王太子様が突然の溺愛宣言 ―侍女から王妃候補へ―

有賀冬馬

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その日、王宮はいつもよりずっと華やかだった。
広い大広間には、色とりどりのドレスや豪華な服を着た貴族たちが集まり、音楽が響きわたっている。
舞踏会の日は、王宮での大イベントのひとつで、招かれた者は皆、最高の笑顔と礼儀正しさを身にまとっている。

でも、私の胸の中はドキドキでいっぱいだった。
なぜなら、舞踏会は私にとって試練の日だからだ。

「リーゼ様、大丈夫ですか?」
侍女のクララが私の手を優しく握ってくれた。

「ありがとう、クララ。怖いけれど、負けない」
私は鏡の前で深呼吸をし、ゆっくりとドレスの裾を整えた。
今日は王太子アデリック様と一緒に登場しなければならない。

ドレスは薄い水色で、繊細なレースが裾にあしらわれている。
普段は簡単な侍女服ばかりだった私にとって、この華やかな装いはまるで別世界のようだった。
でも、王太子の婚約者として、私はここで堂々としなければならない。



舞踏会が始まると、会場は人で溢れた。
私は王太子様の腕にそっと手を添えて歩いた。
彼の隣にいることは、私にとって誇りであり、安心感だった。

しかし、そこに集まった貴族令嬢たちの冷たい視線が私を包み込んだ。
カミラをはじめ、かつて私に嫌がらせをした令嬢たちが笑顔の裏に悪意を隠しながら、じっと私を見ていた。

「王太子様のお相手がこんな女でいいのかしら?」
そんなささやきが耳に入った。

「でも、あの侍女、どこからこんなに急に地位を得たの?」

私はその言葉に胸が締めつけられたけれど、顔には決して出さなかった。
心の中で「私は、私の道を行く」と強く誓った。



舞踏会の中心にある大きなステージで、王太子様が挨拶を始めた。
その声は堂々としていて、誰もが彼に注目した。

「皆様にご報告があります」
彼は私を見つめ、少し微笑んだ。

「リーゼは、私の婚約者です。彼女は誠実で、優しく、そして強い女性です」

その言葉に、私は胸が熱くなり、顔が熱くなるのを感じた。
周囲のざわめきが一瞬で静まったのを感じた。



でも、舞踏会の空気は急に変わった。

カミラが高らかに笑い声を上げ、周囲を引き連れて近づいてきた。

「まあ、王太子様も驚きね。あの侍女がそんなにお似合いだなんて」
彼女の言葉には皮肉と嘲笑がたっぷり込められていた。

「ところで、リーゼ。あなたに関する興味深いお話を皆様に披露しましょうか?」

会場の空気が一層重くなった。
私は強くなければと思い、冷静に答えた。

「何のことでしょう?」

カミラは嘲笑いながら、声を張り上げた。

「リーゼが王太子様の元に行ったのは、ただの計算だって噂よ。
侍女時代に秘密の手紙を盗んで、それを武器に彼に近づいたとか」

その言葉に、会場はざわついた。
周囲の人々の顔が私を疑うように向いた。

私は心臓が激しく鼓動するのを感じたけれど、声を震わせずに答えた。

「それは事実ではありません。私が王太子様の信頼を得たのは、私の誠実さと努力によるものです」



すると、王太子様が私のそばに来て、穏やかに声をかけた。

「皆さん、噂や嘘に惑わされてはいけません。僕はリーゼを信じています。彼女は僕の婚約者であり、未来の王妃です」

彼の強い言葉に、私は涙がこみ上げた。
それは、私にとって最高の守りだった。



舞踏会の終わりに、私は一人静かな庭へ出た。
星空の下、深く息をつくと、クララが静かに近づいてきた。

「リーゼ様、よく頑張りました」
彼女の瞳には誇りがあった。

「ありがとう、クララ。私はまだまだこれからだね」
私は空を見上げて、未来への希望を胸に抱いた。



その晩、部屋に戻ると、手紙が置かれていた。
差出人は匿名だった。

「あなたの秘密は、すぐに暴かれる」

私は手紙を握りしめ、決意を新たにした。

「私は負けない。どんなに嘘や陰謀があっても、真実は必ず勝つ」

心の中で強く誓い、私は眠りについた。









舞踏会が終わって数日後、私は毎日、心がざわざわと落ち着かない日々を送っていた。
あの夜の嘘の暴露は、私の心に大きな影を落としていた。
けれど、それ以上に、王太子様が私を信じてくれたことが私の支えだった。

