28 / 71
特等席
しおりを挟む
人に話せばばかばかしいと言われるのだろう。
でも、私はやっぱり美咲さんに思われているという事をどこか信じきれていないし自信もなく、正直言って疑っていたと言って良いと思う。
しかしそれは、美咲さんに思われているかどうかはどうでもいいと思っているのと同義であって、よく考えれば随分失礼な話だ。
かつて私は『WS』アプリを通じて美咲さんにアプローチし、そこから今の関係が始まっている。
そして晴香ちゃんとは『WS』アプリ開発者として私をコラボ企画に誘ってくれた所から、関わりが始まった。
私が彼女の存在を知るずっと前から晴香ちゃんは私に興味を持ってくれていて、半ば強引な形でだけれど私にそれを伝えてきた。
必死に誘惑されたから、さすがに私も気が付いたしその事自体が不思議でもあり、同時に嬉しかった。
一目見れば絶対に忘れられない、あの白い肌に青みの強い瞳、そして文字通りの銀髪。
本来はデザイン担当なのにモデルに駆り出されるのは当然の事だと思う。
…そう言えば何故髪を切ったのか、尋ねるのを忘れていた。
晴香ちゃんは、私がフリーでないと知っていながらも思いを打ち明けてくれていた。
あくまでも私を困らせたい訳ではなく、ただ私の事が好きだからそれだけわかって欲しいというスタンスのようだけど、私を喜ばせようとするあまり、異常なクオリティの自慰ムービーを撮りだしたらけっこうはまってしまった模様である。
晴香ちゃんなりにそこまではセーフと思っていたのかもしれないが、それが美咲さんに見つかってしまった。
私と晴香ちゃんが実際に触れあったのはわずかな機会だったけど、あれだけのクオリティの動画を送る関係となれば、普通はしょっちゅう交わるような濃厚な関係性を連想するに決まっている。
ましてやそういう誘惑にものすごく弱い私である事を美咲さんはわかっているから、疑惑が疑惑のレベルではなくなるのも致し方ない事だ。
過去の話とは言え、現に晴香ちゃんとはやる事もやっているし。
仮に私が美咲さんの立場なら、それはもう「やっぱりな」と思うはずだ。
…と言うか私が美咲さんの立場なら、まずメインの相手として私を選ばないので前提が違うんだけど。
捨てられる以外の仕打ちであれば、私は何だって歓迎である。
でも晴香ちゃんはどうだったのだろう。
こんな状況を楽しめるほど経験も積んでいないはずだし、無理したんじゃないかと思うのだけど、少なくとも私の記憶にある範囲で晴香ちゃんの心が折れた様子はなかった。
認めたくはないが、二人から攻められて私は確かに強烈に感じてしまった。二人の思う通りである。
…でも、その先にこういう気持ちになるような時間が訪れるとは思っていなかった。
「私だけのものでいて欲しい」
「私は貴女だけのものです」
そんな言葉を言ったり言われたりする事が、こんなにもお互いを満たす事もあるのだとは想像もしなかった。
嫉妬や独占欲の量は、双方の一致がなければ重荷でしかない。
でも、異常な状況の後に瞬間的に訪れるこれは、その極端な一致を作る事ができるのだと改めて理解できた。
「……」
愛の交換とも呼べる行為の後に美咲さんと身体を寄せ合い、手を握ったまま眠る至福の時間。
しかもお互いに眠りが浅くなって薄く覚醒した時には、相手の身体を撫でてみたり軽く唇を重ねてみたりという事を繰り返している。
…ずっと、朝が来なければいいのにとさえ思ってしまう。
でもそれは無理な話だ。
「…冴子」
急に名前を呼ばれたのでびっくりして美咲さんを見てみると、どうやら寝言のようで美咲さんはその後は何も言わない。目も閉じている。
私はじっと美咲さんの様子を観察した。
だしぬけに美咲さんがこちらを向いて、私の身体に腕を回してくる。
…でも、やっぱり眠りの中での動きのようだった。
「あ、ちょ……」
腕の力がけっこう強い。
私は息苦しくなるぐらい、強く抱きしめられていた。
「……」
美咲さんは何かもごもごと呟いているようなのだが、内容までは聞き取れなかった。
