お姉様に夢中なはずなのにその他の誘惑が多すぎます

那須野 紺

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壁の向こう側(みすずSIDE)

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二宮冴子との邂逅以後、私は彼女らの睦み合いの事ばかりを妄想してしまうようになり、むしろ彼女らと物理的な距離はある程度以上を保ちたいと思うようになった。
私のやましい妄想を、見抜かれてしまいそうだったから。

だが期せずして私は彼女らに接近してしまった。
外出の予定が立て込んでいる中で、ほんの少し社に戻り資料などをカバンに詰めている最中、どうしてもトイレに行きたくなり慌てて女子トイレへと向かったものの、なんとそこには人の列が。

時間に余裕のない私は、それまでにも緊急手段としてお世話になっている、役員フロアの女子トイレへと小走りで向かった。
あまり褒められた事ではないし他の人に真似されたら困るけれど、月に一度ぐらい、今日のようにどうしてもという時にだけはこうして使用させてもらっている。
当たり前だがいつもこのフロアの女子トイレは空いているのだ。

ただせめて、罪悪感もあって私はエレベーターを使わず非常階段を使って役員フロアへ上がるのが常となっていた。
非常階段から廊下へ出る扉を開けた所で、私は偶然にも例の二人--つまり目下の自慰のネタである所の松浦部長及び二宮冴子が、二人して女子トイレへと入る様を、彼女らの背後の位置から目撃したのである。

「……」

妙な雰囲気だった。
二宮冴子はまあ、秘書課のあるフロアのトイレなのだからここに入っておかしくはないけれど、松浦部長はおかしい気がする。
用があったにせよトイレに入るなら一人でいいはずなのだから。

示し合わせている?という予感を持って静かに二人を追うと、4つある個室のうちの一番奥の扉だけが閉まっていた。
二人で入っていったのに、である。

催していたはずの尿意が吹き飛び、私はうるさいぐらいに心臓が鼓動するのを感じた。
こういう場面での彼女らの交わりも、一度くらいは想像したからである。

私は気配を消して物音が立たないよう隣の個室に入り鍵をゆっくりとスライドさせた。
便器のフタは開けて、しかし服はそのままで便座にただ腰掛けてみる。
スマホの振動音もこの場所では響いてしまうので、できる限り服の内側にスマホを押し込んで電源を落とした。

その状態で必死に聞き耳を立てようとした時、それは唐突に、しかも案外と大きな音として私の耳に届いてきた。

「…ん、ふぅ」

舌と舌が擦れて奏でられる湿ったクチュリという音と、こらえているようではあるが甘い息継ぎ。
それに微かにだが衣擦れの音も聞こえる。

私は瞳を閉じて、隣の個室で繰り広げられているであろう光景をまぶたの内側に思い描く。
身体を擦り合わせて抱き合う二人と、顔を互いに斜めに傾けながら重なる唇、それにひっきりなしに絡まり合う舌と交換される唾液の様子。

どれもこれも非常に鮮明だし、きっと実際の様子はこれに限りなく近いだろうという確証さえ感じる。

二宮冴子は壁に押さえつけられながら、いやいやをするように首を左右に振って、甘く苦しい口づけから逃れたいのかそうでないのかわからないような態度を取って見せるのだ。
それを全てわかっているかのように、松浦部長は覆いかぶさり彼女を腕の檻に閉じ込めきつく抱きしめる。
場合によっては松浦部長の掌は二宮冴子の胸を揉んでいるかもしれない。

「……ぁ」

これは二宮冴子の喘ぎ声だろう。ほんのわずかにだが、声として聞き取れるそれはもう、何かを媚びねだるような卑猥な響きに満ちている。

なぜだか自分の膝も小刻みに震えてしまってちっともおさまらない。
とんでもない場面を立ち聞きしている緊張感と、実際その場面がたった一枚壁の向こう側で起きている事に興奮してしまって、息の仕方も忘れてしまった。

