上 下
14 / 32
1章 1節 仲間と成長の時間 《ディスペア編》

第14話 医務室

しおりを挟む
「…?」

目が冷めると見覚えのない白い天井だった。

「起きたのかい?」

横には目元には隈ができ気だるそうな表情をし、
白い服を羽織った女性が本を片手に僕を見下ろしていた。

「ここは?」

「ここは医務室、怪我人や倒れた人を看病する部屋だよ、
君は《魔力切れ》で倒れたんだ」


魔力切れ、その単語と共に意識を失う前の記憶を思い返す。


たしかにあの間力の渦を消滅させるために魔力をほとんど放出した気がする。
いや、放出したと言うよりかは無理やり持っていかれたと言う方が正しいだろう。

頭では徐々に魔力を身体から出し渦と同量くらいになるまで調節するつもりだったが、
まるで渦と引かれ合うように魔力が一気に持っていかれた。

「あの子は助かったんですか?」

名も知らぬ訓練生の事を聞く。


「ああ命は無事だ、だが魔力の消費が激しかったせいでまだ目を覚ましていない」

「そうですか、良かった…」

命が助かったと聞いて安堵し、自分の行動が無駄ではなかったと確信する。

「…普通なら魔力切れになったら、身体が不足分の魔力を生成するまで数日は目を覚まさないはずなのだが」



寝ている状態から身体を起こす。


「あまり無理すると体に響くよ?」


「いえ、魔力切れは慣れてますから大丈夫です」


「慣れてるって、君は消滅仕掛けたんだよ?」

魔族の体は約8割が魔力によって生成され維持されている、
故に魔力を消費すればする程、自身の存在が薄くなって行き。
魔力切れが起きた上で更に魔力を無理やり使おうとすると自身の身体ごと消滅する。

つまり暴走した子も僕も消滅するギリギリを踏み留まったという事だ。


「これくらいなら大丈夫です、今は何時ですか?」


窓から見える魔界の空は赤い、どんな時でも変化せず、時間を測ることもできない。


「今は最後の訓練が終わる頃だ…
たしか君の班の2人が訓練が終わったら来ると言っていたな」

その言葉と同時に勢いよく扉が開けられる。

突如鳴り響いた大きな音にビクッと肩を震わせながら開かれた扉の方を見ると、
アルとタイガが心配そうな目でこちらを見ていた。

「やあ、訓練お疲れ様」

心配そうに駆け寄る2人。

「体調は大丈夫なの!?」

「ちょっと身体が重いけど、大丈夫だよ」


ベットから降り飛び跳ねてみる。


「ふむ…まあいいとりあえず本人が大丈夫だと言っているから今回は目を瞑るが、何かあったら直ぐに医務室に来るんだぞ?
それとそこの2人はこいつに何かあったら直ぐに運ぶか連絡するように、いいな?」


「「「はい、分かりました」」」

一礼し医務室を出る。


自分以外誰も居なくなった部屋で女医は机の上に置かれた、紙を眺める。

(血液良好、目立った外傷もなし、体に細かな切り傷のようなものはあったが、ここディスペアに来る前の物だろう、親からの虐待か?

彼の表情から伺うことは出来ないが可能性は否定できない、経過観察が必要か。

しかし魔力切れを起こした筈なのにたった数時間で目覚めるものなの?
あの魔王ですら2日寝込んだ。

となれば数時間で目覚め、なおかつ動ける彼は何者だ?

それに現場をたどり着いた時、ルカは何が起こったのかわからない用な表情をしていたが、
キーパーは思い当たる節があるように現場残った魔力を探っていた。

奴は何を隠している?

所長とその補佐である奴にしか知らない情報を持っているのは確実だ。

そうでなければ2ヶ月ズレたこの時期にここディスペアに入る事は断る筈だ…

少し探る必要があるな。

それよりも…)


白き少年が寝ていた隣、カーテンで仕切られベットの上に四肢を鎖で繋がれた、
今回の騒動の元凶の方を見る。


(魔力が暴走し制御しきれず囚われた元凶だった魔族の少年、
魔族以外の種族ならまだしも身体の作りからして魔力の扱いに長けた魔族が、
扱いが初めてだとは言え暴走させるか?

作為的な何かなのか?

考えすぎか、悪い癖だな)


女医は再び《薬剤書》に目を通し始める。
ベットに寝かされている彼がこの後どうなるのかを。
    
しおりを挟む

処理中です...