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四話 成長の第一歩
六
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「先生、食事療法ってやっぱアレッスか」
「そうそう、アレです」
「アレってなに?」
伯父も伯母もピヨを育てた経験があるからなのか、アレと言われるものが分かっているようだ。
「知ってると思うからママに作ってもらってね」
そう言われて高揚していた気分が少しだけ沈んでしまう。胸の内がもやもやした。
ママって言われた……ちがうんだけどな
ココロは少し間を置いて頷くだけにした。伯母であることをいちいち訂正することが面倒くさかった。
それから運動方法を聞き、診察は終了して診察室を出た。診察料を払ったらあとは帰るのみで、車に乗ってやっと緊張が解ける。
「成長痛ってピヨにもあるのね」
「太郎丸はそんなのならなかったよな。アイツ図太そうだもんな」
「もしかしたらクックは大きくなるのかもしれないわよ」
「あ、そうかもね。太郎丸より大きくなるのか、それとも別の進化形態見れちゃったりして」
「可能性はあるわね」
「ねー。ココロちゃんも楽しみでしょ」
「……」
後部座席では、車に乗ったからなのか、クックの脚の容態が大したことがなくて安心したのか、カゴを支えながらもココロは眠っていた。
「寝かしておきましょう」
「そうだね」
帰りの道路はやや渋滞していたが、走ること約三十分で家に到着する。起こすのも可哀想だと思った伯父が抱えて部屋へ運び、布団を敷いて寝かせてやった。
カゴは伯母が持っていき、寝かせたココロの側に置いておく。ケージの中を掃除し、給水器に水を足すなど整えてからクックを戻した。その際クックの額を撫でながらそっと囁く。
「クック、あなたの小さな主さんはまだまだ未熟で、これから色んなことでつまずくと思うわ。だからあなたが支えになってあげて。頼んだわよ」
「ピッ」
言葉に返事をしたクックに微笑み、しっかりとケージを閉めてから部屋を出ていった。
数十分後、ココロは目を覚まして目を擦りながら起き上がる。
「あれ……おへやにいる。おうちついたの?」
「ピヨッ」
「クックさん」
膝と手を床につきながら這って近寄り、ケージ越しでクックの様子を見ながら話しかける。
「よかったね、あしだいじょうぶだって。でもいたいよね、ごめんね」
「ピヨヨッ」
「わたし、こんどから気をつける。がんばる。がんばってクックさんをそだてる」
主としての責任。それは七歳の子供には重い役目である。それでも託された役目であるから、それ以上にクックが大切だから。役目を果たそうと心に誓う。
「ちょっと下いってくる。おれい言わなきゃ」
祖父は元より、まだ怖いけれど伯父も伯母にも少しずつ慣れていっている。階段を降りてリビングに入るとすぐに伯父と目が合った。キッチンには伯母もいる。
「あら、起きたの」
「おきた。……えっとその…………ありがとう。伯父さん、伯母さん。たすけてくれて」
「あーいいのいいの、そんなの気にしなくて」
「あなた。こういうことにはちゃんと応えなさいよ」
「あーはいはい。こう……固っ苦しいの苦手でさあ。とにかく、またなんかあったら言ってよ。分かることなら手伝うし」
「そうよ。みんな初めては分からないもの。失敗して知るのよ。教えるから、分からなかったら必ず聞きに来なさい」
「そうする」
和室にも顔を出して、横になっている祖父の前に座った。
「おじいちゃん、ただいま」
「おかえり。良かったな」
「……うん」
大きく頷き、それから柔らかく嬉しそうに微笑む。普段笑うことが少ないが、今は少しだけ笑える気分だった。
「……なっとうのにおいがする」
「アレだよ、アレ」
「アレ?」
笑顔の時間は短く、またいつもの下がった眉に唇は小さく一文字に結ぶ。
和室から出てみると、伯母がキッチンで納豆を混ぜ合わせているようだった。器に盛り付けたものを持ってきてくれる。
「うっ……!」
器の中身を見た瞬間に思い切り怯んでしまう。
器の中には納豆が入っているが、タレがかかっているわけではなく白い何かが納豆を包んでいる。
「納豆ヨーグルトよ」
ピヨにとってはポピュラーな食べ物らしい。
見た目が見慣れないことと、ダブルの発酵食品のにおいに顔を逸らせて鼻をつまんだ。これを毎日でも食べるのかと思うと、自分が食べるわけではないのにいたたまれない気持ちになる。
「ほんとうにこれたべるの……?」
「そうよ」
「太郎丸もよく食べるよ。あっ、もしかしてココロちゃん、納豆嫌い?」
「うん……クチャクチャしてるから」
「じゃあ乾燥納豆なら食べられるかもしれないわね。あれならほとんど粘りがないし」
「そんななっとうあるんだ」
「小雛になったし色んな食べ物を試してみてもいいかもね。いつもの餌に好きなものをブレンドしてみるとかさ」
「明日からためしてみる」
ピヨの育成で餌のブレンドは楽しみの一つと言える。
雛の時期はパウダーフードやふやかした種などが主食だったが、小雛となれば消化器官が発達し硬い種など様々な種類が食べられるようなる。
