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改稿シリーズ・第一章

第12話 乗り物と復讐の話

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「・・・出口だ」

月ノ城に案内がされるまま、道を進んでいくと、奥の方に光が見えてくる。
そして、俺たちは洞窟から、出る事ができた。
澄んだ空気が、身体に染み込んでくる。

上を見上げると、太陽が俺たちを歓迎するかのように、照らしていた。
ここ2週間の間はずっと、洞窟の中にいたせいか。
もの凄く眩しい、目が痛くなるぐらいに。

「眩しいな・・・」
「太陽・・・!」

アイリスはYの字に腕を広げて、太陽を拝んでいた。
どこかで見たことあるようなポーズだが、気にしないでおこう。

少し前に、月ノ城が立ち止まり、胸の懐から、何かを取り出す。
そのまま、洋紙を取り出し、広げる。
後ろか、覗くように見ると、それは世界地図だった。

「へえ、この世界の大陸ってこんな感じなんだな」

全体に的に、ひし形世界だった。
地図には、しっかりと、町の名前や王国の名前が書いてあり、真ん中にフィルネル王国と書いてある。
その名前を見ると、アイツのことを思い出し、不快になってくる。

しかし、軌光石があるのに、何故、洋紙の地図を使っているのかを聞くと「こっちの方が、慣れているんだ。軌光石はどうも、慣れん」と言う。
どうやら、機械系が苦手な、おじいちゃんみたいだ。

「これを見てくれ」

月ノ城は北側の方に、赤い丸がついてる場所に、ペンを取り出して叩く。

「俺たちは、今はこの場所にいる。そして、ここから西へと向かう。」

そう言って、月ノ城のペンを動かし、西へと指す。
結構距離がある。ここから、歩いて行くとなれば、3週程は掛かりそうだ。

「普通なら、3週間ほど掛かるが・・・移動手段あるから、問題ない。」
「移動手段とは?」

この世界なら、空を跳んだり、馬車を使ったりすると思えば、月ノ城はカプセルみたいな物を取り出した。

「それは?」
「ああ、これはだな・・・」

月ノ城はカプセルのボタンらしきものを押して、そこら辺の平野に投げる。

ドンッ!!!

煙がもくもくと立ち上がり
やがて、晴れていくとそこには・・・漆黒の刺々しいフォルムをした、自動車が現れた。

そして、俺は思う。
これ見たことあるやつだーー!?
てか、ドラ〇ン・〇ールじゃねぇか!!

思って以上に、現代的な移動手段に、少し夢が壊れた気がする。
俺たちに世界は魔法に憧れるように、同じかもしれない。
まあ、これは、これでありかもしれないけど・・・。

そして、月ノ城は決め顔で言う。

「ブラック・ブケファラスⅡ世だ」
「ブフッ・・」

吹きそうになり、口を塞ぐ。
そもそも、二世ってなんだよ。これは後継機なのか?
さりげなく、無駄に車がかっこいいから、色々酷いような気がする。
このネーミングセンスは、絶対に日本人しかいないだろう。

「どうした、黒杉?」
「な、なんでもない・・・!」
「まぁ、いい・・・さぁ、乗れ」

そう言って、車のドアは縦にスライドする。
無駄に、かっこよくて、男心をくすぐらせてくる。
そして、月ノ城が無表情だけど、何故か嬉しそうな顔してるような気がした。
雰囲気で伝わるというのは、こういうことなんだなって思う。

「ヨウイチ・・・これ乗っても大丈夫?」

アイリスは、不安げな顔で自動車を見つめる。
初めてみる、表情だったものだから、少しでも不安を和らげるために、説明する。

「あぁ、大丈夫だよ、俺の世界では当たり前の乗り物なんだ」
「そ、そう・・・」

それでも、躊躇うアイリス。
まるで、本能的に身の危険を感じているかのように、身を構える。
見た感じは、何処かが壊れている個所はない、なぜ警戒するのだろうか、アイリスにしか見えないものがあるだろうか?
それは、何か起きた時に、何とかしよう。
それよりも・・・。

「何故この乗り物がこの世界にあるんだ?」
「まぁ、それは乗りながら説明しようか」

そう言って、月ノ城は先に乗り込み、続いて、シルクも車の中へと飛び込みながら乗り込む、その姿は完全に猫だった。

「ほら、アイリスも行くぞ。大丈夫だって、月ノ城さんたちは、いつもこれで移動してるっぽいから、大丈夫だと思うぞ」
「う、うん・・・」

躊躇うアイリスの手を、引っ張り、そのまま一緒に車の中に乗り込む。
全員が揃ったところで、車を発進させる。
エンジン音が付いたことで、シルクが興奮するように、窓を張り付くように、外の景色を眺め始める。

「月ノ城さん、この乗り物は?」
「これは組織の一人の提案で作られた物だ。そして、そいつは転生者なんだ」
「転生者・・・」

転生者か・・・この車を作ったというなら、きっと俺と同じ世界の人なのかもしれない。

「なんでも、前の世界で記憶を引き継いで生まれ変わったらしい。」
「なるほどなぁ・・・」

この世界は、転生者がいる事がわかったことでも、良い情報だった。
召喚されること以外でも、この世界に行ける方法があるってことが分かえう。
ただ、それを知っても、それがどうしたって話になるんだけどな。

――――【2時間後】

「う、うぅ・・・」

何か、後ろでうめき声が聞こえると思えば、アイリスだった。
後ろを見てみると、シルクがアイリスの背中をさすっている。
成る程、だから、拒否反応したのだろう。

「ヨウイチぃ・・・」
「あーはいはい・・・もうちょっと我慢してくれ・・・な?」

そう言って、涙目になりながら我慢するアイリスであった。
どうやら、アイリスは乗り物系は苦手のようだ。

「あ、そうだ!!」
「どうしたんだ?シルクさん?」
「実は良いものがあるんですよ!!フッフッフ!!」

そういって、シルクは自分の鞄をガサゴソさせて、何かをとり出す。

「じゃじゃん!飴ちゃんです!!アイリスさん!これをなめてください!」

そういって、シルクはアイリスに渡して、その飴玉を舐めはじめる
そして、アイリスは目を閉じて、蒼くなっていた顔が、少しずつ引いていく。

「三日ぐらいだ、我慢してくれ。」
「わかった」

月ノ城の言葉で、アイリスは再び、うめき声が聞こえる。
こればかりは、我慢してもらうしかない。
ご愁傷さまだ・・・。

そう言って、外の景色を眺める。
やはり、ここの世界に車は似合わないなと思いつつ。
到着するのに、3日も掛かるそうだから、その間に月ノ城に聞きたいことを聞いてみようかと思った。

「なあ、月ノ城さん」
「なんだ?」
「俺のスキルなんだけどさ、分からないことがあるんだ」
「ふむ?スキルか・・・どれ、見せてみろ」

そう言って、軌光石を使って、成長スキルを見せる。
月ノ城は車を止めて、頷きながら見ている。
そのまま、画面を閉じて、黒杉に言う。

「成長スキルか・・・珍しいものを持ってるんだな」
「知ってるんですか?」
「ああ、知ってる」

良かった。
ようやく、スキルに詳しい人が出会える事ができた。
ハンドルを握りながら、口頭で話し始める

「その成長スキルは、自分の体を鍛えることによってステータスを上げることができる」
「き、鍛える?」
「簡単に言えば・・・筋トレだ」
「筋トレ!??」

衝撃の事実で、俺は勢いよく前に倒れそうになる。
まさか、筋トレするだけでステータスが上がるなんて、予想外だった。

「攻撃と素早さを、同時に上げるなら、重い物をもったりして走るといいぞ。器用さが微妙に高いってことは・・・モンスターを急所攻撃したり、料理とかしてたら上がったんじゃないか?成長スキルは、自分の日常動作にも影響するからな、細かい所を気にしてみると良いだろう」
「なるほど・・・ありがとうございます」

これで説明がつく、微妙にHPと器用さが高いのは、何度も魔物を攻撃を受けては回復したり、料理を作っていたからだ、自分がやっている事は、無駄にならないのは、大きなメリットだ。

「あと、成長スキルはもう一つ能力ある」
「そ、それは?」

思わず、俺は唾を飲み込む。

「それはだな・・・スキルを使うたびに、強くなっていくんだ」
「でも、それって普通じゃないですか?」
「少し違うな。通常スキルは、ステータスとパッシブ効果で、威力が上がる。だが、成長スキルは、スキル自体が成長するように、強くなっていくんだ。」
「んー・・・?」

ん、どういうことだ?ちょっとわからんな?

理解ができずに、頭を捻る。
そんな、黒杉の姿を見て、月ノ城は、もう一度説明をする。

「説明が下手で、申し訳ないな。例えば、通常だとLVが上がればステータスが上がると、威力も上がるだろ?」
「そうですね・・・この世界では、当たり前のこと」
「ああ、成長スキルは、そのスキルを使い続ける事で、LVが上がらなくてもスキルが強化されていくんだ。勿論、上限はあるけどな」
「なるほど」

なるほどな、そういう効果があったことに素直に感心した。

「戦ってた時に、違和感とか感じなかったか?攻撃した時に、いつもより、攻撃がうまくいったり、魔法が制御しやすくなったとか」
「・・・確かに、ありましたね」

黒杉はオロチとの戦いを思い出す。
『風圧』のコントロールや『加速』を使う度に、速くなってたような気がした。
まだ強くなれる可能性がある。それだけでも、安心できた。

「・・・もっと、強くなれる」

黒杉は、板野のことを思い出す。
その度に、刺された胸を触り、自分の使命を確認する。
目がぎらついた目で、ナイフを取り出して、見つめる。
そんな、月ノ城は黒杉の表情を伺うように話す。

「黒杉は強くなりたいのか?」
「・・・ああ、俺は強くなりたい。ならないといけないんだ」

俺は強くなってアイツに仕返しをしなければならない。
絶対に忘れない、この胸の事も、俺の友を傷つけようとしている事も、許されない。
すると、自分の考えを読まれるように、月ノ城が話す。

「・・・復讐を考えているなら、やめとけ」
「何故、わかるんです?それに、仮に復讐をするとしても、それは月ノ城さんには関係ないだろ?」
「・・・関係ないか」

月ノ城は黙る。
碧い瞳が、目の前の景色を真っすぐ見つめる。
何処か、思い詰めるような顔をして、やがて口を開く。

「確かに、お前の復讐には、俺には関係ないな」
「だろ?じゃあ・・・」
「だけどな・・・」

黒杉が、何か言おうとすると、月ノ城は割り込むように話し続けた。

「その復讐が正しくても、それが達成されても、満たされるとは限らないし、あっけないものだ」
「なんですかそれ・・・」
「さあな、ただ言えることが、あるなら・・・虚しくなるだけだな」
「・・・」

月ノ城は優しい眼をして、「あとは自分で考えろ」と言って、運転を再開する。

虚しくなる。

その言葉が、胸に深く突き刺さり、重く感じる。
過去に色々あったんだろうか、彼の姿は、過去に自分に懺悔するかのように、生きてるようにみええる。

「まあ、強くなりたいなら、協力はしよう」
「本当か?」
「ああ、その代わりに、俺たちの仕事を手伝ってもらうことになるが、大丈夫か?」

きっと、魔獣王の開放の事だろう。
だが、元の世界に帰る為には、避けては通れない道。

「ああ!強くなれるなら、やってやるさ」
「良い返事だ・・・期待してるぞ」

月ノ城は、再び静かに笑う。
これから、もっと厳しくなりそうだ。

「安心しろ、"俺たち"がお前を強くさせてやるさ」
「月ノ城さん・・・ありがとう」
「強くなってから言ってくれ、まず、それからだ」


―――――【三日後】


車を走らせて、三日が立つ。
そして、何もない平原に止まる。
見渡せば、一本の木が立ってるのと、周りに自分たちの3倍はあるだろうと、思われる岩が、そこら中に落ちていた。

「着いたぞ、今日からお前たちの住処だ。」

月ノ城は、後ろに寝てた二人を起こす。

「んー?もうついたんでふかー?」
「んー、よういちー?」

二人は寝ぼけていた。
眠そうな目を擦り、瞬きをして、そとの景色を見渡した。

「ほら、先行っちまうぞ」
「まってえー」

そう言って追いかける、アイリスとシルク。
外に出ると、風が当たり、空気が澄んでいた。
それだけでも、心が晴れやかになる。
ここの世界に来て、今のところ、良かったことは、空気がうまいぐらいしかなかった。

「着いたぞ」

しばらく歩くと、月ノ城が立ち止まる。
その場所は、先ほどと変わらない、平原と沢山の岩だった。

「月ノ城さん?ここには何も無いんですけども・・・」
「まあ、待ってろ」

月ノ城は近くの岩に触る。
魔力を込めて、何かをしているようだ。
すると、音を鳴らしながら、大きな岩が横にずれる。

ゴゴゴゴォ・・・

音が聞こえなくなると、同時に岩が止まる。
穴が見える。覗けば、そこには地下に続く階段だった。

「ようこそ、フヴェズルングへ、君たちを歓迎しよう」

そう言って、月ノ城が先頭で、案内され、俺たちは地下へ降りる。



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