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夜会の華やかな音楽が止まり、会場はまるでお墓のように静まり返っていました。床にへたり込んだミラベルと、ガタガタと膝を震わせるエドワード様。その二人を、ゼノス様は冷たい氷のような瞳で見下ろしていました。
「……さて、エドワード王子。君がエルサを『無能』と呼び、追い出したその身勝手さが、どれほどの罪を招いたか自覚しているか? 君が遊興費のために手を出した公金の流れ、すべて調べさせてもらったぞ」
ゼノス様が合図をすると、彼の手下と思われる黒い服の男たちが、分厚い書類の束を持って現れました。その書類が国王陛下の前に差し出されると、陛下の手が怒りでわななき始めました。
「これは……! エドワード、お前、通商路の整備予算を、ミラベル嬢への宝石代に回していたというのか!? さらにはエルサ嬢が管理していた帳簿を改ざんし、彼女にすべての責任をなすりつけようとした形跡まである……!」
「ち、違います父上! それは全部エルサが勝手にやったことで、私は何も知りません! あいつが私を陥れるために嘘の数字を書いたんです!」
エドワード様は必死に叫びましたが、その声は虚しく響くだけでした。私は一歩前に出て、震える声を抑えながらはっきりと告げました。
「エドワード様、それは無理な言い分です。あなたが宝石店に支払った領収書の日付と、私が地下室に閉じ込められていた期間を照らし合わせれば、すぐに分かります。私はあの時、ペンを持つことすら許されず、食事も与えられていませんでした。それなのに、どうやって私が帳簿を操作できるのですか?」
「そ、それは……お前が魔法か何かで……」
「魔法など使えません。それに、ミラベル。あなたが私のお茶に、少しずつ毒を混ぜていたことも分かっているのよ。体調を崩させて、私が執務室に行けないように仕向けていたわね? その毒を買った裏ルートの証拠も、ゼノス様がすべて押さえています」
私がそう言うと、ミラベルは顔を真っ赤にして、まるで獣のような声を上げました。
「お姉様のくせに生意気よ! あんたなんて、ただの残り物なのよ! お父様もお母様も、あんたがいなくなれば清々するって言ってたわ! 死ねばよかったのよ、雨の中でそのまま消えちゃえばよかったのに!」
ミラベルの醜い叫びが会場に響き渡り、周囲の貴族たちは一斉に軽蔑の視線を彼女に向けました。これまで「おいたわしい義妹」を演じていた彼女の化けの皮が、完全に剥がれた瞬間でした。
「黙れ、この愚か者めが!」
国王陛下の怒号が、雷のように落ちました。陛下は震える指でエドワード様とミラベルを指差しました。
「エドワード、お前を第一王子の座から廃し、王位継承権を剥奪する。今すぐこの場から連れ出し、地下牢へ繋げ! そしてローラン伯爵家……お前たち一家も、平民に落とし、全財産を没収する。エルサ嬢に対する長年の虐待と汚職の罪、一生をかけて償うがいい!」
「そんな! 父上、お助けください! 私は王子なんです!」
「嫌よ、平民なんて嫌! お姉様、助けて! ごめんなさい、私たちが悪かったわ、だから許して!」
衛兵たちに両腕を掴まれた二人は、みっともなく泣き叫びながらエルサに縋り付こうとしました。でも、ゼノス様が私の前に立ちはだかり、彼らの接近を許しませんでした。
「……さようなら、エドワード様。ミラベル。あなたたちが私に強いた絶望を、これからは自分たちで味わってください。もう私は、あなたたちのために涙を流すことはありません」
私が冷たく言い放つと、二人はずるずると床を引きずられながら、会場の外へと連れ去られていきました。
重い扉が閉まる音が、彼らのわめき声を遮断しました。私はふっと肩の力が抜けるのを感じ、隣にいるゼノス様の服の袖をぎゅっと掴みました。
