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馴れ初め
一
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買い物を目的として外出した。ただそれだけのことだった。ありふれた日常の中での偶然の出逢い。それが運命というもの。
シリスという男性は、群青色の長髪をポニーテールにし、前髪は顔の左半分を覆う程に長く伸ばしている。髪で覆われていない右側は、女性と見紛う程の美貌である。しかしその目には光が無く影を落としていた。表情はほとんど無いに等しく、どこか憂いを帯びた雰囲気を醸し出していた。
「わっ!!」
「ッ!」
考え事をしながら街中を歩いていると、前から男性が肩にぶつかってきてよろめく。ぶつかってきたその人は体勢を崩して倒れそうになったところを咄嗟に片手で受け止めた。
常に冷静で普段こんな失態を犯すことは無い為、不覚を取ったと心の中で悔いる。
「……お怪我はありませんか。……!」
「あ、はい……すみません……。あっ!」
その男性は帽子を被っていたが、体勢を崩した拍子に脱げてしまった。露わになったその髪色は鮮やかな朱色をしていて、シリスはその髪色に驚き目が離せない。
そんな鮮やかな髪色をしているが、眼鏡を掛けた幼さの残る可愛らしい顔立ちをしていて、優しい雰囲気の男性だ。
彼は慌てた様子で帽子を深く被り直す。
「あ、あのっ、本当にすみませんでした! ボーッと余所見をしていて……。あっ……ッ……!」
「どうされました?」
「あ……その……だ、大丈夫です……。すみません、失礼しました……」
何度も頭を垂れ去ろうとする彼だが、明らかに苦悶の表情を浮かべて無理をして笑顔を作っていた。片足をやや引きずって歩き出している。
「お待ちください。転んだ際に足を捻ったのではないですか?」
数秒言い淀んでいたが、シリスの視線に耐えられず観念して話し出す。
「はい……そうみたいです」
「貴方の名前は?」
「え?」
突然尋ねられてキョトンとし、戸惑いがちに答える。
「えと……我は晋 朱廉です」
「私はシリス・ベガ・フランシェスと申します。名乗っておけば怪しい者ではないことが理解いただけるかと」
「は、はあ……」
「少々ここでお待ちください。近くに薬局があるので処置出来る物を買ってきます」
「そんな! これくらいのことで悪いです!」
「内出血を起こし腫れることもあります。後に酷くなるかもしれません。痛めている方を放っておいては私の気が休まりませんし、どうかお付き合いいただけませんか」
「あ…………わかり、ました」
朱廉を強引にその場に留め、シリスは即刻薬局へ向かい必要な物を買って戻ってきた。脇道へ移動し慣れた手付きで手早く処置をする。
「あの、本当にありがとうございます。お金を……」
「いえ、これは私が勝手にしたことで自己満足ですのでお金はいりません」
「そんな……! …………何から何まですみません」
「いいえ。お大事にしてください。歩けそうですか?」
「はい。のんびり歩いて帰ります。ありがとうございました」
そうして二人はそれぞれの帰路へつく。
朱廉は人に迷惑をかけたことでただただ申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。それと髪を見られたことがショックでもあった。大嫌いなこの髪を見られたことが。しかし、人に優しくされたのはシンプルに嬉しくもあった。閉じていた心が少しだけ開けた気がした。
シリスは自分の行動に驚いている。譲れないことがあると是が非でもやろうとする頑固さは自覚しているが、それを他人に強要するとは思わなかった。好きな赤い色。彼の印象深い髪色は自分の心を揺さぶった。深い理由は自分でもわからないが、彼を助けたいと強く思ったのだった。
シリスという男性は、群青色の長髪をポニーテールにし、前髪は顔の左半分を覆う程に長く伸ばしている。髪で覆われていない右側は、女性と見紛う程の美貌である。しかしその目には光が無く影を落としていた。表情はほとんど無いに等しく、どこか憂いを帯びた雰囲気を醸し出していた。
「わっ!!」
「ッ!」
考え事をしながら街中を歩いていると、前から男性が肩にぶつかってきてよろめく。ぶつかってきたその人は体勢を崩して倒れそうになったところを咄嗟に片手で受け止めた。
常に冷静で普段こんな失態を犯すことは無い為、不覚を取ったと心の中で悔いる。
「……お怪我はありませんか。……!」
「あ、はい……すみません……。あっ!」
その男性は帽子を被っていたが、体勢を崩した拍子に脱げてしまった。露わになったその髪色は鮮やかな朱色をしていて、シリスはその髪色に驚き目が離せない。
そんな鮮やかな髪色をしているが、眼鏡を掛けた幼さの残る可愛らしい顔立ちをしていて、優しい雰囲気の男性だ。
彼は慌てた様子で帽子を深く被り直す。
「あ、あのっ、本当にすみませんでした! ボーッと余所見をしていて……。あっ……ッ……!」
「どうされました?」
「あ……その……だ、大丈夫です……。すみません、失礼しました……」
何度も頭を垂れ去ろうとする彼だが、明らかに苦悶の表情を浮かべて無理をして笑顔を作っていた。片足をやや引きずって歩き出している。
「お待ちください。転んだ際に足を捻ったのではないですか?」
数秒言い淀んでいたが、シリスの視線に耐えられず観念して話し出す。
「はい……そうみたいです」
「貴方の名前は?」
「え?」
突然尋ねられてキョトンとし、戸惑いがちに答える。
「えと……我は晋 朱廉です」
「私はシリス・ベガ・フランシェスと申します。名乗っておけば怪しい者ではないことが理解いただけるかと」
「は、はあ……」
「少々ここでお待ちください。近くに薬局があるので処置出来る物を買ってきます」
「そんな! これくらいのことで悪いです!」
「内出血を起こし腫れることもあります。後に酷くなるかもしれません。痛めている方を放っておいては私の気が休まりませんし、どうかお付き合いいただけませんか」
「あ…………わかり、ました」
朱廉を強引にその場に留め、シリスは即刻薬局へ向かい必要な物を買って戻ってきた。脇道へ移動し慣れた手付きで手早く処置をする。
「あの、本当にありがとうございます。お金を……」
「いえ、これは私が勝手にしたことで自己満足ですのでお金はいりません」
「そんな……! …………何から何まですみません」
「いいえ。お大事にしてください。歩けそうですか?」
「はい。のんびり歩いて帰ります。ありがとうございました」
そうして二人はそれぞれの帰路へつく。
朱廉は人に迷惑をかけたことでただただ申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。それと髪を見られたことがショックでもあった。大嫌いなこの髪を見られたことが。しかし、人に優しくされたのはシンプルに嬉しくもあった。閉じていた心が少しだけ開けた気がした。
シリスは自分の行動に驚いている。譲れないことがあると是が非でもやろうとする頑固さは自覚しているが、それを他人に強要するとは思わなかった。好きな赤い色。彼の印象深い髪色は自分の心を揺さぶった。深い理由は自分でもわからないが、彼を助けたいと強く思ったのだった。
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