しかし急にはっきりした言葉で「ご飯食べに行こう」と言われて、何の夢を見てるんだろうとつい考えてしまう。
寝言に答えるのは宜しくないという迷信もあるが、私は「はい」と返事をする。
美咲さんは納得したように、少し腕の力を緩めた。
私は、いつもするように美咲さんの胸に額を埋めてその柔らかな感触に溜め息を漏らす。
甘く優しい香りと、温かな体温と、美咲さんの息使いをダイレクトに感じる事のできる最高の場所だ。
この特等席を毎日のように与えられる事は、私には勿体ないとさえ思う。
でもこの、過剰とも言えるような結びつきを感じる交わりの後でなら、そんな遠慮もどこかへ消えて、他の誰でもなく私だけがこの特等席を未来永劫占有したいと素直に思えた。
「…お姉さま」
小さく呼んでみるが特に反応はない。
この呼び方だって、適当な思い付きで始めた訳ではなかった。
私なりに意を決して切り出した、特別な呼び方である。
美咲さんはどう思っているか知らないが、その時は私なりに「簡単に離れるような事にはなりたくない」と思った。
だからそれを提案して、承諾された時には今日と同じぐらい、気持ちが舞い上がった。
だんだんと慣れて特別感はなくなってしまったけど、意味のある呼び方として始めたものである。
…でも。
この呼び方ではなく、美咲さんを名前で呼んでみたら、どんな感じなんだろうか。
会う前はともかくほとんど最初から「お姉さま」と呼んでいたから、逆に新鮮と言うか、対等な恋人関係のような感じがする。
「……」
遠い記憶をたどれば、確かにそういう感じの事もあった。
でも、あくまでもそれは実際に会うまでの話である。
『WS』アプリの中の、ただの「美咲」さんでしかなかった頃の話だ。
実物がこの人だと知ってからは、対等な関係なんてイメージした事さえない。
私は美咲さんに飼われる犬ぐらいが似つかわしいし、疑似妹を気取る事さえも背伸びしていると思える。
でも、本当はちょっと違うのかもしれないと思えてきた。
私が望むからそれっぽい感じにしてくれているだけで、美咲さんは最初から私をそんな風には扱っていない。
美咲さんの本当の恋人というのがどんな人物であるべきか、そして二人でどんな風に過ごすべきなのか、具体的に全くわからないけど、こんな風に毎日のように身体を重ねる事が合っているのかどうか。
「こんな風とは違うんじゃないか」とは思うが、ではどんな風なら正しいのかもわからない。
…そこでようやく私は考える事ができた。
ずっと避けてきた、美咲さんが恋人とどんな風に付き合ってきたのかという事を、知りたいと思ったのだ。
これまではどうでも良いと思っていたのに、今は少しだけど、どうでも良いとは思っていない。
「…お姉さま、もっと…教えて?」
私の本能は自然に、美咲さんの身体に尋ねようとして動き出す。
美咲さんの胸の中という特等席を離れるのは名残惜しいが、そこから顔を離して、美咲さんを起こさないようゆっくりと身体の位置を下にずらす。
もう何十回もしている動き、見ている景色だ。
シーツの中の裸の下半身を目の前にして、私は美咲さんの身体の横から、閉じた脚の間に鎮座する、やはりぴったりと閉じた花弁の合わせ目にゆっくりと口をつける。
その時初めて、私は美咲さんの過去の恋人がどのようにそこを愛撫したのかを考えながら、穏やかな口淫を始めた。
理想は、ギリギリ起こさない程度の優しい刺激を与え続ける事。
…少なくとも今、私は美咲さんの飼い犬や疑似妹ではなく、恋人としてこの行為を行っている。
やっている事はいつもとあまり変わらないけど、私はそういう心持で口淫を続けていた。
「……っ」
初めて会った時のように、感度の良い場所を確かめながら触れる範囲を広げていく。
これまでの私が知っている、わかっている事は一旦頭の外に追いやった。
…もう一度、教えて欲しい。どこが感じるのか。
恥ずかしい事を打ち明ける、それもまた恋人同士ならたまらなく幸福な時間となるはずだ。
言葉である必要はない。
私は美咲さんの身体に尋ねていく。