…彼女らは、こういう事をしょっちゅうしているのだろうか。
いや、松浦部長はそこまで暇ではあるまい。伝わってくる興奮度合からしても、慣れている感じはしなかった。

この、ディープキスにふける彼女らの気配だけでも十分すぎるぐらい濃厚なのに、私は更に耳を疑うような言葉を聞いてしまう。

「んっ、お姉、さまぁ…っ」

…お姉さま、って言った?
いましがた耳から入った音声を改めて反芻し、丁寧に脳内で処理しても、その言葉は「お姉さま」であった。

しかもそれに対して笑ったり咎めたりする反応がないという事は、二宮冴子は日常的に、二人だけの時には松浦部長をそう呼んでいるのだろう。

…なんといやらしいのか。顔立ちも体型もさほど似ている訳ではない相手に向かって「お姉さま」とは。

壁に何かが擦れるような音がして、荒く熱い呼吸音と、少し強めに何かを吸っているような物音が聞こえる。
…キスの感じが変わったのかもしれない。現に今この瞬間は二宮冴子の吐息が漏れてはいないからだ。

しかしその音はまた当初のものに似た、唾液を掻き回すような水音へと戻っていく。
隠し切れないもどかしいような吐息が時折漏れていて、それがかえっていやらしさを助長しているように思えてならなかった。

…凄い。
いや多分に私の願望が含まれてしまっているとは思うが、この二人の場合は現状、二宮冴子が「される」側なのであろう。
普段は徹底的にコントロールしているであろう松浦部長の女の側面が露わになっている今、彼女の欲望は真っすぐに二宮冴子の身体に向けられていて、むしろ余裕がないぐらいなのかもしれない。

態度こそ性急に、しかし身体の動きとしては緩慢に、むしろ逃げようと思えばあっさりと逃げ出す事のできるような力加減で二宮冴子の身体や腕は押さえつけられているのではないだろうか。
その試すような行為に二宮冴子は抵抗するどころか、もっと力強く自分を求めて欲しいと願い、小さく喘ぎながらもとろけ切った表情を存分に見せつけているに違いない。

…改めてさきほど、トイレに入る前の二人の姿をまぶたの裏に際限してみる。
二宮冴子は秘書課制服であるお馴染みの深いワインレッドの上着とタイトスカート、インナーは見えなかったがいつもと同じなら白いブラウスにリボンタイを着けているはずだ。ヌードカラーのストッキングに黒のローヒールパンプスを合わせていたと思う。
髪はほぼ下ろしているに近いが一応いつものハーフアップ、しかし髪質なのかよほど手入れしているのか、ずば抜けて艶を帯びてさらさらとしているのであれを見せつけるようなヘアスタイルはむしろ嫌味なぐらいに人の性欲を煽るようにしか思えない。

松浦部長の方は最近割と頻繁に見かけるチャコールグレーのスカートスーツで、こちらのインナーはかろうじてちらりと確認する事ができたがシンプルな黒のニット素材のような感じだった。
ストッキングは透け感の強いブラック、憎いと思うのがパンプスのカラーで、まるでスーツの色と揃えたようなチャコールグレーというのが渋い。

そう言う自分自身はと言えば、桜色に近い淡いピンクの、しかも下がミディ丈のフレアスカートのスーツを着用している。
だいぶ早いが春を先取りした気分でインナーもシフォンのフリルブラウスにしてみたが、どうも女の子っぽい感じが強くなり過ぎていやしないか気になっていた。
部下である佐藤さんからは「今日も素敵ですね」なんて言われたけど、あんなのは所詮社交辞令にすぎない。現にそんな風に私の服装にポジティブなコメントをくれたのは彼女一人だけだから。

そしていよいよ、服を脱がせているのか脱いでいるのか、と思われるカサカサと軽い衣擦れの音が聞こえてきた。
さきほどまで聞こえていた圧迫感のあるような物音とは明らかに違う、軽く小刻みな音である。