「……終わったよ、エルサ。君を縛っていた鎖は、もうどこにもない」
ゼノス様が私の耳元で優しく囁きました。彼の腕に支えられながら、私は初めて、心からの自由を感じていました。
「……さて、エドワード王子。君がエルサを『無能』と呼び、追い出したその身勝手さが、どれほどの罪を招いたか自覚しているか? 君が遊興費のために手を出した公金の流れ、すべて調べさせてもらったぞ」
ゼノス様が合図をすると、彼の手下と思われる黒い服の男たちが、分厚い書類の束を持って現れました。その書類が国王陛下の前に差し出されると、陛下の手が怒りでわななき始めました。
「これは……! エドワード、お前、通商路の整備予算を、ミラベル嬢への宝石代に回していたというのか!? さらにはエルサ嬢が管理していた帳簿を改ざんし、彼女にすべての責任をなすりつけようとした形跡まである……!」
「ち、違います父上! それは全部エルサが勝手にやったことで、私は何も知りません! あいつが私を陥れるために嘘の数字を書いたんです!」
エドワード様は必死に叫びましたが、その声は虚しく響くだけでした。私は一歩前に出て、震える声を抑えながらはっきりと告げました。
「エドワード様、それは無理な言い分です。あなたが宝石店に支払った領収書の日付と、私が地下室に閉じ込められていた期間を照らし合わせれば、すぐに分かります。私はあの時、ペンを持つことすら許されず、食事も与えられていませんでした。それなのに、どうやって私が帳簿を操作できるのですか?」
「そ、それは……お前が魔法か何かで……」
「魔法など使えません。それに、ミラベル。あなたが私のお茶に、少しずつ毒を混ぜていたことも分かっているのよ。体調を崩させて、私が執務室に行けないように仕向けていたわね? その毒を買った裏ルートの証拠も、ゼノス様がすべて押さえています」
私がそう言うと、ミラベルは顔を真っ赤にして、まるで獣のような声を上げました。
「お姉様のくせに生意気よ! あんたなんて、ただの残り物なのよ! お父様もお母様も、あんたがいなくなれば清々するって言ってたわ! 死ねばよかったのよ、雨の中でそのまま消えちゃえばよかったのに!」
ミラベルの醜い叫びが会場に響き渡り、周囲の貴族たちは一斉に軽蔑の視線を彼女に向けました。これまで「おいたわしい義妹」を演じていた彼女の化けの皮が、完全に剥がれた瞬間でした。
「黙れ、この愚か者めが!」
国王陛下の怒号が、雷のように落ちました。陛下は震える指でエドワード様とミラベルを指差しました。
「エドワード、お前を第一王子の座から廃し、王位継承権を剥奪する。今すぐこの場から連れ出し、地下牢へ繋げ! そしてローラン伯爵家……お前たち一家も、平民に落とし、全財産を没収する。エルサ嬢に対する長年の虐待と汚職の罪、一生をかけて償うがいい!」
「そんな! 父上、お助けください! 私は王子なんです!」
「嫌よ、平民なんて嫌! お姉様、助けて! ごめんなさい、私たちが悪かったわ、だから許して!」
衛兵たちに両腕を掴まれた二人は、みっともなく泣き叫びながらエルサに縋り付こうとしました。でも、ゼノス様が私の前に立ちはだかり、彼らの接近を許しませんでした。
「……さようなら、エドワード様。ミラベル。あなたたちが私に強いた絶望を、これからは自分たちで味わってください。もう私は、あなたたちのために涙を流すことはありません」
私が冷たく言い放つと、二人はずるずると床を引きずられながら、会場の外へと連れ去られていきました。
重い扉が閉まる音が、彼らのわめき声を遮断しました。私はふっと肩の力が抜けるのを感じ、隣にいるゼノス様の服の袖をぎゅっと掴みました。
「……終わったよ、エルサ。君を縛っていた鎖は、もうどこにもない」
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