1センチ、いやそれよりも小さな単位で少しずつ唇や舌の位置をずらして、身体の反応を確かめていった。
花弁の縁か、それとも外側の付け根か、または内側の襞の何番目か。
クリトリスの先端か、付け根か、あるいは上側面、下側面か。
入口は強く擦るのが好きなのか、もしくは柔らかく出入りするのが良いか、それとも円を描くように嘗め回すのが良いか。
私の頭や身体が記憶している全てを捨て去り、もう一度尋ねてみる。
あらゆる箇所が確認の対象となり、結果的にその愛撫はじっくりと時間をかけて行う事となった。
…大好きな人の、人には見せない大切な所。
だからこそ、恋人には全部教えて欲しい。
私も、全部を知って欲しいし知りたいと思っているのだから。
今なら、美咲さんが言った「奔放であれ」の意味が良くわかる。
それは相手に深入りしないという事ではなくて、その瞬間思うままに相手との行為に浸れば良い、という事なのだ。
二人が恋人であると思える瞬間は、作り上げて積み重ねるしかない、と言いたかったのではないかと、今の私は思っている。
だから、私が他に晴香ちゃんや梢さんと何があったとしても、それはそれだと思う事ができた。
今目の前に美咲さんがいるのだから、それを全力で思い求める事は必然である。
自分の中に違う側面があるからと言って遠慮したり手加減するのは、違う気がした。
私の口淫は自分本位の動きは一切していない。
相手に尋ね教わる口淫だ。以前の私ならとてもこんな抑制の利いた行為は継続できなかった。
でも今は本当の美咲さんの事が知りたいから、一つ一つを丁寧に、確かめるように行う事ができている。
「……」
舌が痺れてくる。もつれかけているのかもしれない。
舌先に全神経を集中させているから、極端に消耗したのかもしれない。
私は一旦、美咲さんの秘部から顔を離す。
舌の動きを確かめるために一度美咲さんの内腿を舐めてみた。
「…」
驚いた。私の舌は震えていた。
緊張か、ただ疲れたのか。だが確実に、小刻みに震えながら私の舌は美咲さんの表面を進んでいる。
「あれ…なんで…」
激しいセックスの後にならこんな感じに、思うように身体が動かせなくなる事はある。
今夜は決して激しく交わったわけではないけれど、それに近いコンディションになっているようだった。
美咲さんの眠りは深く、まだ起きる気配はない。
だが、私の口淫にはしっかりと蜜をにじませて反応してくれている。
「…っん」
無理はせず諦めた方が良いだろうか。
でも私の本能は諦める事を許さなかった。
再び、震える顔を近づけて美咲さんの閉じた花弁にキスをする。
割れ目に沿って舌をスライドさせ、クチュクチュと軽く音を立てて蜜が湧きだすのを待った。
「……ふ」
不思議なもので、大して工夫を凝らした動きではないのに、面白いように蜜が湧きだしてくる。
私は慌ててはみ出しそうになった蜜を吸い取っていった。
極力静かにやろうと思うのだが、量が多くてどうしても、ジュルジュルと音が立ってしまう。
追いつかない分は上の方まで溢れていって、自然と美咲さんの萌芽をくるむように流れていく。
その場所までを舌で追いかけると、必然的に美咲さんの膨らんだ萌芽を丸ごと嘗め回す事になってしまった。
…どうしよう、起こしてしまうかもしれない。
美咲さんが「…はぁ」と大きな吐息を一つ漏らした。
私はびくりとして動きを止める。
その間にも目の前の花弁の割れ目からは透明な液がじわじわと溢れ出てきて、すぐにでも口を付けないと大洪水になってしまいそうだった。
…こぼれたらこぼれたで仕方ないのだろうか、とも思いながら私はその様子を見つめる。
見られている事を意識しているかのように、その場所は充血してぷっくりと張っていた。
秘部というのは、ビジュアル面でも人を誘惑するものなのか。
私は自分で自分の秘部をまさぐりながら、それでも口淫は激しくならないよう一定のペースで継続していく。
美咲さんの蜜の味が少し甘くなったように感じられた。
その所為もあって、ついつい強くその場所を吸ってしまう。
「…ん、くふ…ぅ」
美咲さんは眠ったまま色っぽい声を上げている。
