教会のシスターを禁断の孕ませ

Yuki

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檸檬

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 夏の終わり、蝉の声がやけに遠く感じる午後だった。僕、亮は、いつものように海辺の小さなカフェでコーヒーをすすっていた。窓の外では波が静かに打ち寄せ、ガラス越しに塩の匂いが漂ってくる気がした。カウンターの隅に置かれたレモンのバスケットが、陽光を浴びて鮮やかに輝いていた。
「あの、レモン、取ってもいいですか?」
 声に顔を上げると、彼女がそこにいた。肩にかかる黒髪がさらりと揺れ、白いワンピースが風に軽く舞っている。彼女はレモンを手に持って、ちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。初めて会った瞬間なのに、なぜか胸がざわついた。
「どうぞ、好きなだけ」と僕は言った。彼女は「ありがとう」と小さく答えて、バスケットから一つレモンを選んだ。その指先が、妙に繊細で、目が離せなかった。
 次の日も、彼女はカフェに来た。同じ席、窓際の端っこ。手に持っていたのは、レモンを絞ったソーダ水。グラスの中で泡が弾け、彼女の笑顔がその光に重なる。僕はその日、注文を聞きに行くふりをして話しかけた。
「レモン、好きなんだ?」
 彼女は少し驚いたように目を上げ、すぐに頬を緩めた。「うん、なんか…元気が出るから。酸っぱいけど、爽やかでさ。嫌いじゃないよね?」
「嫌いじゃない。むしろ、いいと思う」って、僕は笑った。彼女の声には、どこか懐かしい響きがあった。まるで昔から知っていたような。
 それから、僕らは少しずつ言葉を交わすようになった。愛加は近くの町からこの海辺に来ていると言った。夏の間だけ、祖母の家に滞在しているらしい。彼女はレモンが好きで、いつも何かしらレモンを使った飲み物やお菓子を手にしていた。ある日、彼女が持ってきたレモンタルトを分けてもらったとき、僕はその甘酸っぱさに心臓が跳ねた。彼女の笑顔が、味に溶けている気がした。
「亮って、いつもここにいるよね。何か理由あるの?」ある夕暮れ、愛加がふと聞いてきた。空はオレンジに染まり、彼女の瞳にその色が映っていた。
「理由か……。たぶん、この海が好きだからかな。落ち着くんだ」本当は、最近ここで彼女に会えることが、僕の毎日の楽しみになっていたなんて言えなかった。
「ふーん。海かぁ。私も好き。レモンの香りと海の匂い、なんか似てるよね。自由で、でもちょっと切ない」
 その言葉が、僕の胸に刺さった。彼女の言う「切ない」が、どんな意味を持つのか、聞きたかったけど、聞けなかった。
 夏が終わると、愛加は町に帰ると言った。最後の日、彼女はカフェに来なかった。代わりに、カウンターに小さな包みが置いてあった。レモンの形をしたクッキーと、短い手紙。
「亮へ。レモンの味、覚えててね。愛加」
 クッキーを口にすると、酸っぱさと甘さが広がった。彼女の笑顔が、香りと一緒に蘇る。僕は海を見ながら、そっとつぶやいた。「また、会えるよな」
 秋が来ても、冬が来ても、僕はあのレモンの香りを忘れないだろう。愛加が残した、夏の欠片を。
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