99%興味【打ち切り】

朝陽ヨル(月嶺)

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二章〈worry〉〜自覚したらアイツに夢中〜

一 拓視点

 
 帰りのホームルームで担任教師が紙を配りだした。

「えー、進路調査の紙を配るから来週までに提出するように」

 教室中はガヤガヤと騒がしくなる。殆どが愚痴だ。

「もう進路考えんのかよー」
「早くないっスかー? 全然決まってねーよ」
「マジだりぃ」
「静かにしろー。進路調査って言っても、進学するのか就職するのかの大まかな人数が知りたいだけだ。まだ具体的にどこ受けたいとかそういうことを聞いてるわけじゃないからサクッと書けるだろ。まあもう決まってるなら書いたっていいぞ」

 紙が前の席から順に回ってくる。進路調査票と書かれており、進学、就職のどちらかに丸を付けるようだ。下の欄には丁寧にも具体的に決まっていたら記入して下さいとある。

「提出先は学級委員長な。全員のが集まったらまとめて持ってきてくれ。責任重大だぞ藍庭」

 担任教師に名指しされるも有馬は無反応だった。

「藍庭、聞いてるか?」
「……あ、はい。了解ですとも」
「ですともって」
「委員長はまた恋人のことでも考えてたんだろー」
「あ~あり得るな」
「それはいつものことさ!」

 こんなやり取りはホームルームでよくある。クラスメートが有馬をからかう。そこに俺を巻き込むのは本気でやめてほしい。

「お前も大変だな」
「……マジで迷惑」

 前の席のやつが振り向いてきてそんなことを言ってくる。だから俺はホームルームが終わるまで、机に置いたスクールバッグで顔を隠していることにした。

 俺の席からじゃ有馬の顔って見れねぇんだよな。基本的には真面目なやつだし、ぼんやりしてたのか?

「ほいじゃコレ。この箱に入れて保管しといてくれ」
「はい、わかりました」
「要件は以上。解散!」
「せんせ、さよーならー」
「はいはい、さよなら」

 ホームルームが終わると、担任教師が最初に教室から出ていき、それから次々と生徒が帰っていく。有馬は投票箱を受け取ったようだ。

「……学級委員長って色々面倒なんだな」

 そそくさと荷物を持って有馬のところにやってきて声を掛けてみたが有馬はまた反応が無い。ぼんやりとしているというよりも考え事をしているような感じで、数秒後に反応がある。

「あっ、チョコ。なに、どうしたんだ?」
「お前がどうしたよ」
「なんでもないさ。ホームルーム終わったし帰るかい?」
「そうだな。日誌は今日もあんの?」
「ああ、いや。ホームルーム前に提出しておいた。ちゃちゃっと終わらせてしまったよ」
「ふうん」

 相変わらずクラス日誌は有馬が書いているようだ。自分のところにも一回きて、内容はうろ覚えであるが結構面倒くさかったような気がする。それを毎日のように書いているのだから偉いと思う。

「じゃあ帰るか」
「うん」

 荷物を持って席を立つ有馬。
 なんでもないとは言うが果たして本当になんでもないのか。気にはなるが、ただクラスメートが言ってたようにただ俺のことを考えていただけなら背筋が薄ら寒くなってくる。たまにはこういうこともあるだろうと思いながら教室を出ていった。

「今日は荷物重いな」
「だな。重さの大半はゼッテー辞典だよな」

 現国の授業で使っている国語辞典。教科書の指定されたページ内で気になる熟語を調べてくるという宿題で持ち帰ることになったのだ。

「電子辞書なら軽いけど持ってないしな」
「ネットを開けば調べるのは簡単なんだけどね」
「辞書を引く練習も兼ねてるらしいし、まあ仕方ねぇよ」
「今はパパッとデジタルで済ませられるから便利だよな」
「……日誌も、デジタルで出来ればもっと早いんだろうな」

 散々授業でノートに書いているのに、加えて授業の内容や欠席者、一日の感想などをクラス日誌に手書き。かなり手間である。

「心配してくれてるんだ?」
「心配っつーか……不公平だと思ってるだけで」
「悪いことばっかりじゃないさ。担任とのコミュニケーションツールにもなるし、続けていれば内申点になる! ここはポイントだよ」
「はあ」

 クラス日誌って内申点に繋がるのか……?

「内申点な……そんな成績悪いわけでもねぇだろうに。そういや、お前は進路決めてんのか?」
「えっ……ああ……まだパッとしないね、どっちも捨て難いよな!」
「進路に捨て難いっていうのも変な言い方だな。就職か進学かだろ?」
「一度きりしかない大事な人生の選択だからね。じっくり悩んで成る様に成るさ」
「それって悩んでるのか?」
「俺は今を楽しく生きたいのさ!」

 悩んでるようで悩んでないってことなのか?

