お姉様に夢中なはずなのにその他の誘惑が多すぎます

那須野 紺

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見えない指輪(梢SIDE)

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「っぁ…あ、あぁっ…ん」

何十回と行った貝合わせには、もう何の不自由も感じない。
それにどこをどうすれば感じるのか、お互いが熟知できているから、あっという間に絶頂の直前まで快感を高め合う事ができるようになっている。

素直にそのまま絶頂するのが惜しくて、抗うように身体をよじり強すぎる快感を逃がそうとしてみるけれど、そんなの長続きはしなかった。

今日は業務にゆとりがあったので、午後休を取り晴香たんの部屋にしけこんでこのような行為に及んでいる。
明るいうちからベッドの上で裸になり、股間をぐしょぐしょに濡らしていやらしい声をあげているのがたまらなく気持ちいい。

今は、両手首を後ろ手に拘束された状態で貝合わせをしているのだが、本来窮屈なはずのこの態勢にも、どうとでも対応できるようになっていた。
何より、私が努力などしなくても自動的に快楽は与えられるものとなっている。私は何の不安もなく、ただその官能の海に漂っていれば良いのだ。

「あぁん、あ…あ…来ちゃうよぉ」
「…はぁ、は…梢ちゃんイって見せて?…ほら」
「あひ、んっ、あ…あぁっ…いっちゃうっ」

寝室の中央に置かれたセミダブルベッドの周囲には、私のビジネスバッグや洋服、下着などが散乱している。
勿論そこには、晴香たんのものも混じっていて。

他人の脱いだ服や下着と、自分のそれが折り重なる様子には何か興奮を覚えてしまうのだが、どちらがどうやって脱いで、脱がせたのか手順はもう思い出せない。
なぜなら服を脱いだのが随分前の事だからである。

「いく…ぐちゅぐちゅのおまんこいっちゃう」
「あ……私、も…っいくぅっ」

測ったように二人同時に絶頂する。
肉襞がビクン、ビクンと脈打ち互いのそれを感じ合いながら、下半身が溶けていくような錯覚を覚えた。
とくとくと溢れ出る蜜が熱くて、どうしようもない。

「梢ちゃんっ」

さっと身体を離したかと思うと強く抱きつかれてキスをされる。
同時に背中に回された手が私の手首拘束を解いた。
施されるキスは深く濃厚で、甘い味がする。

「ん…っ、ふ……ぁ」

自分の口の中にだいぶ唾液が溜まっていて、それを掻き出されるように奪い取られ、彼女の口内にもっていかれたかと思うとそれを嚥下する様を目の当りにする。
動く喉こそ見えないが、彼女はごっくんと音を立てて私の唾液を飲み下して見せるのだ。

そういう彼女の貪欲さに私は酔ったようにとろけてしまう。だからますます唾液が溢れ出るし、下の口からもだらしなく涎がいっぱいに溢れてしまう。

「…んん」

私も彼女の首に手を回し強く引き寄せながら、彼女の髪に指を差し入れつつ唇を押し付ける。
…こうして手で触っていると、彼女の頭の小ささがよくわかって、すごく愛おしい。

そしてこんなにも可憐で幼くさえ見える彼女が、こんなにも卑猥なキスと貝合わせをできてしまう事も奇跡のようだとさえ思う。
本人は「梢ちゃんの所為でいやらしくなってしまった」などと言っているけれど。

でも彼女自身の吸収力は高く、漫然と行為にふける事はせず少しでも快感を得られるように、与えられるようにと進化しているのは確かだ。
離島への旅行でその幅は更に大きくなった気がする。

「…梢ちゃん、おちんちんも欲しい?」
「…欲しい、くれるの?」
「うん、してあげる…」

唇が触れ合いそうな至近距離でそんな会話を交わす。
言葉を交わし見つめ合いながら、またしたいように唇を合わせて下先をチロリと絡めた。
彼女は抵抗する事なくそれに応じてくれる。

欲しい、とは言ったものの身体を離すのが嫌で、私は矛盾した事を口走ってしまう。

「いや…離れないで」

彼女の身体を強く抱きしめると、骨も華奢で細くて、あまり力を入れてしまうと折れてしまいそうで、実に儚い。
彼女は薄く笑ってから、私の額や頬、耳にチュッと軽くキスをくれた。

