ふと頭をよぎったことを書いておく、いわゆるブログ的なあれ

ぽんたしろお

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2020年05月

るつぼ

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 不器用な自覚はあった。
 大学で初めての実験実習は何年たっても忘れることはない。「るつぼの質量を計測する」が実習のテーマだった。
簡単だと高を括っていたわけではないが、
「また駄目」
 るつぼの質量はわかっている。しかし、分銅を使った質量計は、誤差範囲に収まらない。
 なんだ、これ? たかが質量を測るだけなのに何回目のチャレンジをしただろう。クリアした同級生が次々実験室を出ていくなかで、手が震えてくる。

 るつぼを再びバーナーで熱する。るつぼが吸収した水分を飛ばすのだ。質量を測るのに、バーナーで熱する。湿度が憎い。熱したるつぼが真っ赤になった。
 今度こそ、指示されている誤差範囲になってくれ。
 分銅で測る天秤式の質量計のガラス戸を開ける。その瞬間、不純な空気が侵入したような感覚があって「もうだめだ」と思う。
 天秤の皿にそろそろとるつぼを置き、反対の皿に分銅を乗せて微調整して。メモリが揺れる。狭い空間の狭いガラス戸の中で分銅を足す。足す。
 ああ、もうるつぼが水分を吸い始めたのか。許容範囲の誤差を飛び出し、それでも天秤は平行にならない。るつぼが湿気を吸ったのが原因なのか、分銅がすでに信頼たる計測道具なのかもわからなくなっていた。
「ようやくオッケー」
 苦戦していた一人がまた抜けて行った。同じ天秤測りである。
では、計測機器の側の問題でないわけだ。自分のやり方の問題か、るつぼの問題ということだ。

 最後まで実験した結果、るつぼが許容範囲に入ったか覚えていない。多分、上手くできなかったんだと思う。

 質量を厳密に計測するというのは、私には超難関で、すでに実験実習に対して心が折れた。他の実験のことはあまり思い出さないが、最初の「るつぼの質量を測る」実習だけは、今でも頭にこびりついている。
 当時、許容範囲がプラスマイナス百分の二グラムが許容範囲だったような記憶がある。

 実験で正確なデータを測定するのは、難しいのだなというのを思い知ったんだ。
 
 検査とか実験と一言でいうけれど、不器用な人間には、全く簡単でなかったという話。

 ちなみに、私が経験した物理天秤は今ではあまり使われていないらしい。まーねー、だよね~。私みたいなアホも、いないわけでないので、器用さが問われる測定器具は廃れていくわな~……。

 

 
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