 いつもの有馬のおかしな切り返しに苦笑する。普段とあまり変わらないように思う。だからきっと、ホームルームでぼんやりしていたのはまた変な妄想でもしていたのだろう。そう思うことにした。

「そういうチョコはもう決めてるのかい?」
「あー……まあ……就職だろうな。早く稼ぎたいし、進学して何かやりたいことってのも無いしな」
「そっか、就職か……チョコが働くのか。チョコは何を着ても似合いそうだなあ」
「は?」
「営業でスーツ着ててもいいし、カフェでウェイターの格好とか、バーテンダーとかもいいね。土木系でニッカポッカも中々」
「お前の妄想も中々だと思うぞ」
「ああでも資格を取ってコックとか? もうコスプレでいいから白衣着て聴診器かけてお医者さんも素敵だな!」
「コスプレって……」

 仕事関係ねぇだろ……

「うっふふふ……診察されたい」
「お前スゲェ危ないやつみたいだぞ」
「逞しい想像力で羨ましくなったかい!?」
「なんねぇわ」

 有馬が勝手に妄想をベラベラ喋っているとあっという間に別れの道に到達する。

「もう着いちゃったね。じゃ、また明日」
「おう」

 俺は真っ直ぐ、有馬は曲がってそれぞれの帰路へ歩みを進めた。
 有馬はなんでああもおかしいことばかり考えるのか。

「面白いけどよ」

 見習うつもりは更々ないが、なんとなく自分も想像してみる。

 有馬の白衣姿……

「……胡散臭い」

 町医者ではないな。どっかの大学病院とかデカイ病院にいるタイプだ。顔が良いと評判になってて、他の医者から恨まれるヤツに違いない。
 ウェイターもバーテンダーも服装はさほど変わらない。きっとこれは似合う。やはり顔面がいいと何でも着こなしてしまいそうだ。

「俺が着るよりゼッテェ似合うだろうに……」

 自分には自信が無い。見た目だって性格だって良いとは言えず、コレといって抜きん出た特技があるわけでも無い。
 比べたいわけじゃない。それは意味の無いことだから。そうは言っても比べてしまうのが人間の性というもので、こんな自分が嫌になる。

「バカらしっ。俺は俺だろ。…………俺は俺らしく、か……」

 有馬に言われた言葉を思い出す。俺らしくいればいいと。他人ではなく、俺のことを知りたいと。これからもっと互いのことを知っていこうと、そう言ってくれた。あの言葉は他の誰でもない俺を認めてくれているようで嬉しかった。それは少しだけ自信に繋がるような気がする。

「…………っし」

 自分の頬を強めに叩く。そうして自分を奮い立たせて前へと進んでいくのだ。


✿✿✿✿✿


 帰宅すると玄関に普段無い女性の靴が置いてあるのを確認する。

 そういや今日は休みって言ってたな

「ただいま」

 リビングの扉を開けて入り、お袋と顔を合わせる。ショートヘアの茶髪。その中には白髪が少し混じっていて、小じわや目の下のクマで実年齢よりやや老けて見える。まだ表情が明るい分カバー出来ている方だろう。

「おかえり。今日は大丈夫だった? 何も無かった?」
「大丈夫だよ。何も変わりない」
「そう……それなら良かったわ」

 お袋はいつも心配している。『大丈夫』と言ってやれば安心して笑ってくれる。小さい頃から心配をかけているからあまり心配をさせたくない。

「あ……そうだ、お袋。俺、卒業したら就職する。何が出来るかわからねぇけど、働く方向で考えてるから」
「もう進路を考える時期なのね。高ニだもんね。でももっとゆっくり考えていいのよ、やりたいことがあればそっちを優先して」
「今はそんなの無ぇ。一応伝えといたからな」

 伝えることだけ伝えてリビングを出た。今はまだ自分に何が出来るのか分からない。けれど働く意思はある。それしか言えないけれど、今の段階ではそれだけで十分だろう。
 洗面所へ行き手洗いとうがいを済ませて自室へと向かう。部屋に入ってスクールバッグを床に置き制服を脱ぐ。そして部屋着へ着替えた。脱いだ制服はハンガーに掛けておく。

「おし。宿題とっとと済ませるか」

 いつものようにテーブルの脚を組み立てて座布団を敷いて座る。バッグから重さの原因だった国語辞典とノート、教科書、筆箱を取り出してテーブルの上に広げた。

「……なんかコレ、アイツが来た時みたいだな」

 別にこれといって普段と変わったところはない。いつものように勉強道具を広げただけなのに、なんだか妙な気分になる。何故か有馬の顔を思い出すのだ。座布団は自分の分しか敷いておらず、あの時にやっていた教科だって違う。

「あ。そういやコレ……」

 有馬に貸したシャツだ……

 部屋着として着たシャツは有馬に貸したシャツだ。勿論あの後すぐに洗って乾かした。嫌な臭いも残っていない。あるのは洗剤の匂いくらいだ。

「……ここで……」

 一度一緒に宿題をやっただけ。一度この部屋に来ただけ。そんな日に、告白と一緒に身体を慰め合った。あんな濃いひと時を過ごしたら忘れたくても忘れられない。

「うわ……はっず。なんだこれ」

 あの時のことを思い出して急に恥ずかしくなってきた。急に顔だけなは熱が集中してきて体温が上がってくるような感覚。じわじわと、ちゃんと恋人同士になったのだと、有馬のことが好きなのだと改めて実感してきたのだ。
 宿題をやろうと思っていたのに、段々それどころではなくなっている。

「……え。ウソだろ……」

 触られてない。誰かに触ってもない。なのに下半身の分身は興ってきている。こんなことは初めてかもしれない。いつも不意に触られて感じてしまって興っていたこと。小さい頃なんかは不意に触れられる頻度が多く、制御も出来ず、かなり大変な思いをしていた。それが今は有馬とのことを思い出しただけでそうなってしまっているなんて。

「マジかよ……」

 完全ではないにしても興り始めてしまったソレで勉強に集中できるハズもない。

 まさかこんな風になるなんて、過去の俺からは想像出来ねぇよな……

「……風呂いこ」

 落ち着かない身体と一緒に煩悩を洗い流してこよう

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