それに甘えるように私はますます彼女を力強く抱きしめて、めいっぱい自分の身体を密着させる。

「…梢ちゃん」
「晴香たん好き、好き…っ」

再び夢中で唇を重ねて、今度は私から彼女の口内を舌で探り、小さな歯列も上顎も、自分のものにするようにくまなく嘗め回した。

「んんっ……」

彼女の背中に手を回し強く抱きしめつつ、首を左右にくねらせて彼女の口内を蹂躙するのが心地良い。
彼女はほんの少しだけ受けるように応じ、軽く吐息を漏らしながら私が探りやすいように口内の力を抜いていてくれた。

泡立つぐらいに互いの唾液が混じり合いそれぞれの口内に吸い込まれていく。
なじむようにどちらともなくその混合物を飲み下して、その度に身体の内側が熱くなった。

「…梢ちゃんのおねだり、すっごくいやらしい」
「……」

ねだる目的でキスしたつもりではなかったけど、結果的にそう受け取られても特に異論はない。

そして前触れもなく私の秘部に指が二本挿入される。

「あ…っ」
「指なのに、締めてる…ふふ」
「あ、だってぇ…ん」
「…梢ちゃんのエッチ♪」

私は仰け反るように後ろに倒れながら執拗な指での愛撫に堪えた。
指はいきなり容赦なく激しく出し入れされて、うるさいほどの水音を立てている。

「やっぱり、指じゃ物足りないんだね?…こんな変態汁だらだら垂らしちゃって」
「……」

淫汁にノーマル汁とか変態汁とか種類があるのかはわからないが、彼女の中ではある程度の分類があるのかもしれなかった。
少なくとも「よがり汁」と「欲しがり汁」は違うらしいとはいつか聞かされた記憶がある。

だから今私がこぼしているのはいわば「欲しがり汁」の方なのだろう。
その事を今はそう呼んでいるのかな、と私は解釈した。

彼女は私の秘部から指を抜く事なく、枕元付近に用意していた偽竿を、空いた方の手を伸ばして手探りで引き寄せる。
いわゆるバンドで固定するタイプではなく、それは彼女の膣内にくびれた先端を挿入して固定する、双頭タイプのものだ。

「ほら」

膣内に挿入した指は相変わらずクチュクチュと鳴らしながら、彼女は片手に持った偽竿を私の口に押し込んできた。

買ったばかりの頃は樹脂系の匂いがしてしゃぶるのに抵抗があったけれど、何度となく使い込むに従いそれは薄れていき、まるで彼女自身の臓器であるかのようにさえ錯覚できてしまうから、私は躊躇なくその亀頭にキスをして、舌先を出し嘗め回して見せる。

「あふ…、はんっ…」

膣口に与えられる指での刺激も程よく、私は甘く喘ぎながらもこれから体内に撃ちこまれるであろう偽茎を、徐々に大胆にしゃぶり始めた。

「ん…っ」

思わず口の端から唾液がこぼれ落ちる。
それがちょうど私の胸の谷間に垂れ落ちて、その様子を見る彼女の目が細められたのがわかった。

…彼女のこの顔、小悪魔が悪戯を企む顔、これも堪らない。
いやらしい悪戯を、お仕置きを、何でもいいから私の身体に施して欲しい。

幼さを感じさせる身体と顔の持ち主である彼女のこの表情は、ごく限られた瞬間にしか見る事はできない。
勿論この表情で写真に写っている事だってあるのだけれど。

実物のそれのどこが違うかと言えば、目を細めているはずなのに彼女の青みがかった瞳は、この時やけにキラキラと輝いて見えるのだ。

それはきっと、高揚して涙腺が緩んで、分泌物が増えている影響もあるかもしれないけれど、瞳そのものは揺らぎもしていなくて、むしろ鋭く光っていて、その視線の先に自分の姿があるという事に、ぞくぞくとした緊張感と期待を覚えてしまうのだ。

私は彼女に見せつけるように偽竿をいやらしくしゃぶり続け、秘部からは愛液を垂れ流す。
彼女の中でギリギリまで張りつめたものがぷつんと切れるその瞬間まで、私は彼女をいやらしく煽り続ける。

