クズで何が悪い!!

猫村蒼夜

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第一章:死んでも変わらない

1.異世界転生したっぽい

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 現代日本、私は平成から令和へと切り変わった地点に居る。時間と言うものは、無情にも私を置いて流れていくようで、私はその流れに付いていけていない。私は、一体何をしているのだろうか。私が私であれたことすらなく、ただだらだらと自堕落な日々を送っている。
   意味もないのに無駄に見栄を張って、自分で首を絞めて……本当に、自分勝手に生きていたと思う。素直になれないのならと、私はクズであり続けた。エゴだ、これは私自身のエゴに過ぎない。
 私は何時も通り独りで帰宅する。今は、深夜1時位だろうか。こんな時間という事もあって、何時もうるさい街道も少しは静かだと思う。私は俯きながら歩いていた。ふと思い出したように顔を上げれば、信号が青になっている事に気づいく。暫く考えにふけっていた。だから、信号が変わっていた事に気づくのが遅れてしまったのだ。私は、赤に変わる前にと思い急いで渡る。
 そこから私の意識は、耳障りな車のブレーキ音を最後に途切れた。

 次に目を覚ましたのは、見知らぬ場所でだった。
「ん、んん? 頭痛った……あれ、此処何処だ?」
 周りは異様なくらい静かだ、時折風に揺られた木々や葉が擦れた音とかが聞こえてくるだけ。鳥の鳴き声も聞こえないのは不自然だが、それ以前に……
「なんで私、こんな所で眠ってたんだろ……」
 私は、この状況に頭が付いて行っていなかった。考える暇さえも許してくれないかのように、木陰から何かが飛び出して来た。
「く、熊ぁ!?!?」
 どうして怖い生き物は皆目が赤く光るのだろう。2m程だろうか、いや……もっとあったかも知れない。飛び出してきたのは、とても大きな赤い目の熊。
「待て待て待て! ベアうとか、これはシャレにならないって!」
 私はこの状況をどうにかしなければ死んでしまう。そう思った、しかし武器も持たない人間に何が出来ると言うのか。取りあえず私が取った行動は……
「逃げるが勝ちってなぁ!!」
 格好悪いが逃げ出した。無理無理、女子が熊と戦ってみろよ。はい、ご臨終ですね分かります。だから私は、必死に逃げた。無いに等しいであろう体力を振り絞って逃げまくった。体力が限界に達した頃、恐る恐る振り返るとそこには、熊の姿は無かった。まるで、熊など現れなかったと言えるほど周りは、最初と同じくらい静かであった。
「っはぁはぁ逃げ、切った?はぁはぁ……ウエッ」
 吐きそうになったのはさて置き、この時の私は気づかなかった、出て来た熊は傷だらけで瀕死だったようだ。恐らく何かに襲われたあとだったんだろう。それを考えると運が良かった。少し休憩した後、私はこの場所の外に向かう事にした。どっちが出口か分からないので適当に逃げた方向に向かう。30分程歩いた所で出口らしき場所を見つけた。私は、早く此処から抜け出したい一心で走り出す。
「よっしゃぁ! 出ぐ……えぇ」
 喜びを覚えたのも束の間。どうやら先ほど居た場所は森だったようで。森を抜けた先は、広大な平原と紅に染まった空が広がっているだけの場所だった。空には見知らぬ大きい鳥、平原にちらほら見えるスライム的なやつ。私は、ようやくここで自分の置かれた状況を悟った。
「此処、ファンタジー的な異世界じゃん! テンプレを考えると異世界転生? いや転移? どっちだ? そんなのはどうだっていいんや! 問題は、この先どうするかなんだよ!」
 と私は思い切り叫んだ。とにかく、溜まった気持ちを全て吐き出す勢いで叫びまくった。落ち着いて来てようたく気づいた事がある。
 草原を少し進んだ所に集落があるようだ。今私は、それを頼りにする他ない。
「いや、待てよ? 私容姿どうなってるん? 髪は、白だな。今気づいたけど髪長っ! 肌も色白だな。身長や手足の感覚は、元と一緒か。 んんーよし! もう考えるのは辞めよう!」
 ただ単に思考停止しただけである。私は、考えるのを止めはしたが足は動かし続けた。日も完全に落ちて辺りは暗い。
「はぁ~、すー……寒っ。さっきまで丁度良いくらいには温かかったのに、夜になるとこんなに寒いのかよ。」
 障害物の無い平原だからこそだ。冷たい風が容赦なく私の体を冷やす。草の揺れる音、寒さを紛らわす為の自分の独り言のせいも相まって、後ろから近づいて来ていた人影に私は気づかなかった。その人影は私の肩に手を乗せ
「おい」
 と声を掛けて来た。
「わぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
 私は予想外の展開で思わず奇声を上げた。それはもう、情けない上にただただ煩いだけの奇声を。
「っ、そんな叫ばなくてもいいだろ。 それよりお前……此処で何をしている。 此処は、モンスターの出る平原だぞ? 子供が、そんな場所をこんな時間帯に出歩くなんて命知らずにも程がある!」
 暗がりでハッキリとは見えないが、真剣な表情をしているのだろう、私に怒っている。しかし、その優しさに申し訳ないが利用させてくれ。生きたいもんでね。私は男が大嫌いなんだ、だから罪悪感もない……筈。特に身長の高い人は駄目!この人何㎝だ?180はあるんじゃないだろうか?
「ご、ごめんなさい。私、なんで此処に居るか分からなくて……気付いたら向こうにある、森の中で目が覚めて。なんとか森を抜け出せたので、あそこから見えた集落に行けば助けて貰えると……」
「あの森からだと!? 運のいい奴だな。 だとしたらあれは…… まぁいいだろう。 あの集落は冒険者の拠点でな、俺も向かっていた所だ。 お前は、本当に運がいい…… 冒険者と村の人間しか入れない場所なんだが、俺が皆に説明すれば分かってくれるだろう……」
 わぁ、めっちゃ都合が良いな本当に。物凄く不本意だけそも、この人には感謝しなくては。
「ありがとうございます。」
「いや、礼はいい。 ところでお前、身分を証明するものとかはあるか? 無くてもせめて、名前や故郷くらいは言えるだろ?」
   これは、本当の事は言わない方が良いだろう。それに、此処が新しい自分の生きる場所なら故郷の事も元の名も捨てよう。
「いえ、ありません。 故郷や身分等は覚えていませんが、名前くらいなら……」
   私は、俯きそう言った。
「そうか……では、名は何と言う。」
「アルファです。アルとでも、呼んで貰えれば幸いです」
   私は、何となく微笑んで言った。名前は適当に思い浮かんだのでそう言ってみたが、アルと呼ばれるのも悪くないと思う。
「そうか、俺はエドガー=ラフコス。皆はエドと呼んでいるからその呼び名で構わん。 まぁ、短い間だけだろうが宜しくな」
   少し微笑んだ彼は、何処か笑う事が不慣れなようにも見えた。
「はい! 宜しくお願いします!」
   私は、相変わらず心にもない笑顔を見せ明るめの声で言った。この人は、気づいているのだろうか?いや、気づいては居ないだろう。こういうタイプは大抵、人を疑う事を知らない。だって私との会話中に、警戒して腰にある剣に一度でも触れるような行動はしなかったから。
 もしかすると、こちらが弱い事を知ったうえでだったかも知れないが。
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