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赤子は泣き泣き育つ・・・らしい
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※※※
赤子は泣き泣き育つというが、この子は心配になるほどに泣かない静かな子だ。そう思っていたこともあったアレックスとマリアである。
彩雲が現れた日に誕生した娘アルバは確かに不思議な赤子であった。およそひと月前、まだ雪解けとはいかない初春の空に彩雲が現れ、まるで雲に虹がかかっているかのように見えた後、急に領主の館の庭の花々が一斉に咲き始めたのだ。
出産を終えたばかりのマリアは残念ながら見ることは叶わなかったが、アレックスはアルバが生まれた後に庭一面に咲き誇る草花を確かに見ていて、興奮しながらマリアに伝えにきたのだ。なお彩雲はアレックスも見逃したらしい。
今にして思えば、それが【夜明けの大魔女アルバ】の目覚めを知らせる天地の祝福だったのであろう。
小さな妖精たちによる領主の館の襲撃後、精霊たちの長い説教とともに聞かされたのは、おおよそ目の前の伝説となった存在達がなければ信じられない奇想天外な話であった。
彼らいわく、「この子は我々が知るアルバという魔法士の生まれ変わりの者だ」
両親であるアレックスとマリアからしてみれば、そんなことを急に言われても困惑を通り越して呆然自失となるだけだった。
ようやく意識を完全に取り戻して、からからに乾いた喉から声を発するアレックスである。
「確かにこの子の名前はアルバだが、生まれ変わりとは一体・・・?」
「「「 アルバ!? 」」」
次の瞬間、見事にドラゴンと四大精霊たちの大声がハモった。その声に腰を抜かしそうになるマリアである。
(あれ?アルバの名前伝えていなかったっけ???)
あとから名前について聞かれた小さな妖精たちがすっとぼけたことはいうまでもない。
※※※
小さな妖精たちはといえば、尋常でない数の仲間が半壊状態にした館を修復する作業に追われていたが、気になるのはアルバのギャン泣きである。
彼らがひと月の間こっそり覗き見していたとき、アルバは静かに寝ているか、またはマリアの腕の中で時折笑うこともあった。それが今は自分たちを強く拒絶するかのように泣き続けていたのである。
(アルバ、怒ってる・・・)
(アルバ、泣き止まない!)
(どうしよう?)
(アルバのお家、壊したから???)
(違う!アルバのママ傷つけたから・・・)
たとえ生まれたばかりで言葉が話せずとも、少女時代から長年傍にいた小さな妖精たちである。仲間を封印から解いてくれた紅い髪の少女は今も昔も彼らの<最愛>なのである。その<最愛>からの本気の拒絶は魂が震えるほどに怖く恐ろしくて、小さな妖精たちは口々に謝罪の言葉を発する。
((( ごめんなさい~~~!!! )))
小さな妖精たちは精霊たちの亜種であるが、妖力という精霊とは異なる力を宿していたため危険視されてしまい、精霊の加護を持つ大昔の賢者を名乗る魔法士によって、仲間の一人が祠の中に封印されてしまったのがすべての始まり。
封印は強力で長らくその小さな妖精は祠の中で退屈を持て余して過ごしていたが、アルバにより祠から出ることが叶った。そして小さな妖精は仲間に、「小さな善き人」がいると伝えたのだ。ついでに小さな妖精たちが大好きな楽しい存在そのものだとも。
だが<最愛>のアルバのギャン泣きは一向にやまず、泣き疲れて眠るまで続き・・・また起きてはギャン泣きするのである。
途方に暮れる小さな妖精たちは、また四大精霊たちに怒鳴られつつ領主の館の修復と館にかけられていた結界やセヴェルの町の結界の修復にと勤しむのであった。
※※※
およそ数時間かけて修復された領主の館は、まるで新築かのように小さな妖精たちによって磨き上げられ、館の中から救助された使用人たちは全員怪我したものも元通りになるどころか持病まで完治するという珍事がおきていた。
当然のごとく母親のマリアは真っ先に癒しの力を施されて、いち早く回復していた。破砕された窓ガラスによって体中に細かい切り傷がついていたのだ。白いドレスが所々血に染まっていて、軽傷とはいえない姿になっていた。
結界を破られた際に魔力の大半を持っていかれていたが、四大精霊たちがフォローに入ったこともあり、魔力量は以前より増えるというあり得ない事態も発生していた。
しかしアルバの怒りが収まることはなかった。
それだけアルバのギャン泣きは嘆きと怒りに満ちていた。
束の間の平穏を奪われたアルバにしてみれば、泣くだけがささやかな抵抗だったといえよう。
当然と言えば当然だが心配したアレックスとマリアが医者を呼ぶのは、また別のお話。
※※※
そして赤子の扱いなど分からないドラゴンの坊(ぼう)もまたハラハラ心配しながら庭先で『お行儀よく』お座りして、急遽張られた天幕の中のアルバを見守っていた。
セヴェルの町の住民と館の使用人たちというと、領主の館の庭先でチョコンと何時間もお座りポーズを続ける坊(ぼう)を前に怯えることをやめ、「ドラゴンって何を食べさせればよいの?」と餌の心配をしている者がいたりいなかったり、ある意味、大物ぞろいと言えた。
なおドラゴンの坊(ぼう)の好物は、アルバの作る手料理全てである。しいていえばアップルパイが一番お気に入りであった。精神年齢が仔竜の坊(ぼう)と変わらないことに後にアルバが嘆息したのも無理からぬことだった。
ただ四大精霊たちだけが、愉快そうに「赤子は泣き泣き育つというから、思い切り泣けばいい。」と笑っていた。
赤子は泣き泣き育つというが、この子は心配になるほどに泣かない静かな子だ。そう思っていたこともあったアレックスとマリアである。
彩雲が現れた日に誕生した娘アルバは確かに不思議な赤子であった。およそひと月前、まだ雪解けとはいかない初春の空に彩雲が現れ、まるで雲に虹がかかっているかのように見えた後、急に領主の館の庭の花々が一斉に咲き始めたのだ。
出産を終えたばかりのマリアは残念ながら見ることは叶わなかったが、アレックスはアルバが生まれた後に庭一面に咲き誇る草花を確かに見ていて、興奮しながらマリアに伝えにきたのだ。なお彩雲はアレックスも見逃したらしい。
今にして思えば、それが【夜明けの大魔女アルバ】の目覚めを知らせる天地の祝福だったのであろう。
小さな妖精たちによる領主の館の襲撃後、精霊たちの長い説教とともに聞かされたのは、おおよそ目の前の伝説となった存在達がなければ信じられない奇想天外な話であった。
彼らいわく、「この子は我々が知るアルバという魔法士の生まれ変わりの者だ」
両親であるアレックスとマリアからしてみれば、そんなことを急に言われても困惑を通り越して呆然自失となるだけだった。
ようやく意識を完全に取り戻して、からからに乾いた喉から声を発するアレックスである。
「確かにこの子の名前はアルバだが、生まれ変わりとは一体・・・?」
「「「 アルバ!? 」」」
次の瞬間、見事にドラゴンと四大精霊たちの大声がハモった。その声に腰を抜かしそうになるマリアである。
(あれ?アルバの名前伝えていなかったっけ???)
