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1章 1節 仲間と成長の時間 《ディスペア編》

第10話 実力テスト

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これから訓練が行われる、
ディスペア刑務所のグラウンドに案内された。

僕は辺りを見渡す。

グラウンドにはすでに何班か到着し各々体をほぐしたり、
取っ組みあったりしていた。



「ハイルは初訓練だけど大丈夫か?」

ぽんっと方に手を置きながら尋ねてくれたアルに大丈夫と告げる。


「整列!!」


声がする方を向くとキーパーさんが台の上に立っていた、
すぐに皆背筋を正し整列する。

「第2班」「5班」「9班」「11班」「16班」「17班」

「集合いたしました!!」

各隊長が声を上げる、それを聞いて満足したのか頷くキーパーさん。

「ああ、これから訓練を始める!今日は2班合同練習だ…と言いたいところだが」

キーパーさんと僕の視線が合い彼はにやりと笑みを浮かべる。

「まずは新人の実力を見ないと始まらないな」

キーパーは台の脇に置かれている樽の中から赤色の木剣を僕に投げ渡す。

「これは見ての通り赤色に染めた液体の中に木の剣を入れたものだ」

キーパーは剣を右腕に添えると赤い液体が腕に付着した。

「これを使い、1発でも相手に入れられたら勝ち、簡単だろう?」

「たしかに簡単ですね、ちなみに魔法は?」

「使ってもいいけど、あくまでも剣術の訓練一環で剣術の実力を知るのが目的だからね、剣で一撃当てるまでは終わらないよ?
俺は魔法を使わないから安心して」

余裕か慢心か慎重か魔法を使わないとキーパーさんは宣言する


(何を安心すればいいんですか…)



キーパーさんと僕は広い訓練場の中央で対峙する。

「何処からでもかかってきて」

キーパーは構えずただ立っているが、木剣を持ってから彼の纏う雰囲気が変化する、
温厚で優しそうな物から、
まるで獲物を見つけたような鋭いものに変わった。

そしてただたっているだけだが一切の隙は感じ取れず、
相当の実力者なのだと判断する。


(《身体強化ブースト》)


体にすぐに消えそうな淡い光の粒を少年は纏う。

少年は大地を踏み加速し正面から相手へ剣の突きの連撃を繰り出す。

(相手の実力が分からない以上、安易に踏み込みすぎるのは危険)

キーパーさんは体を横にズラし最小限の動きで次々と回避していく。

突きでは捉えられないと判断し攻撃を横のなぎ払いにチェンジするが
間合いから半歩後ろに下がり回避される。

そのまま次々と剣を振っていくがどれも当たる寸前で躱されてしまう、
傍から見れば、我武者羅に剣を振っている少年と退屈そうに回避している教官に見えるだろうか?
そうなら少年にとっては好都合だ。

その後も同じような攻撃を何度も繰り出すが一向に当たる気配はない、
変わったところと言えば少年の攻撃を回避するために徐々に後ろに下がっていくため足場が硬い地面ではなく、
凹凸が激しい地面に場所に変わったことだろうか。

1歩を大きく踏み出し剣を横薙ぎに振るう、
突然踏み込んできたので驚いたキーパーは距離を取ろうと後ろに高く後ろに飛ぶ。

それを逃さないように膝を曲げ、バネのように使い少年も高く飛ぶ、
一直線にキーパーへと向かい上段から下段への振り下ろしを決めるが剣を水平に構えられ、受け止められてしまう。

押し込もうと力を入れるが空中と言うこともあり、力が思った以上に入らない。


そのまま硬直した状態のまま両者とも地面へと着地するが。

相手より早く着地した少年は相手を中心に左回りに素早く背後に回り込み一撃を放つ…


がキーパーは剣を肩から後ろに回しそれを防ぐ、
少年は素早く後ろに飛び距離を離す。

「上空での真正面からの攻撃は囮、本命は降りてからの、相手が不安定な地面で安定して着地しようと意識をそちらにも回した隙を突き、
素早く回り込んだ後の背後からの攻撃、
なかなかに面白い攻撃方法だね、でも…」

今のお返しと言わんばかりにキーパーは目の前から消え少年の背後移動し剣を振るのを少年は振り向きながら剣を振り上げ、
剣どうしが当たる瞬間《身体強化ブースト》で更に腕力を強化しキーパーの剣を空へと打ち上げようとするが。

当たる寸前にキーパーが剣を引いたことによって力と力の正面衝突は避け少年の作戦は失敗する。

仕切り直し…と再び2人は互いに距離とった。

少年は肩で息をしながら呼吸を整え、キーパーは少年への認識を1段階上げた。

そして次に踏み込んだのはキーパーだった、
今まで受け身だった彼が初めて自分から攻めこんだのだ。
そして今度は体格も実力も上の相手に少年が受け身…いや防戦一方になる。

鳴り響く木と木がぶつかる音、対峙している2人そしてギャラリーさえも緊張の渦に飲み込まれていた。

「流石あの人の息子って言った方がいいかな?」

口元に笑みを浮かべながらも攻撃の手は緩めず少年に問いかけるキーパー、
言葉にも、剣捌きにも未だ疲れは見えない。


「…お父さんに比べたら…僕はまだまだです」

対する少年は既に息が耐え耐えになり喋るのも、
無理をしている状態だ。

手合わせを開始してから既に4分が経過していた。

その間2人は時に大きく動き、隙を見て相手の背後を取り、
動き続けている。

このままでは少年のスタミナ切れ、相手の攻撃に反応できなくて一撃を貰うだろう。

それを分かっていた少年は正面からの一撃を弾き、後ろに飛んで、右足を斜め前に、左足を斜め後ろ、
左手で柄に触れ、右手で剣をしっかり持つ《抜刀》の構えだ。

少年の限界、そしてこの一撃で決めようという意図に気がついたキーパーは名残おしそうな表情を浮かべたが、
受けて立つように両手で剣を握り構えた。

1歩を踏み出し賭ける少年、
辺りは静寂と期待に包まれながら2人を見守るギャラリー。

素早くキーパーに接近した少年は左足を地に固定しながら、右足を出しつつ体を右にひねりながら、抜刀する。

柄を持っていた左手が一瞬で熱くなるほどの摩擦を生み出す速さで剣が横薙ぎに振られる。

キーパーはそれを全力で受けようと剣を振ろうと頭上に持っていこうとするが、
少年の気迫に圧され一瞬動作が止まる、そして無理だと判断したのか今までと同じに後ろに飛んで回避する。



そして次の瞬間少年の持つ剣の切っ先がキーパーの左胸に当たっていた。

2人は互いに礼をしテストは終わる。

「参ったよ、君の勝ちだハイル」


「ありがとうございます」


ワアアアアアアアアアアアア

ギャラリーから歓声が上がった


「やったな!やったなハイル!!」

アルが背中をバシバシと叩き。

「あのテストでキーパーさんに勝った人は2人目だよ!すごいよハイル!」

まるで自分の事のようにタイガは嬉し涙を流した。

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