さすがにボタンやホックを弾く音までは聞き取る事ができないから、どこをどのようにはだけさせているのかは想像するより他にない。

私は履いているスカートの上から強く自身の股間を押さえ、しわが寄るのも構わずスカートを握り締めていた。

「……んくっ、ん」

水音が二つに増えた。新たに加わったものはごくごく小さく鈍い音。
…これは、二宮冴子の秘部に指が挿入された音に違いない。
そうでなければ、ごくごく小さな、指を模した性具でも突っ込んでいるかだろう。

「お、お姉さま…あんっ」

胸を吸われているのだろう。くぐもった下半身からの水音と、軽くチュパチュパというような吸引の音、そこに二宮冴子の喘ぎ声が重なっている。
しかし、喘ぎ声に対してすかさず「しーっ」と、これは松浦部長が咎めるように黙れと声をかけている。

「……んっ」

音量こそ下がったものの、トイレの壁一枚程度は簡単に通り抜けるその声は、しっかりと私の耳には届いている。

私は我慢できなくなり、どさくさに紛れてスカートの内側に手を差し入れウェストからショーツの中へと指先を潜り込ませていた。
微かに指先だけで肉芽をくすぐるように触りながら、再び隣室の光景を思い浮かべる。

実際はパンティストッキングを履いているかもしれないが、想像は自由であるから私は二宮冴子がガーターないしサスペンダーストッキングを履いてその上から極小のレースTバックショーツを履いている図を思い浮かべた。
彼女ならば白だろうが赤だろうが紫だろうが、どんなショーツだっていやらしく、美しく着こなせるであろうが、定番かつ卑猥さもある黒が、イメージするにはちょうど良い。

できれば、繊細で透けるレースが多く使われているものが私好みだが、実際はどうだろうか。
ショーツが黒ならガーターは白というのも悪くない。ショーツを脱がせた時一気に清楚な感じに印象が変わって新鮮かもしれないからだ。

松浦部長は二宮冴子のスカートをめくり、そんなレースの極小黒Tバックの脇から指を潜り込ませて二宮冴子の恥ずかしい秘筋に指を挿入しているのだろう。
のっけから激し目にそこを掻き回されて、二宮冴子の膝は震えているに違いない。

その証拠に、ヒールが床をこつりと突く音も、時折聞こえてくる。
もしかしたら片足を上げて盛大に股間を晒しているかもしれない。

「あんっ、あはぁ…っ」

甘い喘ぎ声は、何かに塞がれたようなくぐもった響きに変わった。
二宮冴子が自分の手で口元を押さえているのかもしれない。

「冴子…」

この声は相当に聞き取るのが困難だった。
おそらく本人の耳元でごくごく小さく囁いているのだろう。壁を通すとその声はもはやほぼ無音と言っても良いぐらい、風の音のように小さかった。

けれどもそう呼んだ後の、松浦部長のものと思われる呼吸音も、有声音こそ混じっていないが荒く激しくなっているようだった。
吐息に紛れて「んん」という声や何かをペロペロと舐めるような音もする。二宮冴子は相変わらず口を手で覆ったような感じで声を上げているから、これはきっと松浦部長が二宮冴子の耳か首筋辺りを舐めているのではないだろうか。

私の中では二人の位置はいつの間にか松浦部長がその腕の中に二宮冴子の身体を抱えるようにして、彼女の背後から指先では秘部を、唇では耳やうなじを攻めている光景がイメージされている。

事によると二宮冴子はブラを剥がされ乳首も露わに、挙句スカートをめくり上げられて秘部をいいように弄られているのだろう。

……私も、そんな風にされてみたい。二宮冴子ほどいやらしくは見えないかもしれないけれど。

「……」

私は頭を垂れて、聞こえてくる物音と自分の中の映像イメージにどんどん没入していった。
指先には肉芽しか触れていないはずなのに、どういうわけだかやたらとぬるついた液体が絡みついてくる。

私がこんなにもいやらしく、自慰ばかりしている女だという事を、この二人には知って欲しいと瞬間的に考えてしまう。
どうせこの二人だって、誰かに聞かれるかもしれないこのシチュエーションを愉しんでいるに決まってるのだから。
それを立ち聞きしているのがよりによってこの私なのだから、むしろそうと知って行為にふける方が興奮するのではないだろうか。

