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7 事件発覚
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図書室担当の畑中(はたなか)先生が、寺田遥斗(てらだ はると)を呼び止めた。
「本の返却した?」
「恐竜の本なら、返しました」
「返却されていないんだよね」
「え、だって俺、大崎(おおさき)さんに渡した……」
大崎留美(おおさき るみ)は顔を真っ赤にして畑中先生に反論した。
「そんなの嘘です! 寺田くんが嘘を言ってる!」
遥斗と留美の意見が真っ向から対立して、畑中先生は迷う。
『どちらも嘘を言っていないのか』? いや違う、『どちらが嘘を言っているのか』だ――
畑中先生が逡巡したのは、結果的に失敗だった。
大崎留美が『事件』を表ざたにするために、すぐに動き始めたからだ。過去にいじめれたうっ憤を晴らすために留美が画策し準備してきたのだから、水面下で処理されるなんてまっぴらごめんだった。
畑中先生が動かないなら、自らが発信するしかないだろうと大崎留美は判断したのだ。後ろには橋本紬(はしもと つむぎ)が付いている。橋本紬の後ろには及川工場長がいる。反撃してやる、その資格が自分には十分にあるはず、だと留美は信じていた。
寺田遥斗が本を返さない、盗んだのではないかと畑中先生も疑っている、大崎留美が周囲に話し始めた。噂は学校内に静かにそしてジワジワと広がっていく。
荒木舞(あらき まい)が勉強に夢中になって子供社会の興味を失っていたのも、噂を加速させた一因だった。荒木舞が頂点にいた時のように噂の制御をする者はもういないからだ。
荒木舞が噂を耳にしたときは、すでに『手遅れ』だった。舞は噂をきいて直観した。手当てをするのは無理だと諦めるしかなかった。舞自身を守るのが先決だ、手出しのできるタイミングは逸していた。舞は聞かなかったフリをして沈黙する。
橋本紬と寺田遥斗の耳に噂が届いたのは、学校中に満遍なく広まった最後であった。それが、噂の広まり方の典型だ。肝心の人間を綺麗に避けて噂は広がっていく。
遥斗が
「そんなの嘘だ!」
と叫んだ時、周囲は全て冷たい視線に変わっていた。
遥斗は自分の言葉がまったく他の子供たちに響いていないことを肌で感じた。これが、孤立するということなのか、遥斗は唇を噛んだ。
大崎留美が嘘をついているのを知っているのは、留美本人と遥斗だけなのだ。周囲の子供たちは力学を『正しく』把握し、留美子になびいている。口をゆがめ、せせら笑っている留美を、脱力しながら遥斗は見つめるしかなかった。
(つづく)
「本の返却した?」
「恐竜の本なら、返しました」
「返却されていないんだよね」
「え、だって俺、大崎(おおさき)さんに渡した……」
大崎留美(おおさき るみ)は顔を真っ赤にして畑中先生に反論した。
「そんなの嘘です! 寺田くんが嘘を言ってる!」
遥斗と留美の意見が真っ向から対立して、畑中先生は迷う。
『どちらも嘘を言っていないのか』? いや違う、『どちらが嘘を言っているのか』だ――
畑中先生が逡巡したのは、結果的に失敗だった。
大崎留美が『事件』を表ざたにするために、すぐに動き始めたからだ。過去にいじめれたうっ憤を晴らすために留美が画策し準備してきたのだから、水面下で処理されるなんてまっぴらごめんだった。
畑中先生が動かないなら、自らが発信するしかないだろうと大崎留美は判断したのだ。後ろには橋本紬(はしもと つむぎ)が付いている。橋本紬の後ろには及川工場長がいる。反撃してやる、その資格が自分には十分にあるはず、だと留美は信じていた。
寺田遥斗が本を返さない、盗んだのではないかと畑中先生も疑っている、大崎留美が周囲に話し始めた。噂は学校内に静かにそしてジワジワと広がっていく。
荒木舞(あらき まい)が勉強に夢中になって子供社会の興味を失っていたのも、噂を加速させた一因だった。荒木舞が頂点にいた時のように噂の制御をする者はもういないからだ。
荒木舞が噂を耳にしたときは、すでに『手遅れ』だった。舞は噂をきいて直観した。手当てをするのは無理だと諦めるしかなかった。舞自身を守るのが先決だ、手出しのできるタイミングは逸していた。舞は聞かなかったフリをして沈黙する。
橋本紬と寺田遥斗の耳に噂が届いたのは、学校中に満遍なく広まった最後であった。それが、噂の広まり方の典型だ。肝心の人間を綺麗に避けて噂は広がっていく。
遥斗が
「そんなの嘘だ!」
と叫んだ時、周囲は全て冷たい視線に変わっていた。
遥斗は自分の言葉がまったく他の子供たちに響いていないことを肌で感じた。これが、孤立するということなのか、遥斗は唇を噛んだ。
大崎留美が嘘をついているのを知っているのは、留美本人と遥斗だけなのだ。周囲の子供たちは力学を『正しく』把握し、留美子になびいている。口をゆがめ、せせら笑っている留美を、脱力しながら遥斗は見つめるしかなかった。
(つづく)
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