あとから名前について聞かれた小さな妖精たちがすっとぼけたことはいうまでもない。
※※※
小さな妖精たちはといえば、尋常でない数の仲間が半壊状態にした館を修復する作業に追われていたが、気になるのはアルバのギャン泣きである。
彼らがひと月の間こっそり覗き見していたとき、アルバは静かに寝ているか、またはマリアの腕の中で時折笑うこともあった。それが今は自分たちを強く拒絶するかのように泣き続けていたのである。
(アルバ、怒ってる・・・)
(アルバ、泣き止まない!)
(どうしよう?)
(アルバのお家、壊したから???)
(違う!アルバのママ傷つけたから・・・)
たとえ生まれたばかりで言葉が話せずとも、少女時代から長年傍にいた小さな妖精たちである。仲間を封印から解いてくれた紅い髪の少女は今も昔も彼らの<最愛>なのである。その<最愛>からの本気の拒絶は魂が震えるほどに怖く恐ろしくて、小さな妖精たちは口々に謝罪の言葉を発する。
((( ごめんなさい~~~!!! )))
小さな妖精たちは精霊たちの亜種であるが、妖力という精霊とは異なる力を宿していたため危険視されてしまい、精霊の加護を持つ大昔の賢者を名乗る魔法士によって、仲間の一人が祠の中に封印されてしまったのがすべての始まり。
封印は強力で長らくその小さな妖精は祠の中で退屈を持て余して過ごしていたが、アルバにより祠から出ることが叶った。そして小さな妖精は仲間に、「小さな善き人」がいると伝えたのだ。ついでに小さな妖精たちが大好きな楽しい存在そのものだとも。
だが<最愛>のアルバのギャン泣きは一向にやまず、泣き疲れて眠るまで続き・・・また起きてはギャン泣きするのである。
途方に暮れる小さな妖精たちは、また四大精霊たちに怒鳴られつつ領主の館の修復と館にかけられていた結界やセヴェルの町の結界の修復にと勤しむのであった。
※※※
およそ数時間かけて修復された領主の館は、まるで新築かのように小さな妖精たちによって磨き上げられ、館の中から救助された使用人たちは全員怪我したものも元通りになるどころか持病まで完治するという珍事がおきていた。
当然のごとく母親のマリアは真っ先に癒しの力を施されて、いち早く回復していた。破砕された窓ガラスによって体中に細かい切り傷がついていたのだ。白いドレスが所々血に染まっていて、軽傷とはいえない姿になっていた。
結界を破られた際に魔力の大半を持っていかれていたが、四大精霊たちがフォローに入ったこともあり、魔力量は以前より増えるというあり得ない事態も発生していた。
しかしアルバの怒りが収まることはなかった。
それだけアルバのギャン泣きは嘆きと怒りに満ちていた。
束の間の平穏を奪われたアルバにしてみれば、泣くだけがささやかな抵抗だったといえよう。
当然と言えば当然だが心配したアレックスとマリアが医者を呼ぶのは、また別のお話。
※※※
そして赤子の扱いなど分からないドラゴンの坊(ぼう)もまたハラハラ心配しながら庭先で『お行儀よく』お座りして、急遽張られた天幕の中のアルバを見守っていた。
セヴェルの町の住民と館の使用人たちというと、領主の館の庭先でチョコンと何時間もお座りポーズを続ける坊(ぼう)を前に怯えることをやめ、「ドラゴンって何を食べさせればよいの?」と餌の心配をしている者がいたりいなかったり、ある意味、大物ぞろいと言えた。
なおドラゴンの坊(ぼう)の好物は、アルバの作る手料理全てである。しいていえばアップルパイが一番お気に入りであった。精神年齢が仔竜の坊(ぼう)と変わらないことに後にアルバが嘆息したのも無理からぬことだった。
ただ四大精霊たちだけが、愉快そうに「赤子は泣き泣き育つというから、思い切り泣けばいい。」と笑っていた。
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