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暑さを待つ人々
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その法律がなぜ成立したのかと言えば。
たまたま、会議中のエアコンが全て壊れて、ぶちぎれた国会議員さんたちが可決成立させてしまった「ハプニング法案」であった。
ところが、これが恐ろしいほどの効果を上げたのである……。
「うう、どうしよう……」
エアコンのある部屋で、なんとか寝苦しい夜を耐えた山田美也は、
「本日は熱帯夜からの真夏日です。クールビズ強化施行日になります」
スマホの天気サイトの第一面に施行日である告知を確認して、悩み始めそして決断できなかった。
「今日も、暑い…」
美也は暑い中をトボトボ出勤の歩を進める。と後ろから元気な
「おはよう!」
田中幸太郎が爽やかに声をかけてきた。
「おはよう、幸太郎は元気だね」
「今日は施行日だ、元気になるさ」
「見りゃわかるけどね」
幼馴染みの美也と幸太郎はバス停までは同じなのだ。
「水着は平気だよね?」
幸太郎が美也に尋ねた。
「だって、水着はプールか海の側だから」
幸太郎は首をひねる。
「プールないだけだぞ? 法律のお墨付きなんだから、飛び込んじゃえって。楽だぞ、会社の設定温度だって高くなっているんだし」
「まぁ、そうなんだけど」
「今じゃ、中途半端な涼しさより、今日のような熱帯夜と真夏日が快適だ!」
生き生きと張りきる幸太郎を横目に、美也はため息をつく。
「この法律、廃止になる可能性ないかな……」
美也が情けない声を出すと、幸太郎はキリっと言い切った。
「断固反対だ! こんな素晴らしい法案はないじゃないか あ、電話だ、じゃあ失礼!」
真夏の酷暑を喜びながら、朝っぱらから営業の電話に元気に応対する幸太郎を見送って、美也はバス停でため息をついた。
「女性用のフンドシ……」
美也はぼそっと呟く。すでに購入済みなのだ。ただフンドシを締めるあとちょっとの勇気がまだ持てない、それだけなのだ。
通称「フンドシクールビズ法」が可決成立して、熱帯夜翌日の真夏日は上半身スーツ、下半身フンドシ姿が公的に認められた。
下半身フンドシという珍妙と思える法案は当初、かなりの批判が殺到した。
しかしである。フンドシの効果は、批判を吹き飛ばし、社会全体に好循環をもたらせたのだ。
暑がりの傾向のある男性が率先してフンドシになったため、会社の設定室温をあっさり上げることに成功した。冷え性ぎみで悩んでいたデスクワークも拍手喝采でフンドシを受け入れた。
更に。夏場の外回りの効率が上がった、ちょっと一休みの回数が減って、業績がアップする会社が爆増。更に更に、フンドシの需要急増とともに、フンドシ用ジャケットとワイシャツも売り出された。カジュアルファッションの押され気味だったスーツメーカーの売上げも上昇。「ネクタイとフンドシをしめる!」というコピーとともに夏場のネクタイも復活した。
フンドシで晒される足用の日焼け止めもバカ売れだ。
法律施行直後から、排出二酸化炭素減少、下降気味だったGDPが上向きに転じるといいことづくめなのだ。
ハプニング法案が日本の名法案と称えられる日は近い。今年の流行語大賞は「フンドシビズ」だと皆が口を揃える。
フンドシが社会に浸透し、あまっさえ、フンドシこそ正義と言い切る風潮も出始めた中で、気持ちが追いつかない美也はフンドシ出勤を出来ずに、スカートを履いている。
でも最近、このスカートの布が忌々しく見えてきたのも事実だった。
「次のクールビズ強化法律施行日こそは! 私もフンドシデビューしよう」
設定温度が上がったバスの中で、孤独に汗を滲ませながら、美也は決意した。
二年後の夏の休日――。
「おめでとう!」
祝福する華やかなフォーマルフンドシの装いの友人たちの祝福に包まれ、フンドシウエディング姿の美也は微笑んだ。
夫になった幸太郎のフンドシタキシード姿を見て、美也は幸せの中で頬を赤く染めた。
耳元で幸太郎がささやく。
「美也のフンドシ、そそられる」
「もう、幸太郎のバカ……」
ますます美也の頬は紅潮した。
(終わり)
これはフィクションです!
