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二章〈worry〉〜自覚したらアイツに夢中〜
一 拓視点
しおりを挟む帰りのホームルームで担任教師が紙を配りだした。
「えー、進路調査の紙を配るから来週までに提出するように」
教室中はガヤガヤと騒がしくなる。殆どが愚痴だ。
「もう進路考えんのかよー」
「早くないっスかー? 全然決まってねーよ」
「マジだりぃ」
「静かにしろー。進路調査って言っても、進学するのか就職するのかの大まかな人数が知りたいだけだ。まだ具体的にどこ受けたいとかそういうことを聞いてるわけじゃないからサクッと書けるだろ。まあもう決まってるなら書いたっていいぞ」
紙が前の席から順に回ってくる。進路調査票と書かれており、進学、就職のどちらかに丸を付けるようだ。下の欄には丁寧にも具体的に決まっていたら記入して下さいとある。
「提出先は学級委員長な。全員のが集まったらまとめて持ってきてくれ。責任重大だぞ藍庭」
担任教師に名指しされるも有馬は無反応だった。
「藍庭、聞いてるか?」
「……あ、はい。了解ですとも」
「ですともって」
「委員長はまた恋人のことでも考えてたんだろー」
「あ~あり得るな」
「それはいつものことさ!」
こんなやり取りはホームルームでよくある。クラスメートが有馬をからかう。そこに俺を巻き込むのは本気でやめてほしい。
「お前も大変だな」
「……マジで迷惑」
前の席のやつが振り向いてきてそんなことを言ってくる。だから俺はホームルームが終わるまで、机に置いたスクールバッグで顔を隠していることにした。
俺の席からじゃ有馬の顔って見れねぇんだよな。基本的には真面目なやつだし、ぼんやりしてたのか?
「ほいじゃコレ。この箱に入れて保管しといてくれ」
「はい、わかりました」
「要件は以上。解散!」
「せんせ、さよーならー」
「はいはい、さよなら」
ホームルームが終わると、担任教師が最初に教室から出ていき、それから次々と生徒が帰っていく。有馬は投票箱を受け取ったようだ。
「……学級委員長って色々面倒なんだな」
そそくさと荷物を持って有馬のところにやってきて声を掛けてみたが有馬はまた反応が無い。ぼんやりとしているというよりも考え事をしているような感じで、数秒後に反応がある。
「あっ、チョコ。なに、どうしたんだ?」
「お前がどうしたよ」
「なんでもないさ。ホームルーム終わったし帰るかい?」
「そうだな。日誌は今日もあんの?」
「ああ、いや。ホームルーム前に提出しておいた。ちゃちゃっと終わらせてしまったよ」
「ふうん」
相変わらずクラス日誌は有馬が書いているようだ。自分のところにも一回きて、内容はうろ覚えであるが結構面倒くさかったような気がする。それを毎日のように書いているのだから偉いと思う。
「じゃあ帰るか」
「うん」
荷物を持って席を立つ有馬。
なんでもないとは言うが果たして本当になんでもないのか。気にはなるが、ただクラスメートが言ってたようにただ俺のことを考えていただけなら背筋が薄ら寒くなってくる。たまにはこういうこともあるだろうと思いながら教室を出ていった。
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