とても気持ち良さそうで、こっちまで幸せな気分になってきた。
「はぁ…あんっ…」
何か、もう起きているのではないかというぐらい明瞭な喘ぎ声が聞こえてきた。
ただもうそちらにかまっている余裕はなく、私はジュルジュルと花弁の割れ目から湧き出る蜜をすすりながら、丁寧に美咲さんの身体が教えてくれた、気持ちいい場所を改めておさらいするように舌でつつき撫でまわしていく。
「あ、冴子…だめっ…あんあぁっ……」
潮と言うほどの勢いはなかったが、それでも私は美咲さんが軽く放った淫汁をそこそこの量顔面に浴びた。
それを軽く手の甲で拭ってから、私は再び美咲さんの秘部に唇を寄せる。
達した後の余韻の時間もこうして緩く刺激されると、すごく気持ちいいのだ。
「…あれ」
ここで美咲さんは目が覚めたらしく、不思議そうに「冴子?」と私の名前を呼んでくる。
私は返事はせず、達したばかりの美咲さんの秘部から名残として漏れてくる、また違った味の蜜をすすっていた。
「やだ…私…」
美咲さんが脚を閉じて身体をよじる。
その動きで私の口淫は一旦途切れる事となった。
顔を上げると、見た事もないぐらいに頬を赤く染めた美咲さんが恥ずかしそうに呟いた。
「おねしょ…したかと思っちゃった」
「…そっちは漏らしてないです」
美咲さんは「良かった」とも「嫌だ」とも言わなかった。
ただじっとしたまま斜め下を見るように目を伏せている。
「…お姉さまのおまんこ、じっくり堪能しちゃいました」
笑顔でそう語り掛けると、美咲さんの顔がますます赤く染まる。
私はそんな美咲さんがたまらなく愛おしく思えてきて、再び私だけの特等席たる場所--美咲さんの胸の中へ思い切り飛び込んだ。
でも、私はやっぱり美咲さんに思われているという事をどこか信じきれていないし自信もなく、正直言って疑っていたと言って良いと思う。
しかしそれは、美咲さんに思われているかどうかはどうでもいいと思っているのと同義であって、よく考えれば随分失礼な話だ。
かつて私は『WS』アプリを通じて美咲さんにアプローチし、そこから今の関係が始まっている。
そして晴香ちゃんとは『WS』アプリ開発者として私をコラボ企画に誘ってくれた所から、関わりが始まった。
私が彼女の存在を知るずっと前から晴香ちゃんは私に興味を持ってくれていて、半ば強引な形でだけれど私にそれを伝えてきた。
必死に誘惑されたから、さすがに私も気が付いたしその事自体が不思議でもあり、同時に嬉しかった。
一目見れば絶対に忘れられない、あの白い肌に青みの強い瞳、そして文字通りの銀髪。
本来はデザイン担当なのにモデルに駆り出されるのは当然の事だと思う。
…そう言えば何故髪を切ったのか、尋ねるのを忘れていた。
晴香ちゃんは、私がフリーでないと知っていながらも思いを打ち明けてくれていた。
あくまでも私を困らせたい訳ではなく、ただ私の事が好きだからそれだけわかって欲しいというスタンスのようだけど、私を喜ばせようとするあまり、異常なクオリティの自慰ムービーを撮りだしたらけっこうはまってしまった模様である。
晴香ちゃんなりにそこまではセーフと思っていたのかもしれないが、それが美咲さんに見つかってしまった。
私と晴香ちゃんが実際に触れあったのはわずかな機会だったけど、あれだけのクオリティの動画を送る関係となれば、普通はしょっちゅう交わるような濃厚な関係性を連想するに決まっている。
ましてやそういう誘惑にものすごく弱い私である事を美咲さんはわかっているから、疑惑が疑惑のレベルではなくなるのも致し方ない事だ。
過去の話とは言え、現に晴香ちゃんとはやる事もやっているし。
仮に私が美咲さんの立場なら、それはもう「やっぱりな」と思うはずだ。
…と言うか私が美咲さんの立場なら、まずメインの相手として私を選ばないので前提が違うんだけど。
捨てられる以外の仕打ちであれば、私は何だって歓迎である。
でも晴香ちゃんはどうだったのだろう。