「ほんと、これだけで満足してるみたいな顔してるのが許せなくなってくる」

彼女は乱暴に私の口からは偽竿を、そして膣からは二本の指を同時に抜き去った。
それからわざと股間を見せつけるようにして脚を開いていく。
中心が熱く濡れているようで、彼女の昂ぶりを視認できたのが嬉しい。

「…入れてあげる、これ…思いっきり突っ込みたくなったから」
「うん、来て」

彼女がそれを着ける時、動作はいつも無造作に見える。
自分の身体にはまるで興味がないみたいで、私には勿体ないように見えるのだけど。

でも、実際の所その偽竿にはちゃんと、彼女側にも気持ちが良くなる仕掛けがしてあって、入れている側もクリトリスや膣内の感じるポイントを刺激するようなイボイボが付いていたりなんかして、彼女の無造作さはそれをわざとごまかすみたいで可愛かった。

「あ!…あぁん」
「そう、そうやっていっぱい鳴いて見せて、梢ちゃん」

冷たい表情で見下ろす彼女の視線に射貫かれながら、私の膣内にある程度の質量のものが挿入されていった。
十分に濡れているから痛くはないけど、それでも入ってくる瞬間は軽く緊張する。

「やぁんっ、それ…っあ…ん」

旅行で彼女が覚えた腰使いは、私にとってひどく焦れて、それでいて強烈に背徳感を刺激されるものとなっている。

以前の彼女なら、ここからすぐにトップスピードでのピストン運動を開始しているのだが、今はそのように超絶ピストンを繰り出す事もあれば、わざとらしいと思えるほどにゆっくりとした、緩やかな動きで竿を出し入れする事もあるのだ。

毎回どちらが来るのかわからなくて、私はその度に、どちらが来てもやたらと感じてしまうようになった。
今日は、ゆっくりとした抽送により私は一気に焦れていく。

「梢ちゃん」

何度目かのゆっくりとした挿入の後、竿を奥深くで一旦止めて彼女は私をぎゅっと抱きしめてきた。
苦しいはずなのに胸がときめいて、身体はどんどん緩んでしまう。

「…優しく、しないで、めちゃくちゃに壊して…」
「……」

私の言葉を免罪符にするように彼女は動き始めるけれど、それでもいきなりはトップスピードにしない。
全開だとどれだけ激しくできるのかを知っている私には、それが手加減しているように思えて仕方ないが、実際は手加減ではなくこの後の超絶ピストンの激しさを最大限に感じさせる為の準備段階なのだと思う。

「あ、あんっ、あ……」

決して大きくはないが自由自在に動く偽竿は、私のいい所を的確に擦り上げていく。

「あそ、そこっ」
「…ここ?」

腰を器用に回して彼女がとぼけて見せるけれど、そんなのいちいち確認しなくたってわかっているはずなのだ。

「あ…っ、ダメっ…ん」

さほどの回数擦っていないうちなのに、私は絶頂の予感を感じてしまった。

「…どうしたの?泣きそうになって」
「だって、だって、っ…あぁぁっ」

嫌だ。メチャクチャに壊れるぐらい激しいピストンで追い込まれるまで絶頂したくないのに。
もう、たったこれだけでイってしまうのは、嫌なのだ。

「やぁんっ、私、イっちゃいそうで…っんん…」
「なーんだ」

彼女は笑って、また私の耳元に口を寄せるように倒れながら囁いた。

「何度でもイけばいいじゃない?」
「…っ、あ…あぁっ!」

申告もなしに達してしまった。
不覚の二文字が頭に浮かぶけど、正直まだ物足りない。もっと彼女の本気が欲しい。

「もっと、来てっ」

彼女は黙ったまま「わかってる」と頷くように瞳を瞬き、いきなりトップスピードで私の膣内を激しく穿ち始める。

「あぁぁっ…あぁ…これ、これなの…っ!」
「うん」
「はぁ、好き…晴香たん大好き」

こういう行為の間に、私は何度となく彼女に「好き」と言ってしまう。
彼女の方は貝合わせの時にはそういう言葉を出し惜しみしない感があるけれど、攻めている時にはあまり乱発しないよう意識しているようだった。