☆彡イラストはあっきコタロウさんのフリーイラストを使用させていただきました。ありがとうございますっ
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/499172701
ツイッター@and_dance_waltz
たまたま、会議中のエアコンが全て壊れて、ぶちぎれた国会議員さんたちが可決成立させてしまった「ハプニング法案」であった。
ところが、これが恐ろしいほどの効果を上げたのである……。
「うう、どうしよう……」
エアコンのある部屋で、なんとか寝苦しい夜を耐えた山田美也は、
「本日は熱帯夜からの真夏日です。クールビズ強化施行日になります」
スマホの天気サイトの第一面に施行日である告知を確認して、悩み始めそして決断できなかった。
「今日も、暑い…」
美也は暑い中をトボトボ出勤の歩を進める。と後ろから元気な
「おはよう!」
田中幸太郎が爽やかに声をかけてきた。
「おはよう、幸太郎は元気だね」
「今日は施行日だ、元気になるさ」
「見りゃわかるけどね」
幼馴染みの美也と幸太郎はバス停までは同じなのだ。
「水着は平気だよね?」
幸太郎が美也に尋ねた。
「だって、水着はプールか海の側だから」
幸太郎は首をひねる。
「プールないだけだぞ? 法律のお墨付きなんだから、飛び込んじゃえって。楽だぞ、会社の設定温度だって高くなっているんだし」
「まぁ、そうなんだけど」
「今じゃ、中途半端な涼しさより、今日のような熱帯夜と真夏日が快適だ!」
生き生きと張りきる幸太郎を横目に、美也はため息をつく。
「この法律、廃止になる可能性ないかな……」
美也が情けない声を出すと、幸太郎はキリっと言い切った。
「断固反対だ! こんな素晴らしい法案はないじゃないか あ、電話だ、じゃあ失礼!」
真夏の酷暑を喜びながら、朝っぱらから営業の電話に元気に応対する幸太郎を見送って、美也はバス停でため息をついた。
「女性用のフンドシ……」
美也はぼそっと呟く。すでに購入済みなのだ。ただフンドシを締めるあとちょっとの勇気がまだ持てない、それだけなのだ。
通称「フンドシクールビズ法」が可決成立して、熱帯夜翌日の真夏日は上半身スーツ、下半身フンドシ姿が公的に認められた。
下半身フンドシという珍妙と思える法案は当初、かなりの批判が殺到した。
しかしである。フンドシの効果は、批判を吹き飛ばし、社会全体に好循環をもたらせたのだ。
暑がりの傾向のある男性が率先してフンドシになったため、会社の設定室温をあっさり上げることに成功した。冷え性ぎみで悩んでいたデスクワークも拍手喝采でフンドシを受け入れた。
更に。夏場の外回りの効率が上がった、ちょっと一休みの回数が減って、業績がアップする会社が爆増。更に更に、フンドシの需要急増とともに、フンドシ用ジャケットとワイシャツも売り出された。カジュアルファッションの押され気味だったスーツメーカーの売上げも上昇。「ネクタイとフンドシをしめる!」というコピーとともに夏場のネクタイも復活した。
フンドシで晒される足用の日焼け止めもバカ売れだ。
法律施行直後から、排出二酸化炭素減少、下降気味だったGDPが上向きに転じるといいことづくめなのだ。
ハプニング法案が日本の名法案と称えられる日は近い。今年の流行語大賞は「フンドシビズ」だと皆が口を揃える。
フンドシが社会に浸透し、あまっさえ、フンドシこそ正義と言い切る風潮も出始めた中で、気持ちが追いつかない美也はフンドシ出勤を出来ずに、スカートを履いている。
でも最近、このスカートの布が忌々しく見えてきたのも事実だった。
「次のクールビズ強化法律施行日こそは! 私もフンドシデビューしよう」
設定温度が上がったバスの中で、孤独に汗を滲ませながら、美也は決意した。
二年後の夏の休日――。
「おめでとう!」
祝福する華やかなフォーマルフンドシの装いの友人たちの祝福に包まれ、フンドシウエディング姿の美也は微笑んだ。
夫になった幸太郎のフンドシタキシード姿を見て、美也は幸せの中で頬を赤く染めた。
耳元で幸太郎がささやく。
「美也のフンドシ、そそられる」
「もう、幸太郎のバカ……」
ますます美也の頬は紅潮した。
(終わり)
これはフィクションです!
☆彡イラストはあっきコタロウさんのフリーイラストを使用させていただきました。ありがとうございますっ
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/499172701
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