転生大魔女の祝福 〜そのチビっ子令嬢、最強につき〜

緋色のおと

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明日は明日の風が吹く・・・

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※※※

「ねぇ、オーブ。まだ起きてもいない未来のことを心配しても仕方がないから、成り行きに身を任せることも時には大切なのよ?」

かつてオーブより更に鮮やかな紅い髪を持った人は、先の心配事ばかり考えがちな弟子の自分にそんな話をしてくれたことがあった。


「明日は明日の風が吹くってね。」


そう口癖だった彼女が咲き誇る大輪の花のように笑う姿は今なお心から消えることはない。



※※※


「あれから三百年も経つのか・・・」

ずいぶん歳をとったものだと苦笑しつつ玉座の間にて呟くと、オーブの片腕にまで成長した実の娘でもある王宮魔法士団の団長シアが軽く首を傾げて不思議そうに声をかけてくる。

「おや、珍しい。陛下、考え事ですか?」

思えば、シアが自分を「母様」と呼ばなくなったのはいつからだったか?父親に似て癖のある短く刈り揃えた黒髪に紫と紺色のオッドアイを持つ娘を目を細めて眺めやる。

結局、長い人生を生きてきたがオーブの紅い髪に橙色と薄紅色というオッドアイは三人の子供たちには受け継がなかった。弟子であるマリウスは紅い髪の双子を授かったようだが。

「ちと師匠のことをな。思い出していたのじゃ。」

紫と紺色の瞳を瞬かせて遠慮がちに「それは大魔女アルバ様のことでしょうか?」と尋ね返してくるシアに、「そういえばシアには師匠のことを話したことがなかったのじゃ」と思い返す。

「ただの一度たりとも魔法でも剣でも勝てたことなどなくてな・・・。最期まで我ら弟子たちは師匠の首枷にしかならなかったのじゃ。」

それは自分を含める七賢人と呼ばれるもの全員に刻まれた悔恨という名の後悔の念。誰もが口に出さないだけで思っていただろう事実。

「まるで奇跡のように美しい人だったのじゃ。心も魂もな・・・」

オーブは語る。初めてアルバと出会った日のことを。

※※※

からからに乾いた痩せた大地。どこまでも続く広大な砂漠の中にわずかに残ったオアシスに囲まれポツンと存在する貧しい村。それがオーブの生まれ故郷だ。もう名前も思い出せないその村の唯一の教会に併設された小さな孤児院でオーブは育った。親の顔は知らない。

血のように紅い髪は不吉だと恐れられ、また常人と異なる橙色と薄紅色のオッドアイは見る者に恐怖の念を抱かせた。孤児院では話しかけてくるものもなく、オーブの世話をする者もいなかった。粗末なボロボロの薄汚れた服とわずかな食事ともいえない一日一食の不味い黒パンに具のないスープが出るだけという生活でよく生きていたものだと今更ながらに感心する。

ある年、日照りが続きとうとう村のオアシスが枯れ始めた時に村の誰かが言った。

「水の精霊様に生け贄を捧げよう」

「あの紅い髪の娘がよかろう」

水の精霊が清い心を好むのはよく知られたこと。本心は気持ち悪い忌み子を殺す大義名分が欲しかっただけだと今ならわかる。

そもそも水の精霊は人間の生け贄など欲しがらないし、むしろそのような真似をする人間を毛嫌いするのだ。

枯れ木のようにガリガリに痩せ細った幼いオーブに目隠しと白装束を着せ、縄で縛られてオアシスの前に作られた祭壇まで、村の大人たちに引きずられるようにして連れてこられたオーブは、その時初めて死を意識した。

恐怖に身を縮ませて、全身を震わせながらオーブは思った。

「あぁ、一度でよいからお腹いっぱい飯を食べたかった」と。

だが、運命はオーブを見捨ててはいなかったのだ。
冷たい刃がオーブの首にあてられる寸前、鈴を転がすかのような美しい声が辺りに響いた。

※※※

『その娘、要らぬというなら私が頂こう』

まるで雷に打たれたかのような衝撃とはこういうことを指すのかと、村人全てが一斉に跪くほどの圧倒的な何か。
美しい声だというのに聞くものに畏怖の念を抱かせる少女の声が耳に響く。

気づけば、他の村人と同じように地面に跪いたまま茫然と上空を見上げていた。目隠しが小さな妖精たちによって外されて、細い体を縛っていた縄が切られ自由の身になる。しかし、オーブは動けずにいた。

『精霊たちが騒いでいているから何事かと思えば、魔物よりたちの悪い醜い虫けらどもがいたわ』

精霊たちを周囲に侍らせて、宙に浮かぶその紅い髪の少女は侮蔑を込めた声音で村人に言った。

(この少女に逆らってはいけない)

そう本能が村人すべてに告げていた。

小さな妖精たちがくるくると踊るかのように少女の周りを包み込み、キラキラと輝く光を放って神秘的な光景を作り上げていたが、どんなに美しい光景であろうとも村人にとっては逆に美しすぎて恐怖でしかない。

そんな中、逆にオーブは不思議と恐怖が和らぐのを感じた。自分と同じ紅い髪を初めて見た驚きもある。だが、それ以上に、少女の瞳はまるで蒼天のごとく澄み渡る青い右目と豊かな緑を連想させる緑の左目。そう……オッドアイだったのだ。

オーブは今まで自分以外のオッドアイの人間を見たことも聞いたこともなかった。また紅い髪でも夜明け前の空を思わせる鮮やかで艶やかな髪は命の色をも彷彿とさせ、オーブとは全然違って見えた。


「天使様・・・?」

もしかして、人間ではないのだろうか?そう思い、教会に飾られていた天使の像を思い浮かべて口にしてみる。


次の瞬間、オーブの言葉を耳にしたその天使様はまるで大輪の花のように笑った。

誰もが見とれずにはいられない美しさで、その場を魅了してみせたのだ・・・。


『面白い。みんな、私は天使になったようだよ?』

精霊たちが同調するように愉快そうに笑い、小さな妖精たちは一層輝きを強める。


くすくすと楽し気に笑いオーブを見つめる瞳は優しくて、今思い出してもやはり美しいとしか言えなくて。

花のように微笑む記憶の中の彼女は圧倒的な魅力に満ちあふれていた。



※※※

それがアルバと最初の弟子となるオーブとの最初の出会いであった。

まさか、それからの長い人生を師弟として、またオーブにとって育ての親として過ごすことになるとは、アルバもそしてオーブも思いもしなかった。


オーブは語る。

「あれは『運命』だったのじゃ・・・」




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