「好きなのは…私じゃなくて、このおちんちんなんじゃない?」

ゆっくりピストンしている時には言葉少なだったはずなのに、この超絶ピストンの時の方が彼女は饒舌になる。
…まるで、ゆっくりと挿入している時の方が集中力をたくさん使っているように思えた。

「違、そんな…こと、あぁっ」
「…違うの?嘘ばっかり」

ぐっと瞼の裏が熱くなる。涙をこらえている証だ。

「嘘、じゃないもん、好き…なんだから…あ、あぁっ」
「ふーん」
「…また、イっちゃうっ、イっちゃうのっ…あ!」

今度は申告こそできたけど、やっぱり絶頂までの時間がやたらと短い気がする。
彼女はそんな事など気にもせず、私を当たり前のように裏返しにしてお尻を引き上げ、問答無用で後ろから激しいピストンを撃ち込んできた。

「あ!…あぁぁっ」

最初の一発、奥をずどんと突かれた瞬間に多分軽く達した。
でもそれが絶頂なのかどうか、もう振り返る余裕も時間もない。

ひたすらに身体は揺すられがくがくと小刻みに震える。
それが彼女のピストンによる動きの影響なのか、感じている自分自身の震えなのか区別はつかなかった。

「あぁぁっ、ご、主人様…もっと」
「…やっぱり」
「…あ」

言った後で自分がどんな言葉を吐いたのかわかり、恥ずかしくなる。

「淫乱な梢ちゃんはもっと欲しいんだよね」
「うん、あ!…あん、あ…あぁっ」

私にとって彼女の超絶ピストンは、容赦ない攻撃ではなくて惜しみなく注がれる情欲なのだ。
彼女もそれを熟知している。

「やめられなく、なっちゃうっ、もう…だめぇ」
「やめないから…いっぱい感じて、梢ちゃん」

攻めの上手い人は、こういう優しい言葉を効果的に使う。
やめないなんて嘘なのに、私はその言葉にすがらずには居られない。

彼女の指が更に私のお尻の肉を強く掴み、左右に広げていく。
私は仰け反るようにしながら、彼女から見える景色が少しでもいやらしくあるようにと意識しつつ、そんな意識は長続きしないと諦めてもいた。

「あ、またいく…いくよぉ…!」

私がどんなにわめいても、絶頂したと言おうとも、彼女のピストンは止まる事なく継続される。
その事自体が、本当に本当に幸せだった。

いつも思うけれど、消えてなくなるぐらいにまでこの時間が続いて欲しい。そう願わずにはいられない。

それでもいつか、意識が途切れるか眠くなってそれは維持されないのもわかっているけれど、それまでの間はせめて、そうあって欲しいのだ。
彼女はそれをわかっているから、私が意識を失うまでピストンを止めないでいてくれる。

「……」

意識を失っていたのはきっと数分の事だと思う。
気が付くと彼女が私に寄り添うように隣に横たわっていて、なんとなく私の髪や乳首を指先で弄っていた。

「…ごめん、気絶しちゃってた」
「ううん」

私は彼女に向き合うように身体を横に向けてその華奢な身体に腕を回した。

「旅行にまで行ってあんなにいっぱいエッチして、今もまたエッチしてるのに…すればするほど、したくなっちゃうのが…不思議で」

私の、心からの言葉だった。もう何日も考えている事だ。

お互いに生理でなければ身体を重ね、生理の時にはショーツこそ下ろさないがそれ以外の場所を徹底的に愛撫し合って官能を高める戯れを繰り返している。
開発され尽くした身体はどこもかしこも敏感で仕方ない。

だから、こうして仕事に余裕のある時には時間休を取ってまで、この部屋に来てしまうのだ。

勿論彼女を私の部屋に招いて交わった事もあったけど、部屋もベッドも狭いから、彼女がというより私がそれを気にしてしまってダメだった。
その為交わる場合は概ね私が彼女の部屋を訪れるようにしている。