朝の光が窓から差し込むと、私はいつものように目を覚ました。
けれど、心は重く、布団の中でしばらく動けなかった。

「リーゼ、大丈夫?」
クララの優しい声が聞こえた。

「うん、大丈夫」
そう答えて起き上がると、鏡に映る自分の顔がなんだか疲れているのを見た。

でも、これからも戦いは続く。
私は逃げられないことを知っていた。



その日、私は王宮の書斎で王太子様と話をしていた。

「リーゼ、君が強いことは知っている。だが、時には力を抜いてもいいんだよ」
彼は穏やかに微笑み、私の手を握った。

「ありがとうございます。アデリック様」
私は小さく頭を下げた。

「君は本当に私の光だ。君がいるから、僕はどんな困難でも乗り越えられる」

その言葉に私は胸が熱くなり、涙がこぼれそうになった。
「私もアデリック様のそばにいる限り、負けない」
そう心に誓った。



しかし、王宮の闇は深かった。
私を陥れようとする陰謀は静かに、そして確実に進んでいた。

ある日、侍女のクララが慌てて私の部屋に飛び込んできた。

「リーゼ様!大変です。あのカミラがまた何か企んでいるみたいです」

「どういうこと?」

「王宮の秘密会議で、あなたの悪評を広める計画を練っているそうです」

その言葉に私は心臓が強く打つのを感じた。
でも、怯えている暇はなかった。

「ありがとう、クララ。私たちは絶対に負けない」



夜になると、私は王太子様と秘密の話し合いをした。

「リーゼ、君の敵は強い。でも、僕も負けてはいられない」
彼は真剣な表情で私を見つめた。

「私たちには真実がある。だから、嘘や陰謀に負けるわけにはいかない」

その言葉に私の胸は熱くなった。
「一緒に戦いましょう、アデリック様」



次の日、王宮で開かれた秘密会議は緊迫した空気に包まれていた。

カミラと彼女の仲間たちが私を陥れようと証拠もない噂をまき散らしていた。
だが、その中で、王太子様が冷静に立ち上がった。

「証拠もなく人を非難するのはよくない」
彼の強い声に、会議室は静まり返った。

「リーゼの潔白は、私が保証します」

それを聞いた皆の顔が変わった。
カミラは怒りに震えていたけれど、もう声を出せなかった。



私はその夜、静かな部屋で星空を見上げた。

「真実は必ず勝つ」
そう信じて、私は深呼吸を繰り返した。

辛くても、負けても、私はここまで来た。
これからも強く生きていくと誓った。

そして、数日後。

王太子様が正式に私を婚約者として公に発表した。
その時、私は皆の視線を集めたけれど、恐れることはなかった。

「リーゼ、君はこれからも僕のそばにいてほしい」
彼の言葉に、私はうなずいた。

「はい、アデリック様」

私は初めて心の底から笑った。

この戦いはまだ続くけれど、私は一人じゃない。
そして、どんなに陰謀があっても、真実は必ず光を放つ。

私の未来は、ここから始まるのだ。









私はもう、黙って耐えるだけの存在じゃない。
あの日、王太子アデリックが私の元へ来てくれてから、すべてが変わった。
「お前がいないと息ができない」と、彼は涙を流しながら告げた。
その言葉が胸に深く刺さり、私の心は燃えたぎった。

でも、あの頃の私はまだ怖かった。
嫌がらせに耐えかねて職を辞め、下宿先で一人泣いた夜もあった。
しかし、今は違う。
私は王太子の婚約者。
かつて私を虐げた貴族令嬢たちは私の前で震えている。



舞踏会のあの日以来、私は王宮での居場所を少しずつ取り戻していた。
それは決して簡単なことじゃなかった。
貴族たちの冷たい視線、陰口、そして嘲笑。
それでも、私は負けなかった。

「リーゼ様、あのカミラ様がまた動いているようです」
侍女のクララが緊張した顔で知らせてくれた。

「何を企んでいるの?」
私は目を鋭くして答えた。

「私たちに対する陰謀を計画しているようです。王太子様を巻き込んだ嘘の噂も出回っているとか」

その言葉に、私は怒りで体が震えた。
でも、同時に復讐の炎も燃え始めていた。



王宮の広間で、私はアデリックの隣に立っていた。
彼の腕に触れると、不思議な安心感が広がった。
「リーゼ、怖がらなくていい。僕がついている」
彼の声は優しく、確かなものだった。

私はその言葉を胸に刻み、冷静に敵と向き合うことを決めた。

「皆様、嘘に惑わされてはいけません。私の言葉を聞いてください」
私は堂々と声をあげた。



その日、王宮の会議室で行われた集会は熱気に包まれていた。
カミラが嘲笑いながら、私への悪評を広めようとしていた。
「彼女はただの侍女だったくせに、王太子様を騙しているのよ!」
彼女の声は鋭く、周囲を巻き込んでいた。

私は静かに、しかし力強く答えた。
「私は誰かを騙したことはありません。私が王太子様に認められたのは、誠実さと努力の結果です」

その言葉に、周りは一瞬静まり返った。



すると、王太子アデリックが立ち上がり、力強く宣言した。
「リーゼは僕の婚約者だ。彼女を信じてくれ」

何度目かのやりとり。

初めて怒りを含んだ王太子の言葉に、会場の空気が変わった。
カミラは怒りで震えたが、もう言い返せなかった。

私はその場で心の底から笑った。
復讐は始まったばかりだ。



それから数日後、貴族たちの間で次々と不正が暴かれた。
カミラの家系も、財産の不正操作が明らかになり、一気に地位を失った。



その夜、王太子様と私は星空の下、手を取り合った。
「君がいなければ、僕は何もできない」
彼は私を強く抱きしめ、私の頬に優しくキスをした。

私は彼の温もりを感じながら、心から幸せを噛みしめた。
これからもずっと、彼のそばで守りたい。



そうして私は、ただの侍女だった頃の自分を振り返った。
苦しかった日々、涙を流した夜、そして今。
すべてが意味を持っている。


これからも、私は王太子様と共に歩む。
どんな困難があっても、決して揺るがない。

私の未来は、輝いている。
それが、今、確かに感じられた。




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