転移先がかご中の飼われインコ⁉。中味は人間、どうすんの⁉

ぽんたしろお

文字の大きさ
15 / 16
第14章

世話焼きお節介インコ

しおりを挟む
 飼い主のマリカさんと彼氏のコウヘイさんは、いつしかこの部屋で同棲を始めていた。私はコウヘイさんとすっかり仲良しになっていた。
 初対面で私が彼を怖がらなかったのが、好印象だったのだろうな。マリカさんが外出して暇な時は、コウヘイさんが私を肩にのせて、よく独り言をつぶやいていた。
 元人間なので話の内容がわかりだけに、私はマリカさんよりコウヘイさんのことに詳しくなったと思う。この事実に彼が気づいたら、きっと恥ずかしくて家出しちゃうかもしれないねぇ。そういう性格だってことよ(お見通し)、ぬふふふ。

 インコ軍団はと言うと、一度巣引きしたグリ子は一皮むけて「やや」丸くなった。ゆえに、全く丸くならない私が実質軍団のリーダー格になっている。
 グリ子とハル男夫婦は形式上夫婦の形は保っていたいたが、根が浮気癖のあるハル男が、これまた不倫体質のオカメのグレ子といちゃついて、グリ子がそのたびに激怒していた。
 私が思うに、一度巣引きして達成感を味わったセキセイ夫婦は、今や仮面夫婦といっていいだろう。
 グリ子とハル男の子供のつぎ男は私の弟子として腰ぎんちゃく状態だ。弟子体質のつぎ男に次世代のリーダーを任せるのはあまりにも心許ない。

 私が目を光らせて、狭いとはいえインコ社会の安定と平和と秩序を保つ役目を担っている自負はあった。そしてその自負があったから、自分の後を継ぐリーダーは、いち子だと考えていた。
 私もいつまでも若いインコと張り合っていられるわけではない。引き際を見据えて、飼われインコなりにこの小さな空間の中の平和と未来を考えていた。
 おそらく、未来を考えるのは元人間の名残かもしれないけれど……。そんなことを考えながら、私は幸せなインコだなと思った。不満ばっかり感じていた人間だった時を思うと、私も随分おとなになったものだ……。
 
 穏やかに日々が過ぎていると思っていたある日。
 マリカさんが外出してコウヘイさんが留守番をしていたときのことだ。コウヘイさんが、私をかごから出した。どうしたのかな?と思う。いつものように肩にのせることはしないで、私を乗せた指を、コウヘイさんの顔の正面でとめた。
 真正面でコウヘイさんが見つめるので、何事よ? とばかり視線を合わせる。一瞬、コウヘイさんの目が泳いだ。何をしているんだ? 
 と。いきなり素っ頓狂な声を上げると
「けっ、けっ、けぇ~~~っ ゲヘッゴホッゲヘゴホッ」
 激しくコウヘイさんは咳き込んだ。大丈夫? 私はコウヘイさんを凝視した。私の目力が強くなったのを感じたのかどうか知らないが、コウヘイさんの顔がみるみると青くなって、汗がタラタラ流れてきた。
 ちょっと! 大丈夫かよ? 私が心配しているというのに、こちらの気遣いに全く気が付かないコウヘイさんは真っ青な顔のまま、再び絶叫し始めた。
「けっ、けっ、けっこん‼」
 何? 何だって⁉
「けっこん! けっこん……ゲヘゴホ、して、ゲヘッくださいっ!」
 コウヘイさんはさんは、私を凝視したまま一気に声を吐き出した。そして、とたんにガックリ肩を落とし、顔をふせてしまった。
 けっこん……もしかしてプロポーズ? いやぁねぇ、私はインコよ、あなたと結婚できるわけないじゃない。道ならぬ道をいく覚悟はあるの?……なんてな、そんなわけないじゃん。
 私相手にプロポーズの練習ってわけね。ようやくその気になったのね、つきあいだして長いものね。そうか、遂にね…。おめでとう!
 しかしコウヘイさんは、ちっともおめでたそうな表情ではない。私は、コウヘイさんの肩に飛び移った。
「駄目だっ、言えないっ!」
「でも 怖がっていたら 前に進めないだろ……」
 コウヘイさんは独り言を言うと、う~~~んとうなって、頭を抱え込んでしまった。
 私にも、嫌な考えが頭をもたげてきた。マリカさんとコウヘイさんのカップル、お互いの気持ち確かめるのにも、こちらが呆れるほど時間がかかっていたんだよな。
 で。今回のこの状態を照らし合わせると。つまり、実際のプロポーズにたどり着くまで、一体どれだけの時間を費やすことになるんだろう? 考えるだけでめまいがしてきた。
 コウヘイさんと肩の上の私のまわりの空気は、おめでたい話とはほど遠くドヨドヨとよどんできた。

