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1章 1節 仲間と成長の時間 《ディスペア編》

第13話 魔力の暴走

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机が弾け飛ぶ。
それと同時に1人の訓練生が吹き飛び教室の壁に叩きつけらた。

それを見てパニックになる者、教室から逃げ出す者、立ちすくむ者。

「みんな落ち着いて!!急がないでゆっくりここから逃げて!」

ルカ教官が落ち着かせようとするが伝染した恐怖、簡単には祓う事はできない。

叫び、座り込む訓練生、訓練生の少年元凶を中心に教室の壁際に避難する。



「ルカ教官…たす…けて」

今にも消え入りそうな声で助けを訴える魔族の生徒、
その生徒の周りで大きな魔力の流れが黒く渦巻いている。

おそらく魔力の制御に失敗し《暴走崩壊》しているのだろう、
例えるならホースで水を流しているのに何故かホースがつまり水が流れていない状況だ
ホースが水の量に耐えきれず破裂しようとしている。
元々魔力が多い魔族と言うこともあり暴走した時の破壊力は凄まじい、
子供でも村程度なら簡単に消滅させられるだろう。

そんな爆弾のような存在がそこに存在している。


『おいタイガ、あれ不味くないか?』

『不味いですねこのままだと、ここら一体吹き飛びますよ』


背後でアルとタイガが小声で話している。


「落ち着いて、落ち着かなければ操れる魔力も操れないわ」

「怖いよルカ教官タスケテ…キエタクナイ」

暴走訓練生の身体は渦の中心に浮き皮膚が徐々に黒く始める、
渦の流れは激しさを増し、風を生み出す。
彼の身体ごと魔力の渦に飲み込まれようとしていた、
このままでは破裂し消滅するのも時間の問題だ。

「大丈夫絶対に私が助けるから、だから落ち着いて…ね?」

だが渦は収まる気配はなく更に大きく拡大し始めている。


『ハイル、早く逃げるぞ!?』

立ち止まり渦の方を見ているハイルの手をアルが引っ張る。

『逃げるったって、何処に逃げても間に合わないよ。』

『ならどうするんだよ』

『行ってくる』

「待てって!」

アルの手を振り払い再び教室の中に1歩を踏み出す。

暴走し渦の中に飲み込まれたまだ名も知らぬ訓練生。

『タスケテ』

口元の動きで何を言っているか理解する、
既に身体は渦に飲み込まれ中で身体はどうなっているか分からない辛うじて伸ばした手が少年の方を向く。
彼は無意識に手を伸ばし、更に偶然で少年の方に手が向いたのだけだろう。
だがハイルは自分に助けを求めていると感じた。
渦の流れは既に暴風に近い、何かに捕まらなければ立つことすら困難だ。

そんな中で少年は渦に向けて歩みを進める。

「おいハイル何やってんだ!?」

追いかけてきたのだろう、アルの声が聞こえるがハイルには届かなかった。

1歩1歩確実に歩みを進める。

そして道を塞ぐように立つ壁。


「ハイル君今すぐ逃げなさい、今魔術結界を張ってるから」


ルカ教官はハイルの肩をつかみながら真剣な表情で言い聞かせるように発言する。
魔術結界という言葉がハイルの頭で反響した。


そして瞬時に理解する教官は既に手遅れだと判断し、
個を捨て、他を守る事を優先したのだと。

手を振り払うように身体を大きく揺らす、
だが《身体強化ブースト》すら使っていない身体では、
相手が女性でも大人と子供では力の差がある。

その時前方で魔力の鼓動が始まる、
ドクンドクンとまるで心臓のように魔力の膨張と収縮が交互に繰り返される。
これが始まったという事は破裂が近い。

ハイルは足の力を抜き崩れるようにしゃがみこむ、
肩に手を置き力を入れていた教官は均衡する力が急に無くなったのと渦の暴風で体勢が崩れそうになった。

(強くなるってどういう事かまだちょっとわからばいけど。
彼の名前を知らなくても、力に振り回されるいるなら、
自分の意思ではないのなら僕は助けたい、笑顔を守る為に行動したい。
僕にできるなら助けたいんだ
…だからちょっとくらい無理してもいいよね?)

とそこに居ない"誰か"に向けてハイルは心の中で思う。

渦の真正面にたどり着いた少年は心臓の上に手を置く、トクントクンと規則正しく動いている自分の心臓、
…そして確かに感じる暖かい繋がり。

胸に当てた手をゆっくりと渦の方へ持っていく。

(自分の力が怖いんだよね?大丈夫僕が食べてあげるから、君の恐怖を魔力を喰らうから、だからもう大丈夫だよ)

「全部僕が食べるから、もう大丈夫だよ」


少年の言葉と同時にピタっと渦が止まり静けさが教室を包み込む。

黒い渦が晴れ地面に倒れる魔族の少年、
そしてハイルもまた地面に倒れてしまう。


「ハイル君!?」

教官が駆け寄り抱き抱える、荒い呼吸と発熱。
《魔力切れ》だ。

「いますぐ医務室に連れていくわ」

ハイルと暴走した魔族の訓練生は医務室へと連れていかれた。
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