こんな状況を楽しめるほど経験も積んでいないはずだし、無理したんじゃないかと思うのだけど、少なくとも私の記憶にある範囲で晴香ちゃんの心が折れた様子はなかった。
認めたくはないが、二人から攻められて私は確かに強烈に感じてしまった。二人の思う通りである。
…でも、その先にこういう気持ちになるような時間が訪れるとは思っていなかった。
「私だけのものでいて欲しい」
「私は貴女だけのものです」
そんな言葉を言ったり言われたりする事が、こんなにもお互いを満たす事もあるのだとは想像もしなかった。
嫉妬や独占欲の量は、双方の一致がなければ重荷でしかない。
でも、異常な状況の後に瞬間的に訪れるこれは、その極端な一致を作る事ができるのだと改めて理解できた。
「……」
愛の交換とも呼べる行為の後に美咲さんと身体を寄せ合い、手を握ったまま眠る至福の時間。
しかもお互いに眠りが浅くなって薄く覚醒した時には、相手の身体を撫でてみたり軽く唇を重ねてみたりという事を繰り返している。
…ずっと、朝が来なければいいのにとさえ思ってしまう。
でもそれは無理な話だ。
「…冴子」
急に名前を呼ばれたのでびっくりして美咲さんを見てみると、どうやら寝言のようで美咲さんはその後は何も言わない。目も閉じている。
私はじっと美咲さんの様子を観察した。
だしぬけに美咲さんがこちらを向いて、私の身体に腕を回してくる。
…でも、やっぱり眠りの中での動きのようだった。
「あ、ちょ……」
腕の力がけっこう強い。
私は息苦しくなるぐらい、強く抱きしめられていた。
「……」
美咲さんは何かもごもごと呟いているようなのだが、内容までは聞き取れなかった。
しかし急にはっきりした言葉で「ご飯食べに行こう」と言われて、何の夢を見てるんだろうとつい考えてしまう。
寝言に答えるのは宜しくないという迷信もあるが、私は「はい」と返事をする。
美咲さんは納得したように、少し腕の力を緩めた。
私は、いつもするように美咲さんの胸に額を埋めてその柔らかな感触に溜め息を漏らす。
甘く優しい香りと、温かな体温と、美咲さんの息使いをダイレクトに感じる事のできる最高の場所だ。
この特等席を毎日のように与えられる事は、私には勿体ないとさえ思う。
でもこの、過剰とも言えるような結びつきを感じる交わりの後でなら、そんな遠慮もどこかへ消えて、他の誰でもなく私だけがこの特等席を未来永劫占有したいと素直に思えた。
「…お姉さま」
小さく呼んでみるが特に反応はない。
この呼び方だって、適当な思い付きで始めた訳ではなかった。
私なりに意を決して切り出した、特別な呼び方である。
美咲さんはどう思っているか知らないが、その時は私なりに「簡単に離れるような事にはなりたくない」と思った。
だからそれを提案して、承諾された時には今日と同じぐらい、気持ちが舞い上がった。
だんだんと慣れて特別感はなくなってしまったけど、意味のある呼び方として始めたものである。
…でも。
この呼び方ではなく、美咲さんを名前で呼んでみたら、どんな感じなんだろうか。
会う前はともかくほとんど最初から「お姉さま」と呼んでいたから、逆に新鮮と言うか、対等な恋人関係のような感じがする。
「……」
遠い記憶をたどれば、確かにそういう感じの事もあった。
でも、あくまでもそれは実際に会うまでの話である。
『WS』アプリの中の、ただの「美咲」さんでしかなかった頃の話だ。
実物がこの人だと知ってからは、対等な関係なんてイメージした事さえない。
私は美咲さんに飼われる犬ぐらいが似つかわしいし、疑似妹を気取る事さえも背伸びしていると思える。
でも、本当はちょっと違うのかもしれないと思えてきた。
私が望むからそれっぽい感じにしてくれているだけで、美咲さんは最初から私をそんな風には扱っていない。
美咲さんの本当の恋人というのがどんな人物であるべきか、そして二人でどんな風に過ごすべきなのか、具体的に全くわからないけど、こんな風に毎日のように身体を重ねる事が合っているのかどうか。
「こんな風とは違うんじゃないか」とは思うが、ではどんな風なら正しいのかもわからない。