「梢ちゃんがここに住めばいいんじゃないの」
「…え?」

そんな、居候のような事が許されるのだろうか。そして彼女のそれは本心なのだろうか。

「家に帰るの、めんどくさそうだし」
「……でも」

すごく嬉しい申し出だけど、懸念点がある。
私も彼女の髪やおへその辺りを指で弄りながら、会話を続けた。

「それ、やっちゃったら私…本当にまともに仕事できなくなるよ、ここに入り浸ってしまいそうで」
「…なら、辞めれば?」
「……」
「辞めて私の奥さんになるの」

また、目の奥が熱くなる。それもものすごく惹かれる申し出には違いない。
彼女はどうして、何でもない事のようにこんな提案をやってのけてしまえるのだろうか。

「……」

涙がこぼれないように私は一度目を閉じた。

「…私だって、梢ちゃんと離れたくない」

はっとする。だから私はきっと驚いた顔で彼女を見返している事だろう。

「…お休みの日だけじゃなくて、毎日、一日中梢ちゃんとエッチしてたいよ」

なんという事だ。いや喜ばしいには違いないけれど。
まだ学生の彼女にこんな、反社会的な発想をさせてしまったのは、良くない気がする。

私は彼女の稼ぎも知っている。そしてそれは年収に換算すると私のそれと同等か、むしろ若干多いぐらいである。
けれどもITベンチャーとモデル業という、なかなかに不安定な仕事を彼女にばかりやらせて経済的に依存するのは良い事なのかとうか、わからなかった。

それよりもそんな具体的な事を一瞬でも考えてしまっている自分にびっくりして、それからがっかりもする。

「…梢ちゃん?」
「違うの、嫌なんじゃなくて、嬉しすぎて…」
「うん」

隠さずに言えば、身も心も、生活でさえも私は彼女の奴隷になりたいと、実の所けっこう本気で思っていたりする。
でも一度そんな事を口にしてしまったら、もう社会生活を送れないような気がしてしまって、その思考からは逃げ回っていた。

「…なんでそんな事、平気で言っちゃうの、晴香たんは」
「…平気で言ってる訳じゃないよ、意を決して言ったつもりだけど」

気持ちが高ぶってきて、思わず私はまた彼女の唇に吸い寄せられそうになった。
でも今行為を再開するのは、大切な事をはぐらかしてしまいそうで断念する。

「…梢ちゃんが、嫌々働いてる訳じゃないのも、わかるから…我儘言えないけど」
「…うん」
「…でも、それなら週末だけでもうちに泊まって、一緒にいて?…欲しいな」

最後の方は声がトーンダウンしていった。無理もない。
私はこれまで、あの旅行を除いてはこの部屋に二日も三日も入り浸る事は、極力しないようにして来たのだ。

何か超えてはいけないものを超えてしまいそうで、泊まってもできる限り一晩で留めるようにしてきている。

私のそういう行動には意味があるのだと彼女なりに理解していたはずが、あえて止めて欲しいと望んでいるから、自信がないのだろう。

…でも。
単純に、嬉しい。「奥さんになって」と言われた事はものすごく嬉しい。

「私、晴香たんの奥さんになるよ」
「…本当に?」
「でも…仕事はちょっと考えさせて」
「勿論」

それに彼女の大学卒業までは、とも付け加えたかったけど、この場で言うのは止めておいた。

奥さんになると言っても、言葉と気持ちの問題だけで、法律的にも手続き的にも、客観的には何も変わらない。
ただ私たちの間にそういう思いが取り交わされたというだけの事でしかない。

けれども私たちにとってそれはとても大切で、私たちの関係を大きく進展させるものなのだ。
人には伝わらないかもしれないけど。

「梢ちゃん」

彼女は私の左手を取り、手の甲に口づける。
そこはちょうど、薬指の付け根だった。
…冴子ちゃん達みたいな指輪はないけれど、私と彼女の心の中にだけそれはある。

「……」

私も彼女の左手の、薬指の付け根にキスをした。
そうしてなんとなく二人でくすくす笑い合ってしまう。
まるでベタな恋愛映画のワンシーンみたいで、急にみっともなく思えてしまって。

でも、そのまま再び唇同士を重ねれば、すぐに冷静さなど吹き飛んでしまう。

「ん、はぁ…っ」

彼女の唇と舌が私の鎖骨や胸の谷間を這い回る。
そうしながら「よろしくね、エッチな奥さん」などとおどけて言ってくるので、私は甘く喘ぎながら「うん」と笑顔で応じた。
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