 案の定、コウヘイさんはプロポーズが出来ないまま、マリカさんの留守中にプロポーズの練習を繰り返す日々が始まった。
 練習しては「やっぱり駄目だっ!」と絶望する、繰り返しはいつ果てるともなく続いたのだった。

 私は弟子のつぎ男を呼ぶと頭を下げた。
「実は頼みたいことがある。厳しい訓練を積む作戦だが、引き受けて欲しい、頼む」
 ボスの私が頭を下げると、つぎ男は興奮してうなづいた。
「勿論! ボスの頼みを断るわけにはいかないよ!」
 興奮してつぎ男の頭の毛が逆立っていた。

 そこから私とつぎ男のそれはそれは厳しい訓練が始まった。私も頑張ったし、つぎ男もよくついてきたと思う。
 マリカさんもコウヘイさんもいない時間、私はいち子とつぎ男のかごに侵入すると、つぎ男にびっちり指導した。
また放鳥時間になると、つぎ男を引きつれてコウヘイさんの肩に二羽でべったりのっかって過ごした。コウヘイさんの肩にいることが、作戦決行のための訓練上必要不可欠だったからだ。

 そして、その時はきた。
放鳥時間、私とつぎ男はいつものようにコウヘイさんの肩に陣取った。コウヘイさんがマリカさんに話し掛けた。
「最近、りょうちゃんといっしょにつぎ男も肩にのってくれるようになったんだよな、どうしたのかな?」
「カップルになったのかな? 色恋沙汰がまったくなかったりょうちゃんにも、とうとう春がきたのかな?」
 マリカさんが頭をかしげてニコッと微笑んだ。彼女のボケっぷりに脱力しそうになる。
「春……」
 ボソリと彼氏さんがつぶやいた、その口調で脱力していた私に一瞬で緊張がはしった。サッと顔を上げると、ちょうど目の前にあったコウヘイさんの喉ぼとけが、ゴクリと鳴った。もしかして、その時が来たということか?
 私はつぎ男に視線を送った。(スタンバイして!)(了解!)
「春といえば、さ」
「うん?」
 マリカさんがコウヘイさんに顔を向けた。途端にコウヘイさんは視線をそらした。ちっ! やっぱり心配した通りだよ! (作戦決行だよ) (了解!)
「春といえば、花見…花見だ」
「う、うん? それで?」
「それでって……えっと……僕の故郷は、桜の名所なんだ」
「うん、そうだね」
 微妙にちぐはぐした空気が二人の間をただよい始めた。私はつぎ男にゴーサインを出した。小さくうなずき一呼吸置いて
「ケッコンシテクレ、シテクレ、ケッコン」 
 つぎ男はコウヘイさんの声をそっくりまねて、壊れたおもちゃのように繰り返した。つぎ男の突然のおしゃべりに二人はびっくりして、つぎ男を見た。
「プロポーズイツカナ、イツカナ、イツカナ」
 畳み掛けるように私はマリカさんにそっくりの声で叫んだ。彼女が、何度何度も口にしていたつぶやきだった。
「え?」
「これって…」
 あまりのことに二人は言葉もなく、お互いを見つめた。私とつぎ男は壊れた時計のように、ケッコンとプロポーズを繰り返しわめき続けた。

 扉は開けたよ。あとはあなた達が歩きだすだけだ。二人の沈黙がどれくらい続いただろうか。先に口を開いたのはコウヘイさんだった。
「ほんとに?」
「え……?」
「プロ……プロポーズ待っていてくれてたの?」
 マリカさんは、顔を真っ赤にして俯いた。
「結婚……してくれる?」
 コウヘイさんの声は緊張で上ずっていた。マリカさんが俯いたまま小さく頷いた。
 つぎ男は、コウヘイさんの肩からかごの上に飛び移った。私は、飛べないからワシワシと降りていくしかない。するとマリカさんがそっと指を差しだし、私をかごの上に移動させてくれた。
 ありがと。マリカさん。あとは二人で勝手に盛り上ってくれ。
「あなた達 わかっていたの?」
 マリカさんがつぶやいたが、つぎ男にはこの作戦の意味なんかわかっていなかったし、私も何のことよとばかり猛烈な勢いで頭をカキカキしフケを散らかし、すっとぼけた。
 コウヘイさんがマリカさんの肩をそっと抱いた。二人は、夢か幻でも見てるように私達インコを見つめて、いつまでもたたずんでいた。

 しばらくして二人の結婚が正式に決まった。




(つづく)


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...