…そこでようやく私は考える事ができた。
ずっと避けてきた、美咲さんが恋人とどんな風に付き合ってきたのかという事を、知りたいと思ったのだ。
これまではどうでも良いと思っていたのに、今は少しだけど、どうでも良いとは思っていない。
「…お姉さま、もっと…教えて?」
私の本能は自然に、美咲さんの身体に尋ねようとして動き出す。
美咲さんの胸の中という特等席を離れるのは名残惜しいが、そこから顔を離して、美咲さんを起こさないようゆっくりと身体の位置を下にずらす。
もう何十回もしている動き、見ている景色だ。
シーツの中の裸の下半身を目の前にして、私は美咲さんの身体の横から、閉じた脚の間に鎮座する、やはりぴったりと閉じた花弁の合わせ目にゆっくりと口をつける。
その時初めて、私は美咲さんの過去の恋人がどのようにそこを愛撫したのかを考えながら、穏やかな口淫を始めた。
理想は、ギリギリ起こさない程度の優しい刺激を与え続ける事。
…少なくとも今、私は美咲さんの飼い犬や疑似妹ではなく、恋人としてこの行為を行っている。
やっている事はいつもとあまり変わらないけど、私はそういう心持で口淫を続けていた。
「……っ」
初めて会った時のように、感度の良い場所を確かめながら触れる範囲を広げていく。
これまでの私が知っている、わかっている事は一旦頭の外に追いやった。
…もう一度、教えて欲しい。どこが感じるのか。
恥ずかしい事を打ち明ける、それもまた恋人同士ならたまらなく幸福な時間となるはずだ。
言葉である必要はない。
私は美咲さんの身体に尋ねていく。
1センチ、いやそれよりも小さな単位で少しずつ唇や舌の位置をずらして、身体の反応を確かめていった。
花弁の縁か、それとも外側の付け根か、または内側の襞の何番目か。
クリトリスの先端か、付け根か、あるいは上側面、下側面か。
入口は強く擦るのが好きなのか、もしくは柔らかく出入りするのが良いか、それとも円を描くように嘗め回すのが良いか。
私の頭や身体が記憶している全てを捨て去り、もう一度尋ねてみる。
あらゆる箇所が確認の対象となり、結果的にその愛撫はじっくりと時間をかけて行う事となった。
…大好きな人の、人には見せない大切な所。
だからこそ、恋人には全部教えて欲しい。
私も、全部を知って欲しいし知りたいと思っているのだから。
今なら、美咲さんが言った「奔放であれ」の意味が良くわかる。
それは相手に深入りしないという事ではなくて、その瞬間思うままに相手との行為に浸れば良い、という事なのだ。
二人が恋人であると思える瞬間は、作り上げて積み重ねるしかない、と言いたかったのではないかと、今の私は思っている。
だから、私が他に晴香ちゃんや梢さんと何があったとしても、それはそれだと思う事ができた。
今目の前に美咲さんがいるのだから、それを全力で思い求める事は必然である。
自分の中に違う側面があるからと言って遠慮したり手加減するのは、違う気がした。
私の口淫は自分本位の動きは一切していない。
相手に尋ね教わる口淫だ。以前の私ならとてもこんな抑制の利いた行為は継続できなかった。
でも今は本当の美咲さんの事が知りたいから、一つ一つを丁寧に、確かめるように行う事ができている。
「……」
舌が痺れてくる。もつれかけているのかもしれない。
舌先に全神経を集中させているから、極端に消耗したのかもしれない。
私は一旦、美咲さんの秘部から顔を離す。
舌の動きを確かめるために一度美咲さんの内腿を舐めてみた。
「…」
驚いた。私の舌は震えていた。
緊張か、ただ疲れたのか。だが確実に、小刻みに震えながら私の舌は美咲さんの表面を進んでいる。
「あれ…なんで…」
激しいセックスの後にならこんな感じに、思うように身体が動かせなくなる事はある。
今夜は決して激しく交わったわけではないけれど、それに近いコンディションになっているようだった。
美咲さんの眠りは深く、まだ起きる気配はない。
だが、私の口淫にはしっかりと蜜をにじませて反応してくれている。
「…っん」
