャルー!お疲れ!初めて勝ったね!」
「あ、うん」

シャルは言われて気づく、ピグレに初めて勝った事に。
前のシャルだったら、普通に負けていたのだから。

次にシャルはスピカの方を向き言う。

「君は・・・いったい何をしたの?」
「何もしてないわぁー、ただ貴方には剣が似合わないと思っただけよ」

そう、わざとらしく言うのだった。
結局の所、何も分からずじまいだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...