食事は体作りの基礎であり、栄養素によっては体を大きくしたり体重の増減も自由自在にコントロール出来る。進化にも多大な影響があると考えられている。
「そうそう、アレです」
「アレってなに?」
伯父も伯母もピヨを育てた経験があるからなのか、アレと言われるものが分かっているようだ。
「知ってると思うからママに作ってもらってね」
そう言われて高揚していた気分が少しだけ沈んでしまう。胸の内がもやもやした。
ママって言われた……ちがうんだけどな
ココロは少し間を置いて頷くだけにした。伯母であることをいちいち訂正することが面倒くさかった。
それから運動方法を聞き、診察は終了して診察室を出た。診察料を払ったらあとは帰るのみで、車に乗ってやっと緊張が解ける。
「成長痛ってピヨにもあるのね」
「太郎丸はそんなのならなかったよな。アイツ図太そうだもんな」
「もしかしたらクックは大きくなるのかもしれないわよ」
「あ、そうかもね。太郎丸より大きくなるのか、それとも別の進化形態見れちゃったりして」
「可能性はあるわね」
「ねー。ココロちゃんも楽しみでしょ」
「……」
後部座席では、車に乗ったからなのか、クックの脚の容態が大したことがなくて安心したのか、カゴを支えながらもココロは眠っていた。
「寝かしておきましょう」
「そうだね」
帰りの道路はやや渋滞していたが、走ること約三十分で家に到着する。起こすのも可哀想だと思った伯父が抱えて部屋へ運び、布団を敷いて寝かせてやった。
カゴは伯母が持っていき、寝かせたココロの側に置いておく。ケージの中を掃除し、給水器に水を足すなど整えてからクックを戻した。その際クックの額を撫でながらそっと囁く。
「クック、あなたの小さな主さんはまだまだ未熟で、これから色んなことでつまずくと思うわ。だからあなたが支えになってあげて。頼んだわよ」
「ピッ」
言葉に返事をしたクックに微笑み、しっかりとケージを閉めてから部屋を出ていった。
数十分後、ココロは目を覚まして目を擦りながら起き上がる。
「あれ……おへやにいる。おうちついたの?」
「ピヨッ」
「クックさん」
膝と手を床につきながら這って近寄り、ケージ越しでクックの様子を見ながら話しかける。
「よかったね、あしだいじょうぶだって。でもいたいよね、ごめんね」
「ピヨヨッ」
「わたし、こんどから気をつける。がんばる。がんばってクックさんをそだてる」
主としての責任。それは七歳の子供には重い役目である。それでも託された役目であるから、それ以上にクックが大切だから。役目を果たそうと心に誓う。
「ちょっと下いってくる。おれい言わなきゃ」
祖父は元より、まだ怖いけれど伯父も伯母にも少しずつ慣れていっている。階段を降りてリビングに入るとすぐに伯父と目が合った。キッチンには伯母もいる。
「あら、起きたの」
「おきた。……えっとその…………ありがとう。伯父さん、伯母さん。たすけてくれて」
「あーいいのいいの、そんなの気にしなくて」
「あなた。こういうことにはちゃんと応えなさいよ」
「あーはいはい。こう……固っ苦しいの苦手でさあ。とにかく、またなんかあったら言ってよ。分かることなら手伝うし」
「そうよ。みんな初めては分からないもの。失敗して知るのよ。教えるから、分からなかったら必ず聞きに来なさい」
「そうする」
和室にも顔を出して、横になっている祖父の前に座った。
「おじいちゃん、ただいま」
「おかえり。良かったな」
「……うん」
大きく頷き、それから柔らかく嬉しそうに微笑む。普段笑うことが少ないが、今は少しだけ笑える気分だった。
「……なっとうのにおいがする」
「アレだよ、アレ」
「アレ?」
笑顔の時間は短く、またいつもの下がった眉に唇は小さく一文字に結ぶ。
和室から出てみると、伯母がキッチンで納豆を混ぜ合わせているようだった。器に盛り付けたものを持ってきてくれる。
「うっ……!」
器の中身を見た瞬間に思い切り怯んでしまう。
器の中には納豆が入っているが、タレがかかっているわけではなく白い何かが納豆を包んでいる。
「納豆ヨーグルトよ」
ピヨにとってはポピュラーな食べ物らしい。
見た目が見慣れないことと、ダブルの発酵食品のにおいに顔を逸らせて鼻をつまんだ。これを毎日でも食べるのかと思うと、自分が食べるわけではないのにいたたまれない気持ちになる。
「ほんとうにこれたべるの……?」
「そうよ」
「太郎丸もよく食べるよ。あっ、もしかしてココロちゃん、納豆嫌い?」
「うん……クチャクチャしてるから」
「じゃあ乾燥納豆なら食べられるかもしれないわね。あれならほとんど粘りがないし」
「そんななっとうあるんだ」
「小雛になったし色んな食べ物を試してみてもいいかもね。いつもの餌に好きなものをブレンドしてみるとかさ」
「明日からためしてみる」
ピヨの育成で餌のブレンドは楽しみの一つと言える。
雛の時期はパウダーフードやふやかした種などが主食だったが、小雛となれば消化器官が発達し硬い種など様々な種類が食べられるようなる。
食事は体作りの基礎であり、栄養素によっては体を大きくしたり体重の増減も自由自在にコントロール出来る。進化にも多大な影響があると考えられている。
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