知らず自分の表情がにやりと笑んでいるのがわかる。
二人には私に立ち聞きされている高揚を与え、私はこの二人のしている行為そのものをオカズに自慰をして、まるで高め合っているみたいだと思ったから。

おそらくこの二人にも私にも、残された時間はそう長くない。
私はいつ、どのように私の存在がある事を--いや誰とわからなくても良いから、二人の行為は覗かれているのだという事をわからせてやろうか思考した。

どうせやるなら二宮冴子の達する直前が良い。
いきさつは知らないが、こんな所で隠れるように情交にふけっているのだから、二宮冴子の方からでも誘い水を出してここに来たのだろう。

「ひっ」というような悲鳴にも似たくぐもった声と、さすがにこれは明らかにばれるだろうと思われるレベルの、秘部への激しい指の出し入れの音が聞こえてくる。
もはや隠すつもりなどなくなったのだろうかと思うほどに、その水音はクチュクチュと高く大きく響き渡っていた。

そう、私が攻めている側なら今彼女には「イっちゃうの?」という冷ややかな囁きをくれてやるはずだ。
煮えたぎるような自分自身の性的な熱は放置するより他になく、やるなら今だという心の声に従い私はカラカラと音を立ててトイレットペーパーを引っ張り自分の指先をさっと拭ってトイレに流した。

「……」

面白い。
笑い出したくなるぐらい一瞬にして隣室の空気が凍り付いたのがわかる。
私はスカートを整えつつ鍵をガチャリとスライドさせ個室の外へと出る。

少なくとも今だけは情交の動きを止めているであろう個室の中の二人に向かい「大丈夫、私以外誰もおりません、ご馳走さまでした」と声をかけて私はヒールを鳴らしてトイレを後にした。

二人は私の声を知っているはずだから、名乗らずともこれだけで、誰に立ち聞きされていたのかわかるはずである。わかる程度の長いフレーズを私は喋った。

彼女らにとっては最も立ち聞きされたくない相手が居合わせた事を少なからずショックに思うのかもしれないが、それでも松浦部長の指は深く二宮冴子の秘部に挿入され、指の付け根や掌にまで二宮冴子の愛液がしたたり落ちているはずで、これでくすぶる淫熱をそのままに事を追えるなど、到底考えられない。

私が去った後の二人の情交を想像すると、それはきっと極度の緊張から開放された勢いによりさぞかし慌ただしく、そして昂りを伴い交わされている事だろうと容易に想像できる。

私は改めて、当初使うつもりだった営業部フロアの女子トイレに向かった。
驚いた事にほんの数分前には列ができていたのに、今は個室含めて誰の姿もない。
時計を確かめると、もうほとんど外出の時間が迫っているけれど、私だってこのまま客先へ向かう気はしなかった。

本来であれば15分前には現地へ到着するよう出発するのだけれど、時間を逆算してギリギリ5分前に到着するには問題ない時刻を頭の中だけで確認しつつ、そそくさと奥の個室へと歩を進めた。

こらえていた尿意と、さきほど立ち聞きしてしまったあの二人の情交とが身体と思考の全てを支配するように染めていく。

「…っ」

私はストッキングとショーツを勢いよく下ろして便座に座ると、あり得ないぐらいに脚を広げてその中央にある陰核と割れ目を指先で何度も擦った。

愛液なのか尿なのかわからない何かが、ボトボトと便器の中に落ちていく。

あ…イく、と思った瞬間、痙攣と共に本格的に失禁して私は身体の求めるままにその液体を放出していく。
開放感が異常に強く感じられてものすごく気持ちが良かった。

液体を出し切った所で尿意からは開放されたものの、下半身の奥の方からはまだくすぶるような熱が残り火のようにその存在を主張しているのを感じた。

…だがこの程度は仕事をするのに支障はない。
できればあの二人がどんな顔でトイレの個室から出てくるのか、そこも拝みたい所ではあったがそれは高望みだろう。

今夜の帰宅後、私はさきほどの事をネタに、また何度も自慰にふけるはずだ。
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