無理はせず諦めた方が良いだろうか。
でも私の本能は諦める事を許さなかった。
再び、震える顔を近づけて美咲さんの閉じた花弁にキスをする。
割れ目に沿って舌をスライドさせ、クチュクチュと軽く音を立てて蜜が湧きだすのを待った。
「……ふ」
不思議なもので、大して工夫を凝らした動きではないのに、面白いように蜜が湧きだしてくる。
私は慌ててはみ出しそうになった蜜を吸い取っていった。
極力静かにやろうと思うのだが、量が多くてどうしても、ジュルジュルと音が立ってしまう。
追いつかない分は上の方まで溢れていって、自然と美咲さんの萌芽をくるむように流れていく。
その場所までを舌で追いかけると、必然的に美咲さんの膨らんだ萌芽を丸ごと嘗め回す事になってしまった。
…どうしよう、起こしてしまうかもしれない。
美咲さんが「…はぁ」と大きな吐息を一つ漏らした。
私はびくりとして動きを止める。
その間にも目の前の花弁の割れ目からは透明な液がじわじわと溢れ出てきて、すぐにでも口を付けないと大洪水になってしまいそうだった。
…こぼれたらこぼれたで仕方ないのだろうか、とも思いながら私はその様子を見つめる。
見られている事を意識しているかのように、その場所は充血してぷっくりと張っていた。
秘部というのは、ビジュアル面でも人を誘惑するものなのか。
私は自分で自分の秘部をまさぐりながら、それでも口淫は激しくならないよう一定のペースで継続していく。
美咲さんの蜜の味が少し甘くなったように感じられた。
その所為もあって、ついつい強くその場所を吸ってしまう。
「…ん、くふ…ぅ」
美咲さんは眠ったまま色っぽい声を上げている。
とても気持ち良さそうで、こっちまで幸せな気分になってきた。
「はぁ…あんっ…」
何か、もう起きているのではないかというぐらい明瞭な喘ぎ声が聞こえてきた。
ただもうそちらにかまっている余裕はなく、私はジュルジュルと花弁の割れ目から湧き出る蜜をすすりながら、丁寧に美咲さんの身体が教えてくれた、気持ちいい場所を改めておさらいするように舌でつつき撫でまわしていく。
「あ、冴子…だめっ…あんあぁっ……」
潮と言うほどの勢いはなかったが、それでも私は美咲さんが軽く放った淫汁をそこそこの量顔面に浴びた。
それを軽く手の甲で拭ってから、私は再び美咲さんの秘部に唇を寄せる。
達した後の余韻の時間もこうして緩く刺激されると、すごく気持ちいいのだ。
「…あれ」
ここで美咲さんは目が覚めたらしく、不思議そうに「冴子?」と私の名前を呼んでくる。
私は返事はせず、達したばかりの美咲さんの秘部から名残として漏れてくる、また違った味の蜜をすすっていた。
「やだ…私…」
美咲さんが脚を閉じて身体をよじる。
その動きで私の口淫は一旦途切れる事となった。
顔を上げると、見た事もないぐらいに頬を赤く染めた美咲さんが恥ずかしそうに呟いた。
「おねしょ…したかと思っちゃった」
「…そっちは漏らしてないです」
美咲さんは「良かった」とも「嫌だ」とも言わなかった。
ただじっとしたまま斜め下を見るように目を伏せている。
「…お姉さまのおまんこ、じっくり堪能しちゃいました」
笑顔でそう語り掛けると、美咲さんの顔がますます赤く染まる。
私はそんな美咲さんがたまらなく愛おしく思えてきて、再び私だけの特等席たる場所--美咲さんの胸の中へ思い切り飛び込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
世界に、私たちだけ
結城らい
恋愛
バニーガールのレイカとミヤコ。いつものナイトクラブの夜――のはずが、ふたり以外の“全員”が消えてしまった。誰もいない店内、誰も走っていない街。怖いのに、どこか解放されてしまう。見られない自由の中で、ふたりは静かに、確かめ合うように抱きしめ合う。けれど未来は空白のまま。それでも今夜だけは、ネオンの下で、この愛の時間を味わっていたい。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる