トラットリアの星の下で

Yuki

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心を打ち抜く雪の弾丸

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 雪が静かに降り積もるクリスマスイブの夜、僕は杏奈と二人で小さなアパートの窓辺に座っていた。外では街灯が淡い光を放ち、雪片がまるで蜜蜂の群れのように舞っている。彼女の手には温かいココアのカップが握られていて、その湯気が細い糸のようにつむじ風を描いていた。
「ねえ、悟、クリスマスってさ、何か特別な感じがするよね」と杏奈が言った。彼女の声は柔らかくて、僕は心が落ち着く。
「そうだね。でも、今年はちょっと違う特別さがあるよ。杏奈と二人きりで過ごす夜だから」と僕は答えた。
 テーブルの上には、さっきまで彼女と観ていた『ダイ・ハード』のDVDが置かれている。ブルース・ウィリスがナカトミプラザでテロリストと戦う姿が頭に焼き付いていて、銃声とガラスの割れる音がまだ耳に残っていた。
 杏奈が小さく笑った。「映画のせい? ジョン・マクレーンみたいに格好いい気分になってるの?」
 彼女の茶色い目がこっちを見上げてきて、僕は一瞬言葉に詰まった。冗談っぽく言ったつもりだろうけど、その瞳には何か真剣な光が宿っていて、胸がドキッとした。
「まさか。僕にはマシンガンもホッケースティックもないし」と僕はごまかすように笑った。でも、正直なところ、彼女が隣にいることの方が、映画のどんなシーンよりも心を揺さぶっていた。
 窓の外で、遠くから教会の鐘が鳴り始めた。クリスマスの訪れを告げる音。杏奈が立ち上がって、カーテンを少し開けた。雪がさらに激しくなっていて、まるで世界が白いベールに包まれていくみたいだった。
「悟、ちょっと外に出ない?」と彼女が急に提案してきた。
「今? こんな雪の中で?」
「うん。だって、クリスマスだよ。『ダイ・ハード』みたいに何かドキドキすることが起こるかもしれないじゃん」
 彼女の笑顔があまりにも無邪気で、まるで映画のヒーローみたいに目を輝かせていた。断るなんて選択肢は頭になかった。
 コートを羽織って外に出ると、冷たい空気が頬を刺した。杏奈は僕の手を握って、雪の中を走り出した。軽やかに跳ねる彼女の姿を見ながら、僕は思う。この瞬間が永遠に続けばいいのにって。
 路地裏に差し掛かったとき、彼女が急に立ち止まった。そして、振り向いて僕を見た。雪が彼女の髪に積もって、白い花みたいに輝いている。
「悟、好きだよ」と杏奈が言った。
その言葉は、映画でマクレーンが放つ銃弾よりも鋭く、僕の心を撃ち抜いた。
「僕もだよ」と返すのがやっとだった。
 クリスマスの夜、雪の中で、僕らは唇を重ねた。鼓動が鳴り響いて、どこか遠くで『ダイ・ハード』のテーマが流れているような気がした。でも、今はただ、杏奈の温もりが全てだった。ナカトミプラザなんて関係ない。この小さな世界で、僕らはお互いのヒーローだった。
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