今さら泣いても遅いですよ

阿里

文字の大きさ
6 / 8

6

夜会の華やかな音楽が止まり、会場はまるでお墓のように静まり返っていました。床にへたり込んだミラベルと、ガタガタと膝を震わせるエドワード様。その二人を、ゼノス様は冷たい氷のような瞳で見下ろしていました。

「……さて、エドワード王子。君がエルサを『無能』と呼び、追い出したその身勝手さが、どれほどの罪を招いたか自覚しているか? 君が遊興費のために手を出した公金の流れ、すべて調べさせてもらったぞ」

ゼノス様が合図をすると、彼の手下と思われる黒い服の男たちが、分厚い書類の束を持って現れました。その書類が国王陛下の前に差し出されると、陛下の手が怒りでわななき始めました。

「これは……! エドワード、お前、通商路の整備予算を、ミラベル嬢への宝石代に回していたというのか!? さらにはエルサ嬢が管理していた帳簿を改ざんし、彼女にすべての責任をなすりつけようとした形跡まである……!」

「ち、違います父上! それは全部エルサが勝手にやったことで、私は何も知りません! あいつが私を陥れるために嘘の数字を書いたんです!」

エドワード様は必死に叫びましたが、その声は虚しく響くだけでした。私は一歩前に出て、震える声を抑えながらはっきりと告げました。

「エドワード様、それは無理な言い分です。あなたが宝石店に支払った領収書の日付と、私が地下室に閉じ込められていた期間を照らし合わせれば、すぐに分かります。私はあの時、ペンを持つことすら許されず、食事も与えられていませんでした。それなのに、どうやって私が帳簿を操作できるのですか?」

「そ、それは……お前が魔法か何かで……」

「魔法など使えません。それに、ミラベル。あなたが私のお茶に、少しずつ毒を混ぜていたことも分かっているのよ。体調を崩させて、私が執務室に行けないように仕向けていたわね? その毒を買った裏ルートの証拠も、ゼノス様がすべて押さえています」

私がそう言うと、ミラベルは顔を真っ赤にして、まるで獣のような声を上げました。

「お姉様のくせに生意気よ! あんたなんて、ただの残り物なのよ! お父様もお母様も、あんたがいなくなれば清々するって言ってたわ! 死ねばよかったのよ、雨の中でそのまま消えちゃえばよかったのに!」

ミラベルの醜い叫びが会場に響き渡り、周囲の貴族たちは一斉に軽蔑の視線を彼女に向けました。これまで「おいたわしい義妹」を演じていた彼女の化けの皮が、完全に剥がれた瞬間でした。

「黙れ、この愚か者めが!」

国王陛下の怒号が、雷のように落ちました。陛下は震える指でエドワード様とミラベルを指差しました。

「エドワード、お前を第一王子の座から廃し、王位継承権を剥奪する。今すぐこの場から連れ出し、地下牢へ繋げ! そしてローラン伯爵家……お前たち一家も、平民に落とし、全財産を没収する。エルサ嬢に対する長年の虐待と汚職の罪、一生をかけて償うがいい!」

「そんな! 父上、お助けください! 私は王子なんです!」

「嫌よ、平民なんて嫌! お姉様、助けて! ごめんなさい、私たちが悪かったわ、だから許して!」

衛兵たちに両腕を掴まれた二人は、みっともなく泣き叫びながらエルサに縋り付こうとしました。でも、ゼノス様が私の前に立ちはだかり、彼らの接近を許しませんでした。

「……さようなら、エドワード様。ミラベル。あなたたちが私に強いた絶望を、これからは自分たちで味わってください。もう私は、あなたたちのために涙を流すことはありません」

私が冷たく言い放つと、二人はずるずると床を引きずられながら、会場の外へと連れ去られていきました。

重い扉が閉まる音が、彼らのわめき声を遮断しました。私はふっと肩の力が抜けるのを感じ、隣にいるゼノス様の服の袖をぎゅっと掴みました。

「……終わったよ、エルサ。君を縛っていた鎖は、もうどこにもない」

ゼノス様が私の耳元で優しく囁きました。彼の腕に支えられながら、私は初めて、心からの自由を感じていました。

あなたにおすすめの小説

とある公爵の奥方になって、ざまぁする件

ぴぴみ
恋愛
転生してざまぁする。 後日談もあり。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

告白の重さ〜王太子に選ばれた代償〜

肺魚
恋愛
王太子に告白された放課後。 それは、恋が叶った瞬間のはずだった。 ——だが翌日、王太子はその地位を失う。 理由を求めて訪ねた元婚約者クインティーナから告げられたのは、抗うことのできない“血の宿命”。 恋を選んだ代償に、彼が失ったものとは——。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

わざわざ証拠まで用意してくれたみたいなのですが、それ、私じゃないですよね?

ここあ
恋愛
「ヴァレリアン!この場をもって、宣言しようではないか!俺はお前と婚約破棄をさせていただく!」 ダンスパーティの途中、伯爵令嬢の私・ヴァレリアンは、侯爵家のオランジェレス様に婚約破棄を言い渡されてしまった。 一体どういう理由でなのかしらね? あるいは、きちんと証拠もお揃いなのかしら。 そう思っていたヴァレリアンだが…。 ※誤字脱字等あるかもしれません! ※設定はゆるふわです。 ※題名やサブタイトルの言葉がそのまま出てくるとは限りません。 ※現代の文明のようなものが混じっていますが、ファンタジーの物語なのでご了承ください。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。